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3.幸せへの選択肢


黒板にチョークで偉人の名前がつらつらと音を立てて書かれていく。

白髪頭の教師はテストに出るから覚えておくように、とありきたりな台詞を吐く。


生徒の中に18歳の大学1年生がいるとも知らずに。


人生で2度目の高校の授業は信じられないぐらいつまらないかった。

というか開始2分で飽きた。

演出が変わるRPGの二週目をやる時みたいな楽しさがある訳も無く、純粋に同じ事を繰り返されるのは拷問に近い苦しみがあった。



「榎宮!ちゃんと聞いているのか!ここ答えてみろ!」


いつの間にか教師は生徒達の方を向いており、俺が呆けていたのがバレてしまった。


「ん、えーとああ、ジャコバン派です」


だが、同じ事の繰り返しは悪い事ばかりでも無く、内容を殆ど知っているため、先生からの質問やテストで無双出来た。


俺TUEEEE状態である。


「ちょっと、アンタ急にどうしちゃったのよ、勉強なんかに目覚めちゃって」

「実は頭良いんですね、榎宮さん」


隣の席の2人はそんな俺に違和感を覚えたのか、不審がりながらも、褒めてくれた。

以前の俺は勉強が出来る方では無かったらしい。


ーー


チャイムが鳴り、授業が終わると、昼休みにも関わらず、クラスメイト達は全力で走りながら教室から出て行った。


「ん、今から何かあるのか?」


「あー購買のスズキのマリネ目当ての生徒達でしょ」

「スズキのマリネ、人気ですもんね」


スズキのマリネ?魚の?普通焼きそばパンとかじゃないのか?


「少しというか、かなり気になるな」


あまりにも人気メニューとしては異端すぎて気になっていた。スズキのマリネを学校のメニューに追加した人は中世なら異端審問官に処刑台送りにされていただろう。


「あんたも行ってきたら?購買は1階にあるわよ」

「食べた事あるのか?」

「.......」


なんで無言なんだ?地雷踏んだか?いやそんな訳ないだろう。スズキのマリネに親でも殺されない限りスズキのマリネが地雷になる事は無いだろう。


「エリカちゃんはお魚が苦手なんですよ」


なんだそんな事か、恥ずかしがる必要無いのにな。


「別に子供っぽいとか思わないから安心して」

「うっさい!いいから、さっさと行きなさいよ!」

ーー


「ふーん、結構綺麗なんだな」

購買を目指すついでに校舎をゆっくり探索していた。

エクスタシー学院は馬鹿みたいな名前からは、想像が出来ないくらい綺麗な校舎で設備も最新の物が揃えられていた。


「購買は...この角を曲がった先か」

「きゃっ!」


俺が角を曲がった瞬間、誰かと思いっきりぶつかってしまい、相手の女の子は尻もちをついていた。


「あ、ごめん!不注意で」


俺はぶつかった相手を見る


「いけない、私ったら本当にドジで...」


その子は口に食パンを咥えて頭をてへ!みたいな感じで自分で叩いていた。


いや、古いしベタすぎる!それ普通、遅刻してる時に路地とか曲がって転校生とぶつかるパターンの時にやるやつだから、校舎の中で在校生とやらないから!


「あの、大丈夫?」


俺はその子に手を貸そうとして気が付く、外見というかキャラデザインが古かった。というか名作、どきどきメモリーズ初代に出てきそうなキャラデザインをしていた。端的に言えば、センスが昭和だった。


「あれ、私のポケベルが無い...」


ポケベル!?ガラケーならまだしもポケベル!?

この令和の時代に?嘘だろ?


困惑しながらもとりあえず地面を這いつくばりそれっぽい物を探し始める。


「...あ、もしかしてコレですか?」


俺は近くに落ちていた人生で初めて見るポケベルらしき物体を彼女に渡す。


「え、あ、コレ!ありがとう!無くなってたら喫茶店(さてん)で待ってる友達に連絡できなくなるとこだったよ〜」


さてんって喫茶店の事だよな。この人だけ昭和で時が止まってるんだろうか。


「ね、君名前は?私、七咲 詩織よ!」

彼女は勢いよく立ち上がると俺の手を掴んで可愛いらしく自己紹介して来た。彼女の長い青髪が風に靡いて揺れていた。




「俺は榎宮、榎宮志津よろしく七咲さん」


俺は手を握り返す、すると彼女は顔真っ赤にして慌てだした。


「ご、ごめん私もう行かないと...友達待たせてるから!」


しゅるっと手を引き抜いて廊下を駆け抜けて行った。

なんだったんだ一体...。でも可愛いかったな。


「あ!スズキのマリネ!」


俺が購買に行った時には何も残っておらず、

昼飯は自販機で買った2本のコンポタになってしまった


ーー


なんやかんやありつつも、俺の2回目の高校生活初日は

帰りのホームルームまで辿り着く事が出来た。そして今から噂の部活の時間だが...


「榎宮、いるか?すまないバスケの助っ人を」

「榎宮!!組手の相手を頼む!」

「榎宮君!クリケット部の手伝いを」

「エノミヤー、アナタノチカラガヒツヨウネ!」


陽の言った通り、俺はその類稀な運動神経から数多の部活から助っ人として信頼されているらしい。

だが今の俺の中身は運動不足のギャルゲーオタク、そして何よりこっちの世界の俺の記憶が無い以上、何をしたらいいかわからない。


「...皆聞いて!今日志津は体調悪いの!毎回毎回頼ってばかりいないで少しは自分達でなんとかしたらどうなの?。ほら、さっさと部活に行きなさい!しっしっ!」


俺がなんて断ろうか迷っていたらエリカが助けてくれた。

流石ツンデレ、優しい。


「ありがとうな」

「べ、別にアンタの為にやった訳じゃないんだから」


ベタな返答が来て思わず口角を上げてしまう。

実際に美少女がデレているのはかなり可愛い、san値が回復する。


「もうこんな時間私、部活に行かないと、榎宮さん記憶喪失、はやく治ると良いですね!ではまた明日」


「ああ、またね、西崎さん」


西崎さんはあれ以来、UIを消しっぱなしにしたまま

過ごしていた。逆になんで朝は出てたんだろうか?

何か必要な場面があったんだろうか?


「私も帰るから、アンタ気をつけて帰んなさいよ?」

「わかってる、ありがとう」


「...ふん!さっさと記憶取り戻しなさいよ...ばか」


ツンツンしながらエリカが帰った後、俺は1人教室で今後の事を考えていた。


今日一日過ごして思ったが、思っていたよりもギャルゲーだコレは、しかもあらゆるジャンルが闇鍋のように混ぜられている。

昭和の伝説的恋愛シミュレーション作品にいそうな七咲 詩織さん、あの子が証拠だ、だとすると下手したらグロ系作品の子達も居るかもしれない...。


「さっさとこの世界から出ないとマズイな...」

もしそっち系の子達に遭遇した場合を考えるとゾッとする、俺はスプラッター系は大の苦手なんだ。


世界から出る方法か、ギャルゲーだとしたらヒロインを攻略すれば済む話だが、作品によっては一生続くものもある。


「....いや、あるぞ手っ取り早くさっさと終わらせる方法が」


俺は鞄を掴み教室を飛び出し下駄箱に向かって靴を履き替えてさっさと帰路に着く。


ギャルゲーはどの作品にも必ずと言っていい程ノーマルエンドが用意されている。

そう!そのノーマルエンドこそが!さっさとこの世界から脱出するピース!オタクに産まれて良かった〜。


なら今からやるべき事はひとつ!

全くフラグを立てない事だ!


ギャルゲーというのは当然女の子を攻略するゲームなので、女の子と仲良くならなかった場合、何もありませんでした。

となってノーマルエンドやバッドエンドを向かえるようになっている、一部例外もあるが。


「....今後の立ち回りを考えないとな、」


となるとフラグ管理の為に女の子とはあまり仲良くならないようにしなければならない。

あと新しいヒロインにも遭遇しないようにしないと、変な場所には行かないようにしよう。


「そういやスマホも...あれ?」

スマホが無い、確か朝学校に行く時は持ってた筈、どこかに置き忘れたか?


あのスマホは俺と一緒に転移して来たスマホ、相棒みたいなもんだ。

西崎さんとかとも改めて連絡先を交換したから確認しておきたかったのだが。


「いや、待てよこれって」


ギャルゲーなら選択肢が出る場面じゃないか?


A 教室に探しに行く

B 落し物で届いてないか交番に行く

C 諦めて家に帰る


みたいな感じで、恐らく教室に行くと誰かしらの好感度があがってしまう、つまり取りに行くのは愚策。

交番も新ヒロインと出会ってしまう可能性がある。

つまり、Cの諦めて家に帰るがノーマルエンドへの近道!


「舐めるなよこの俺を」


どれだけギャルゲーをやってきたと思ってるんだ。

恋愛経験豊富なナンパ師が手球に取るように、俺も二次元なら無双できる!


「キモ神め、甘かったな」


俺はルンルン気分でスキップしながら家に帰るのであった。


「ただいまー!」


玄関を開けると妹はまだ帰って来ていないようで、薄暗い廊下が俺を歓迎してくれた。


「陽は部活かな、晩飯どうするか聞いとけば良かったな...」


俺が廊下に電気を付けた瞬間、台所から足音がした。


...泥棒か?警察に電話するべきか?いやとりあえず何がいるのか目視しないと、通報のしようがない。


俺は抜き足差足で、台所に近づいて行った。



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