act.012
三人で王城の前にそびえる門をくぐり出て、最初に口を開いたのはノココだった。
「では、どちらから行きたいですか?」
「そうですね・・・弥彦、どこかあるか?」
「う~ん、お腹が空いたので何か食べたいです!」
「でしたら、こちらに・・・」
ノココが二人を促しつつ、歩を進めた。
三人が出た場所は王都の中でも特に活気がある大通りで『プリズムロード』と言われていた。
王都には主に四つの区画と四つの大通りに別れおり、区画はそれぞれ商業区、工業区、居住区、魔法区と呼ばれ、そして王城から正確に東西南北に真っ直ぐに伸びる四つの大通りがあった。
灯馬達が居る場所はその内の北に面する道だった。
そこは主に商業区が管理する場所であり、旅行者や交易目的で来たであろう商人などでごった返していた。
東は工業区。
南は居住区。
西は魔法区となっているらしく、数十年前に広大な土地にバラバラに存在していた店や家を一気に整備したらしい。
その結果、綺麗に区画として別けられ人々は特に反対するわけでもなく、むしろそうした方が効率が良いと判断し指示に従った。
「最後に来た時とはだいぶ様変わりしたなぁ~」
そんな灯馬の言葉にノココは返答した。
「なにせここは、世界の中心に位置すると謳われる街ですからね、自ずと人が集まってくるのです。国境からここに来るまでの道のりは、申請さえすれば無償で兵士が護衛として王都まで着いてきてくれますから。その為にここ数十年は盗賊や魔物の被害にあったという者は一切現れておりません」
「凄いな・・・それは・・・」
「ええ、全て陛下の計らいです。自分の国で人が死に、嘆くのは嫌だとおっしゃいまして、七騎士様の協力もあり実現いたしました」
言うのは簡単だが、実際それを実現できうる国はここを置いて他にはないであろう・・・。
少しでもお金を取れるなら、それを実行した方が色々と都合が利く。
だがそれをやらないという事は王国の知名度を利用し、旅路を安心してやってくる旅行者や商人が更に多くなり、黙っていても税金が自ずと増える。
先を見越した物だろうか?
そんな事を灯馬は考えていた。
あまつさえ「あの人ならやりかねないな・・・」
と呟きノココの後を追った。
「何か食べたい物はありますか?」
「「オススメの物で!」」
「・・・」
ノココは予想打にしない言葉に一瞬顔を引きつらせたが、気を取り直して
「では、私がいつも行っているお店で宜しいでしょうか?」
「「うん」」
似たもの同士なんだろうか?とノココは内心呟いた。
そして歩く事、数十分が経過しても未だに到着しそうに無い様子を見て、最初に不満を漏らしたのは弥彦だった。
「ま、まだ着かないの?疲れた・・・」
「申し訳ありません、やはり馬車を用意すれば良かったでしょうか?」
「いや大丈夫だ。弥彦そんな事を言っていると、今後色々と苦労するぞ?」
そう言われ、シュンとした表情を浮かべていた。
「う・・・ごめんなさい」
「本来なら既に到着しているんですが、大通りはこれからお祭りが開催されまして、はぐれる可能性を無くする為に遠回りをしていました」
申し訳無さそうに語るノココだったが、それならそれで早く言って欲しかった!と二人をそんな事を思っていた。
「しかし何の祭りなんだ?」
「来週開かれる武術大会と、再来週に開かれる『白』認定大会です」
「開催するのが早すぎないか?」
「本来ならそう思うでしょうが、この街に住む人は基本祭り好きなので・・・それにエントリーする為に先週から世界各地の武芸者や魔法使いが集まって居ますので、早めに開催して多く儲けようとしているらしいです」
とノココは苦渋を浮かべていた。
「ふ~ん・・・まあ暇があったら見に行こうかな・・・」
と灯馬は言い、弥彦はすかさず「ボクも一緒に見に行きたいです!」と言っていた。
その後も街を眺めながら歩き続け、ようやく目的の場所に到着するらしく
「あそこの店です。お肉料理がとても美味しいんですよ~!」
とノココが笑顔で店の前で手を大きく広げ紹介していたが、その直後、店の中から轟音と共に一人の人間が灯馬に向かって吹っ飛んできた。
すかさず灯馬はまだ見知らぬ人物を受け止め「おい、大丈夫か?」と声をかけたが、完全に意識を失っていた。
「お父さん?!」
ノココが慌てて駆け寄り、ボロボロになった父親の様態を確認し始めた。
「誰がこんな事を?!」
と発狂しかかりそうなノココを灯馬が落ち着かせて、先ほどから店の出口に悠然と立つ人物に視線を送った。
「貴族のボクに、なんて不味い物を食わせてくれたんだ!」
その言葉を合図にノココは視線を一層厳しくさせ、その人物を見据えた。
「貴方がやったのですか!」
「そうだよ?知り合いが美味しいと言っていたもので来てみれば、とんだハズレだったな」
完全に人を見下した態度に灯馬や弥彦はイラッしたが、目の前で既に激怒するノココを見て軽く冷や汗をかいた。
「貴方・・・死んでください・・・」
とノココはドスの聞いた声を出し、
「はっ!やってみろ・・・先にボクがお前を殺してやるよ!」
と未だに人を見下す態度を崩さない貴族が言い放った。
突然始まった戦闘に、周囲の人達は慌てて避難し始めた。
「師匠ちょっとやばいんじゃ?」
「よく気がついたな。しかし、ノココがキレるとあーなるのか・・・」
「ノココも強いけど、あのボンクラの方がまだ強い・・・」
「ああ、まぁやばくなったら止めに入るか」
「ボクも手伝います」
そんな会話をしつつ、視線を向けるはノココと名も知らぬ貴族。
灯馬の顔は、結局晴れる事はなかった。
正確な悪役像が思い浮かばない!
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