act.007
仕事先で上司や同僚、後輩の半数が風邪で休むという・・・
それぞれ色を持つ者が七名。
その七名の中心に座するは現王国女王、雫だった。
「―――先日の帝国の奇襲作戦は『紫』の間諜部隊の報告のお陰で、こちらの被害は最小限で留め、あちらには多大な被害を与える事に成功しました。あちらの援軍や兵糧の輸送状態を考えると、ここ数週間以内には我等が王国から帝国を一掃できると思われます。報告は以上です」
聞いた雫が一つ頷き、
「ご苦労であったブロッケン・・・引き続きぬかりが無いように頼みます。あちらもいよいよ何かしらの最終手段を講じてくるでしょうから・・・そして、アルフも良くぞやってくれました」
「「勿体無きお言葉・・・」」
「他に報告はありますか?」
「・・・」
雫は一同を見回し、名乗り出る者が居ない事を確認したのち次の議題に移った。
「無いようなら、私から貴方達に言わねばならぬ事が二つあります」
そう言って一旦区切り、話を続けた。
「一つ目は『藍』の騎士団長マリアが明日を持って『白』に異動し新設の白薔薇近衛騎士団団長を冠します。だいぶ前から白薔薇近衛騎士団団長を名乗らせていますから皆知っていますね? そして後任はヴォルフ・マーガレットが就任する事になります。まだ若輩であるため皆の助力が必要になるでしょう・・・手を貸してあげてください。次の軍儀から彼は出席します」
「はっ!」
雫の言葉を聞き、七人の騎士達が一糸乱れぬ返答を同時にした。
「そして二つ目は・・・」
―――コンコンッ!
雫の言葉はドアのノックと共に遮られた。
「失礼致します!」
勢い良く敬礼をする兵士に、ブロッケンが問いかける。
「何事だ?」
「いえ、それが女王陛下のご客人がいらしているのですが、どう対応いたしましょう?」
「丁度良いですね・・・それが二つ目です。入れてあげてください」
「はっ!了解いたしました!」
女王の言葉を聞き兵士が退出したのを確認し、雫は言葉を続けた。
「皆さんには紹介が遅れましたが、この場を持って彼を貴方達に紹介します」
そう言うと再びドアをノックする音が鳴った。
「・・・入ってください」
扉が開くと同時に「「失礼いたします」」と二人の男の声が重なり聞こえた。
一人は黒で統一された衣装を身に纏い、自然体で入ってくる青年。
もう一人はその青年に緊張しているのかぎこちない動きで青年の後を付いてくる少年。
そして、二人が雫の隣に立ったのを確認して雫は言葉を続けた。
「既に会っている者も居るでしょうが紹介させてください。私の甥の灯馬と、その弟子である弥彦君です」
会議場がざわめきに支配された。
「すみません雫おば・・・いえ、女王陛下は今どちらにいらっしゃいますか?」
「陛下はただ今軍儀に参加されていると思われますが、どうされましたか?」
そう答えるのは自分が城で暮らす事になって以来、雫叔母さんが付けてくれた専属のメイドさんだった。
名前はノココ・アルバイン。
身長が150cmあるかないかで、音が鳴るサンダルを履かせればとても破壊的な可愛さになるであろう少女であった。
最初は雫叔母さんの客人という事でギクシャクとした雰囲気であったが、話してみればとても可愛らしい少女で、歳が近い弥彦と直ぐに仲良くなっていた。
「実はその軍儀が終る頃に来て欲しいと言われているのですが・・・」
「きゃーーーーそうなんですか?!だったら早く言って下さい!着替えていきますよ!」
とノココは慌てた様子で衣服を用意し始め、
「外で待っていますので、お二人とも急いで着替えて出てきてください」
バンッ!と扉を勢いよく閉め出て行った。
「師匠、とりあえず着替えましょう?」
「ぁあ、そうだな・・・」
何もあんなにバタバタしなくても良いと思うんだが・・・。
と心の中で呟いたのだった。
数分後、着替えが終って外に出るとノココに「遅いです!」と第一声を浴び、急かされながら会議場に向かった。
会議場の扉の前に到着し、兵士に事情を説明して入ろうとしたが止められてしまった。
「ただ今、軍儀中に付き外部の者の入場はできない事になっています」
と律儀に話してくれた兵士に噛み付いたのがノココだった。
「はぁ?!何言っているの?!女王陛下に呼ばれてここまで来たのに、ここで追い返すってどういう事?!」
まくし立てるように言葉を続けた。
「もしあんたの生真面目な性格のせいで、この方々や私が路頭に迷う事になったらどうするつもり?!責任とれる?!てか、取ってよ!七代先まで呪ってやろうかぁぁぁ?!!」
何を言っているのか途中から理解できなかったが、兵士の顔は見る見る青ざめて行き、そして悩んだ末に出した言葉が「ただいま、確認を取ってきます」だった。
哀れすぎる・・・。
とうのノココは「最初からそうしなよ!」と鼻息を荒くしていた。
「し、師匠・・・友達になる人間違えたかな?」
「何も言うな、弥彦・・・」
とビクビクする二人であった。
少しすると兵士が会議場から出てきて「失礼致しました!どうぞ、中へ!」と未だ青ざめた顔を残したまま道を空けた。
「でわ、お二人とも決して失礼の無い様にお願いしますよ?」
「は~い」と弥彦は返事をして、青年は「ああ、ここまでありがとう」と言い会議場の中に入って行ったのだった。
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