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奇跡への軌跡  作者: act.
1stChapter 「HellowWorld」
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act.015

風邪が治らないぃぃ!

「聞けば、灯馬様は明日より王国が管理するアルミス学園で教員に赴任し、個人で講義を開くと聞き及んでおります。そこで一から改めて学ばせていただきたいのです」


それを聞いて誰もが驚いていたが、一番驚いたのはルフィルであろうか。


瞳孔まで開ききったような眼でエラントを見詰めていた。


その様子を知ってか知らずか雫は一度灯馬に視線を向け、再びエラントとルフィルの二人に視線を戻し口を開いた。


「そうですね、それは認めましょう」


雫のその言葉を聞いて灯馬は内心溜息をついた。


「しかし、それだけでは軽すぎるでしょうね」


「はい・・・」


エラントも雫の言葉を事前に予想していたのか、重々しくありながら返事をした。


「ルフィル・ケープナ!」


「はっ!」


突然、雫に名前を呼ばれルフィルは慌てて姿勢を正した。


「貴方は今年で学園を卒業する身ですが卒業するまで灯馬の下にて勉学に励みなさい。他の教科は受けなくて構いません。それと現在、あなたが得ている称号『ヘキサゴン・プライド』は一時没収いたします。今回の罰に関する異議がある場合は、まず貴方の過去の行いを思い出してください。それでも尚、理由がわからない場合は貴方の父親に問いなさい」




―――ヘキサゴン・プライド。


トライアングル、スクウェア、ペンタゴンなど学生が持てる称号の一つで、その最高峰に位置する。


年に一度その試験が学生を対象に行われ、ルフィルは去年のその試験に受かっていた。


トライアングルで百人に一人。


スクウェアで千人に一人。


ペンタゴンで五千人に一人。


そしてヘキサゴンで一万人に一人受かれば良いと言われているほど、高く狭き門の試験であった。


故にトライアングルを受かれば一種のエリートコースはほぼ約束され、ほとんどの学生は学園での勉学と同時にこの試験に受かる為に日々勤しんでいる。


ルフィルに関して言えば幼い頃から神童と謳われその才能を遺憾なく発揮し将来、エラント家の家督を継ぐと言われているほどだった。


故に将来の七騎士の最有力候補と言われ、周囲からチヤホヤされた結果がこの歪んだ性格を生み出したのではないか?と言うのが、灯馬と雫の結論だった。



が、真実を知る事はできない。


話を戻そう・・・。




「はっ・・・謹んでお受けいたします」


雫にそう言われ、ルフィルは納得いかない顔で・・・それでも陛下の前であるが故に、必死に平静を保とうとした顔で返事をした。




「最後に『藍』新団長ヴォルフ・マーガレット、前へ」


「はっ!」


雫に呼ばれ、大会議場に響いたのはまだ若い女性の声だった。


すかさずエラントとルフィルは今で居た場所を入れ替わりでヴォルフに譲っていた。


灯馬は彼女の姿を見るのはこの場で初めてであった。


最初に目がついたのはその見事な白髪・・・いや、銀髪。


大会議場に差し込む太陽の光が、彼女の髪をキラキラと輝かせていた。


顔立ちと相まって、一つ見間違えればどこぞの国の王女様をも淘汰するレベルだった。




「今回、貴女をも罪に問う事はもちろん致しません」


「はっ、ありがとうございます!」


「ですが『藍』団長に新任早々申し訳ありませんが、仕事を与えます」


「なんなりと・・・」


ヴォルフにそう問い返され一瞬雫はルフィルに視線を向けまた直ぐに視線を戻し、口を開いた。


「今回のように貴族など勝手な言い分で、横暴を働いている者が居るかもしれません・・・いえ、きっと居るでしょう。ですから、それらを全て書類にまとめて私に提出してください。新たにそれらの行動を取っている場合、即刻投獄して構いません」


「一つ宜しいでしょうか?」


「なんでしょう?」


「大変失礼な発言ですが、それはどこまで(・・・・)調べ上げれば宜しいでしょうか?」


「ああ、それは私の甥の灯馬をも範疇に含めて良いか?そういう事ですか?」


「はっ!」


「ええ、もちろん構いません」


「了解いたしました」


「家督を獲ている者の不正などが判明した場合はまた別途、私か監査部に報告してください」


「はっ!」


「以上です」


その言葉を合図にヴォルフも所定の位置に戻り、雫は改めて口を開いた。




「他の誰かがやっているから良い。オレは偉いから何をやっても良い。そんな甘い考えはこの王国で上に立つ者には一切許されません。それが腐敗の第一歩になるのですから・・・皆さん心新たに王国の為に尽力を尽くしてください」


「「「はっ!」」」


そう言うと次々と大会議場に居た者が一礼して退室していった。


最後に残ったのはやはり、灯馬と雫だった。




「やれやれ、偉く面倒な事を押し付けてくれましたね」


そう苦渋しつつ言ったのは灯馬だった。


「やりがいを与えただけですよ・・・二、三年後までのんびり過ごしてもらっては困りますからね」


「ばれてますか」


「ええ、バッチリと」


そう言って二人は笑いあった。


「しかし、彼・・・ルフィル君の素質は素晴らしいですね」


「ええ、エラントさんも才能に溢れた息子を産んで鼻高らかでしょうが、手放しすぎましたね」


「ええ・・・」


そして、雫は立ち上がり灯馬に向き直って言葉を続けた。


「明日から教師として学園に行くわけですが、緊張していませんか?」


「よして下さいよ、子供じゃあるまいし」


「いえいえ、私にとって貴方は弟であり息子でもあるわけですから・・・」


「はは、じゃせめて弥彦にそれを言ってあげてください」


「後で言いに行きましょうかね?」


「ええ、あいつ喜ぶと思います」


そう再び二人は笑いあったが、不意に雫の顔が真剣な物に変わった。


「弥彦君に力を受け継ぐつもりですか?」


「どうでしょうかね・・・誰もが落ちる『闇』を踏破できればですが」


「そう・・・では、貴方に何があったのですか?」


「・・・」


雫に問われ、灯馬の目が鋭い物へ変わった。

そして彼女はそれを見て核心を得た。

「久しぶりに貴方の姿を見たあの時、私は・・・」


「それ以上言わないでくれませんか?昔は昔です」


「しかし人は過去無くして今を生きれません。過去に依存する人も居ますが、灯馬は違うのですか?」


「・・・」


「瑪瑙お姉様には敵いませんが、私も灯馬の味方の一人のつもりです」


「・・・」


「良ければ話してくださいませんか?」


慈愛に満ちた声で雫がそう言うと、灯馬の頬に一筋の涙が流れ落ちた。


「最愛の人と親友をこの手で殺しました・・・」


「っ!」


一つの涙が作った道を次々と新しい涙が通り過ぎていく。


「殺し・・・たく、なかった・・・」


漏れ出る声を押し殺し灯馬は泣き続けた。


そんな灯馬を見て雫はそっと灯馬を優しく抱きしめ、


「辛かったでしょう・・・」


そう灯馬の耳元で囁き雫は昔、瑪瑙に言われた言葉を思い出した。




―――人々は知らない。自分がいかに細く、脆い糸の上を日々歩いているか。




貴方が歩いている道はもう崩れ落ちたのですか?


ならば私がお姉様の変わりに貴方の新しい道を作りましょう。


どこへ行くのかは貴方が決めるのです、灯馬。






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