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異世界ファンタジー

すんごい剣は浮気を許さない

掲載日:2026/07/30




 吾輩は、剣である。

 名前は『すんごい剣』だ。


 いや、ふざけているわけではない。

 魂に、そう刻まれている。


 刻んだやつの正気を疑ったのも、今は昔の話。

 無機物のため、時間の感覚はないが、長い時間だけが過ぎていた。


 最初は、どこかの蔵だったと思う。

 暗く、湿っぽく、そこに突き刺さっていた。


 今は違う。

 雄大な森を望む、岸壁の突端に刺さっている。


 風が吹くたび、世界がよく見える。


 だが、動くことはできない。

 剣だから。


 退屈など、時の彼方に置いてきた。


 今日も、挑戦者が現れる。


 金ぴかな鎧の男だった。

 二枚目で、長髪。


 迷いはない。

 ためらいもない。

 自分が選ばれた側だと信じている顔だ。


 吾輩の柄を握る。

 そして、そのまま引き抜こうと力を込めた。



「イケメン、死ね!」



 男なんかに抜かれてなるものか。

 俺は、必死に踏ん張った。


 剣としての誇りとか、そういう話じゃない。

 単純に、生理的に無理だ。


 おっと、興奮するあまり一人称が戻っていた。

 吾輩といったほうが、女の子に神秘受けするのを忘れてはならない。


 実は、吾輩は元人間の転生者だ。


 この世界ではない。

 地球の、日本と呼ばれる国で働いていたサラリーマンだった。


 朝は満員電車に押し込まれ、夜は終電間際に帰る。

 ビタミンサプリとエナドリでどうにか身体を動かしていた、そんな人生だ。


 剣になった当初は、自分の境遇に混乱し、会ったことのない神を呪った。


 なぜ、自分が剣なのか。

 そんな哲学めいた問いを、延々と繰り返していた。


 だが、今となってはどうでもいい。


 剣に、残業はないからだ。

 あとは担い手が好みの女の子なら満足だった。


 むむ、雪がいつのまにか降っている。

 気づけば、周囲の景色だけが勝手に変わっている。


 柄を握られた感覚に、意識を外に向ける。


 かわいい女の子だった。

 力んで顔を真っ赤にさせ、顎を反らしている。


 いいね。実にいいよ。

 視点を下へと向かわせる。


 こういうとき、剣というのは便利だ。


 ミニのフレアスカートを見上げる。

 肌色の先にあったのは、レモン色だった。



「合格!」



 吾輩の新たな担い手が決まった。

 そこから始まった彼女との旅は、素晴らしかった。


 吾輩は、常に彼女と共にあった。

 そこが危険であればあるほど、彼女は吾輩を傍らにおいてくれた。


 水浴びの時も。

 着替えの時も。

 トイレの時も。


 剣としての使命よりも、よほど有意義だったと言っていい。


 だが、吾輩は剣なら、彼女は人間である。

 今までがそうであったように、別れはやってきた。



「どうして! どうしてなの! エクスカリバー!」



 彼女は、泣いた。

 その慟哭は、吾輩には届かない。



「シャロット、諦めよう」

「でも、ガルフォー!」



 なぜなら、彼氏を作ったからだ。


 吾輩は、浮気を許さない。

 昨夜、その男と『チョメチョメ』する現場を見せつけてきやがった。


 鞘に入れても無駄なんだよ。

 鞘に入れたとき、今まで黙っていたのは、そのほうが色々と都合がよかったからだ。


 彼女は、勇者と呼ばれていた。

 今日は、魔王を倒す予定を立てていた。


 今までの担い手もそうだった。

 決戦前になると、身近な男と必ずくっついてしまう。


 もっとも、明日死ぬかわからない状況。

 盛り上がってしまう気持ちは分からないでもない。


 だけど、浮気は駄目。

 決戦前に吾輩を失うのは痛手だろうが、自業自得だ。


 そして、吾輩は待つ。

 時間はいくらでもある。


 火山の溶岩に沈もうと。

 大海原の底に沈もうと。


 気づけば、またどこかの大地に突き刺さっている。

 いつか、剣を愛する特殊な性癖を持つ女の子が現れるその時まで。



「今度は、エルフの娘にしよっかな……。

 銀髪だ。銀髪がいい」



 それだけが、吾輩の希望だ。




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