another.002
スロットに手を出してしまったorz
王城で働いてもう2年になるだろうか。
近い内に正式に『白』に昇格するマリア様の紹介で、侍女として働かせて頂いている。
侍女と言っても陛下やご客人の身の回りの世話だけに留まらなかった。
王城に来て最初の半年は食器の洗い方やシーツの変え方ではなく、戦闘訓練だった。
―――灰色。
国民や、一般兵士には知られていない秘密組織。
『灰燼』という二つ名を持つ団長を筆頭に、王城で働く全ての侍女がこの組織に属している。
今から約百五十年前、敵国に王都まで攻め上られた時の反省を踏まえて設立されたらしいが、下っ端の私には知らなくて良い事だった。
何も攻めてくるのは大量の兵士だけではない。
日々、陛下のお命を狙う暗殺者にもまた注意しなければならい。
お部屋直しの際の些細な環境変化や、いつの間にか侍女として紛れるスパイや暗殺者・・・見慣れぬ者を確認した際は全て上に報告する事が義務付けられている。
そして極め付けは機密漏洩の為に特殊な魔法を頭と舌に施され機密を話せないようにする徹底ぶりであった。
それ故に組織の存在を外部に漏らすことなく存在し続けている。
魔法によって物質の固定・分解が使える私は武器を主立って携帯する必要は無く、服の裏に鉈の鉄の粒子を付着させ常に行動している。
血反吐を吐くほどの訓練の成果で大抵の敵を倒せる自負はあった。
が、いざそれに直面すると訓練だけでは覆せない物も出てくる。
どんな勇者や英雄と呼ばれる者全てが経験しているであろう初めての実戦。
それが陛下のご客人である灯馬様と弥彦様の前で経験するとは思わなかった。
しかも、私の父を傷つけられ頭に血が上った末に無様に負ける事になるとは・・・。
「大丈夫、安心して!仇は師匠が取ってくれるから!」
途切れ途切れの意識の中、直接頭の中に語りかけてくるような声の主は弥彦様だった。
「申し訳ございません・・・私のせいで・・・」
「今日は謝ってばっかりだね?気にしなくて良いのに。それより自分の心配してよ!」
困った表情を浮かべる弥彦様に私は次の言葉が話せないで居た。
「始まるよ・・・あのボンクラ貴族じゃ師匠に傷一つ負わせる事はできないだろうけど」
そう言う弥彦様から灯馬様に視線を移す。
あの貴族も只者ではないはずなのに、灯馬様の余裕の表情を見てなぜか安堵が浮かぶ。
しかし、安堵と一緒に違和感も浮かぶ。
何か・・・何かを見逃しているような・・・。
灯馬様とまだ名も知らぬ貴族を注意して見てみると、ようやく今回自分がやってしまった本当の失態が判った。
あの貴族の名はルフィル・ケープナ。
七騎士『緑』の名を冠し、王国貴族や総合商会の筆頭であるエラント・ケープナ様のご子息だった。
「戦ってはいけ・・・うぅ・・・」
自分が招いた戦いを止めさせようと立ち上がろうとしたが、痛みでそれが出来なかった。
―――なんとかしないと!
その思いが通じたのか、戦いの様子を見ていた弥彦様が口を開いた。
「大丈夫・・・そこら辺も含めて師匠は戦っているから心配しなくて良いよ?」
「え・・・?」
心を読んだ?
問いかけようとしたが、そこで第三者の介入によって言葉は阻まれた。
「警備隊である!何事だ!!?」
ご意見、ご完走をお待ちしております。






