act.014
入院していた為、更新が遅れました。過労で風邪が悪化して職場でぶっ倒れていました。
「此度は私の息子が大変無礼を働きました・・・」
そう言い深々と頭を下げるのは『緑』の名を冠するエラント・ケープナだった。
「この罰はいかようにも・・・場合によっては七騎士『緑』の名を返上する覚悟でございます」
灯馬と、目の前で深く頭を下げるエラントの息子ルフィルに一方的な力を見せつけてから2日が経っていた。
灯馬の素性を知らない警備隊は貴族に暴力を働いたという事でその場で灯馬を捉え投獄し相手が灯馬だと知らなかったエラントは激怒し息子を傷つけた者を「死刑だ!」と叫び、自ら手を下そうと牢獄まで赴いたが、灯馬の存在を知り慌てて謝罪をし始めた。
事情を知らなかったとは言え投獄した警備隊やそれを管轄する『藍』にまで責任問題を唱える者が現れてしまい、それを収拾すべく主だった者を全員、雫が王城の大会議場に呼び寄せた。
エラントの謝罪の言葉を聞き、最初に口を開いたのは雫だった。
「エラント・ケープナ」
「はっ!」
エラントは名を呼ばれ、慌てて姿勢を正した。
「此度の件ですが、不問と致します。ただ、貴方の息子への教育は問いたださなくてはいけませんかね」
「・・・」
エラントは不問と聞き内心ホッとしたが、やはり自分の息子への追求は止められなかった事に舌打ちをしたくなった。
「貴族がそんなに偉いのか・・・この王国に住む者だけに留まらず、貴族が存在している国では誰もが思っていることでしょう」
「・・・はい」
「貴族も・・・そして私達王族も彼ら民の上に立つ者ですが、民無くして国は成り立ちません。それは理解しておりますね?」
「・・・はい」
「貴方の息子、ルフィルの日頃の行動を調べさせて頂きました」
「・・・っ!」
「決して良き見本になれるとは言えませんね・・・」
「申し訳・・・ございません」
再びエラントは頭を深く下げた。
平民へのいわれの無い暴行。
無銭飲食。
などなど・・・エラント・ケープナの存在があったせいか、それらの罪が表に立つことは無かったが、それらはちゃんと記録、保管され残っていたために雫が事前に目を通しておいたのだった。
「なので貴方にでは無く、貴方の息子に罪を問います」
「・・・謹んでお受けいたします」
頭を下げ表情は伺えないが、きっとその顔は苦渋に満ちているのだろう。
だがそれを気にする素振も見せない雫は言葉を続けた。
「では、ルフィル・ケープナをこの場に呼んでください」
その言葉を合図に衛兵の一人が大会議場から退室し、数分後にルフィルと共に入場した。
誰もエラントの家庭事情まで口を出すつもりは無い。
ルフィルも一人の大人と考えた上で、判断を下そうと考えていたのであった。
「ルフィル・ケープナ参上致しました」
声だけを聞くと自信に満ち溢れている様子だったが、反面、顔は青みがかっており自身のやった過ちが公になった事への不安が目に見えていた。
ルフィルが父親であるエラントの隣に並び頭を下げるのを確認した雫は再び口を開いた。
「貴方がルフィル・ケープナですね?」
「はい、私がルフィル・ケープナです」
何時ぞやの傲慢な態度を一切見せないルフィルを見て灯馬は、上に対する礼儀だけはしっかり覚えているのだと舌を巻いた。
「今回貴方を呼んだ理由はお解りですか?」
雫は声を荒げる様子もなく、ただ淡々と問いかけた。
「・・・私がそちらにいらっしゃいます、陛下の甥を傷つけようとした件で御座いましょうか・・・」
「いいえ、それは違いますよ。彼の存在は極一部の者しか知りえませんでしたし、彼は力を持つ者・・・降りかかった火の粉を一人で振り払うことは造作もありません」
「では・・・」
なんだ?と、そう言いたかったのだろうか?
ルフィルはそれ以外に呼ばれる理由は無いと目が語っていた。
―――本当に自覚が無いのか?
灯馬や雫を含め周囲の者は一様に思った。
隣に居るエラントでさえ、自分の息子の愚かさを改めて認識したのであった。
「そうですか・・・貴方は・・・」
雫は何かを言いかけ途中で止め黙り込んでしまったのであった。
「宜しいでしょうか?」
一瞬の沈黙を破ったのは、今までルフィルの隣で傍観を決めていたエラントだった。
「なんですか?」
「私の息子はまだ己の愚かさに気が付いておりません」
「そのようですね・・・」
その時初めて雫は無表情だった顔を崩し、少し苦渋を浮かべた。
「ですので、陛下や私が言った所でまた同じ過ちを繰り返す可能性が高いと思われる為、陛下の甥である灯馬様に教育を任せても宜しいでしょうか?」
エラントのあまりにも唐突な発言に誰もが驚いた瞬間だった。
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