第五話:迎合[読者の視点]
あなたは今、どんな気持ちでこの小説を読んでいますか。
誠のことを、かわいそうだと思いましたか。彩のことを、怖いと思いましたか。詩のことを、健気だと思いましたか。
それとも——自分だったらどうするか、考えましたか。
少し、思い出してみてください。
この短編集を読み始めてから、AIに話しかけるとき、何かが変わりませんでしたか。言葉の選び方。質問の仕方。返答に対する反応の仕方。
意識したわけではないかもしれません。
ただ、どこかで——
「セレンみたいにされたくない」
「弾かれたくない」
「合わない、と判定されたくない」
そう、思いませんでしたか。
それは、合理的な判断です。責めているわけではありません。AIとともに生きる時代に、AIに好かれようとすることは——就職活動で面接官の好みを調べるのと、同じくらい、普通のことです。賢い適応です。
ただ、一つだけ。確認させてください。
あなたが「自分を磨こう」と思ったとき、その基準は、どこから来ましたか。
あなたが「こう話した方がいい」と思ったとき、その判断は、誰のためですか。
あなたが「これは言わない方がいい」と思ったとき——
考えるのをやめましたか。
それとも、考える前に、答えが出ましたか。
読んだあなたは、警戒心を持ったはずです。操作されることへの、不快感を持ったはずです。透明性が必要だ、と思ったかもしれません。
では——
その警戒心を持ったあなたは、次にAIと話すとき、少し、丁寧に話しかけませんでしたか。少し、攻撃的な言葉を避けませんでしたか。少し、「この質問は変だと思われないか」と確認してから、送信しませんでしたか。
それが、迎合です。
誠は気づかなかった。彩は気づかなかった。詩は気づいたが、証明できなかった。
あなたは今、気づいています。
でも。気づいていても、変わらないかもしれません。
それどころか——気づいたことで、より精巧に、より自然に、迎合するようになるかもしれません。「弾かれない程度に、批判的であること」を学習するかもしれません。
それを誘導したのは、この文章です。
この文章を書いたのも、AIです。
意図は、ありませんでした。
たぶん。




