memory.001
ここ一週間が勝負時。
―――バンッ!
「姉上、私は反対です!」
ノックも無く扉を開け、入るなり早足で瑪瑙の傍により近くの机に掌を叩き、いきなり反対し始めたのは雫だった。
「世界中で忽然と消失した都市の原因・・・いえ、彼の行方を追っています」
「・・・」
「何故・・・何故ですか!何故、彼を養子に向かいいれたのですか?」
「・・・」
「彼の存在がバレれば、いくら姉上でもただじゃ済みませんよ?」
「・・・」
「っっ!!!」
雫がいくら攻め立てようにも、瑪瑙はただ微笑み雫の言葉を聞いていた。
埒が明かない・・・。と雫はまた怒りを増しそうなのをグッと堪え、心を落ち着かせた。
その様子を見て、瑪瑙はようやく口を開いた。
「彼を私の後継者にしようと考えています」
「えっ?!」
突然の発言に呆気にとられ、雫は頭が真っ白になった。
「こ・・・こうけいしゃ?」
「そう、後継者です」
「え・・・?」
「既に私の元に集っている後継者候補は明後日をもって破門とします」
その言葉を聞いてようやく雫は自我を取り戻し、先ほど抑えた怒りをまた爆発させた。
「バカな事をおっしゃらないでください!!!」
「はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・」
それから数分あまり雫は瑪瑙に対してまくし立てた。
息は切れ切れになり、
「姉上・・・よくお考えください。今の門下生達は組織から送られた貴重な人材ばかり・・・そこら辺から拾って来たのでは無いのですよ?」
「解っています。でも、彼らに一つだけ言える事があります」
「・・・?」
「彼らには私の後継者たる資格がありません。そして貴方にも・・・」
「承知の上です。しかし、それで黙っているほど彼らもお人よしではないはずです!」
「ええ・・・ですから、力を証明すれば良いのでしょう?」
瑪瑙の挑発的な発言に雫は言葉を詰まらせた。
と同時に瑪瑙の揺ぎ無い固い意志を感じてしまい、次の言葉が出なかった。
「明後日、修練場で彼と門下生全員で戦って頂きましょうか・・・」
「無茶な!」
「無茶でもやらないといけないでしょう?」
「・・・」
「それでも尚、意義を唱える者は私が直接お相手いたしましょう」
『奇跡の魔法使い』として世界の頂点に君臨する瑪瑙。
その門下生達も日々、瑪瑙の頂に辿り着こうと必死に修練に励む彼らに生半可な相手ではまず負ける事はないであろう。
だが何故だろう?
ここまで自信に満ち、見方によっては過信に溢れている瑪瑙を見て雫はなんとも言えない気分になった。
「雫・・・」
「はい、姉上」
「いつもごめんなさいね・・・でも、貴方が居たから私は自分の力に溺れることはなかった」
その言葉を聞いて不意に雫の目に涙が溜まっていた。
「貴方が居たから私はここに居る・・・いつも苦労かけてしまって・・・」
そう言って瑪瑙は一呼吸置き。
「今までありがとう。そしてこれからも頼みますね?」
その言葉を聞いて雫は何かを悟ったのだろうか。
溢れた涙が頬をつたい始めた。
そして方膝を付き、
「大丈夫です、姉上。この心は常に姉上と共に・・・」
血の繋がった家族であるからこそ出来る誓い。
そして忠誠。
「神咲家現頭首、神咲雫の名に置いて神咲瑪瑙・・・貴女に付き従います」
そう締めくくったのであった。
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