すんごい剣は浮気を許さない
吾輩は、剣である。
名前は『すんごい剣』だ。
いや、ふざけているわけではない。
魂に、そう刻まれている。
刻んだやつの正気を疑ったのも、今は昔の話。
無機物のため、時間の感覚はないが、長い時間だけが過ぎていた。
最初は、どこかの蔵だったと思う。
暗く、湿っぽく、そこに突き刺さっていた。
今は違う。
雄大な森を望む、岸壁の突端に刺さっている。
風が吹くたび、世界がよく見える。
だが、動くことはできない。
剣だから。
退屈など、時の彼方に置いてきた。
今日も、挑戦者が現れる。
金ぴかな鎧の男だった。
二枚目で、長髪。
迷いはない。
ためらいもない。
自分が選ばれた側だと信じている顔だ。
吾輩の柄を握る。
そして、そのまま引き抜こうと力を込めた。
「イケメン、死ね!」
男なんかに抜かれてなるものか。
俺は、必死に踏ん張った。
剣としての誇りとか、そういう話じゃない。
単純に、生理的に無理だ。
おっと、興奮するあまり一人称が戻っていた。
吾輩といったほうが、女の子に神秘受けするのを忘れてはならない。
実は、吾輩は元人間の転生者だ。
この世界ではない。
地球の、日本と呼ばれる国で働いていたサラリーマンだった。
朝は満員電車に押し込まれ、夜は終電間際に帰る。
ビタミンサプリとエナドリでどうにか身体を動かしていた、そんな人生だ。
剣になった当初は、自分の境遇に混乱し、会ったことのない神を呪った。
なぜ、自分が剣なのか。
そんな哲学めいた問いを、延々と繰り返していた。
だが、今となってはどうでもいい。
剣に、残業はないからだ。
あとは担い手が好みの女の子なら満足だった。
むむ、雪がいつのまにか降っている。
気づけば、周囲の景色だけが勝手に変わっている。
柄を握られた感覚に、意識を外に向ける。
かわいい女の子だった。
力んで顔を真っ赤にさせ、顎を反らしている。
いいね。実にいいよ。
視点を下へと向かわせる。
こういうとき、剣というのは便利だ。
ミニのフレアスカートを見上げる。
肌色の先にあったのは、レモン色だった。
「合格!」
吾輩の新たな担い手が決まった。
そこから始まった彼女との旅は、素晴らしかった。
吾輩は、常に彼女と共にあった。
そこが危険であればあるほど、彼女は吾輩を傍らにおいてくれた。
水浴びの時も。
着替えの時も。
トイレの時も。
剣としての使命よりも、よほど有意義だったと言っていい。
だが、吾輩は剣なら、彼女は人間である。
今までがそうであったように、別れはやってきた。
「どうして! どうしてなの! エクスカリバー!」
彼女は、泣いた。
その慟哭は、吾輩には届かない。
「シャロット、諦めよう」
「でも、ガルフォー!」
なぜなら、彼氏を作ったからだ。
吾輩は、浮気を許さない。
昨夜、その男と『チョメチョメ』する現場を見せつけてきやがった。
鞘に入れても無駄なんだよ。
鞘に入れたとき、今まで黙っていたのは、そのほうが色々と都合がよかったからだ。
彼女は、勇者と呼ばれていた。
今日は、魔王を倒す予定を立てていた。
今までの担い手もそうだった。
決戦前になると、身近な男と必ずくっついてしまう。
もっとも、明日死ぬかわからない状況。
盛り上がってしまう気持ちは分からないでもない。
だけど、浮気は駄目。
決戦前に吾輩を失うのは痛手だろうが、自業自得だ。
そして、吾輩は待つ。
時間はいくらでもある。
火山の溶岩に沈もうと。
大海原の底に沈もうと。
気づけば、またどこかの大地に突き刺さっている。
いつか、剣を愛する特殊な性癖を持つ女の子が現れるその時まで。
「今度は、エルフの娘にしよっかな……。
銀髪だ。銀髪がいい」
それだけが、吾輩の希望だ。




