1.ギャルゲーみたいな世界に飛ばされた
カチッ....カチッ..カチッ...
規則正しい生活を送っている人々が目覚める時間になり、窓から日光が差し込み、暗い部屋を照らす。
「.....んん..」
微睡み(まどろ)の中で階段を駆け上がる音が耳に響く。何時だと思ってるんだ静かにして欲しい...隣人トラブルとか...大学生活にまた問題が...。
ドアが勢いよくバン!と開けられる
「お兄ちゃん起きて!!遅刻しちゃうよ??」
「.....ちょっと、誰ですか...マジで...静かにしてもらえますか?..大体今日一限じゃないし、そんな朝早くに...ん、お兄ちゃん?」
俺は身体をゆっくりベッドから起き上がらせて頭の中でお兄ちゃんという単語を繰り返す。お兄ちゃん、お兄ちゃん、お兄ちゃん...インコかよ...
じゃなくて!俺に妹は居ないはずだ!!てか、誰だよこいつ、普通に不法侵入だ...ろ
「え、何処ここ...」
俺は全く知らない他人の部屋に居る事に気が付く。一瞬で目が冴え脳がフル回転し、恐怖により背筋に悪寒が走る。
「お兄ちゃんどうしたの?体調でも悪いの?」
「....うっ...」
急に吐き気が込み上げてくる、視界がぐるぐる回る、
必死に脳みそを働かせて記憶を呼び起こす。
俺は、確か、コンセントを引っこ抜いた後、爆発して気持ち悪い神様とレスバしてそれで...確か最後に
「まさか、マジで転生だか転移させられたのか?」
思わずでかい声が出てしまった。妹を名乗る狂人(偏見)にめちゃくちゃ怪しい表情で見つめられている。
「本当に変だよ?お兄ちゃん...病院行く?」
まず間違い無く精神科に連れて行かれるんだろうな、
今の時代、精神科は患者で溢れてるからこんなくだらない事で医者に迷惑をかける訳にはいかない。
「いや、大丈夫だ...えー」
ひとつ確かなのは神様が創造したのか、元々あったかは知らないが、ここはギャルゲーのような世界であるという事だ。
つまり、この子は主人公である俺の...妹...?
「妹、お兄ちゃんに名前を言ってごらん」
とりあえず名前を聞こうとしただけなんだが、なんか気持ち悪い感じになってしまった。妹どころか、弟もいなかったからなぁ、距離感とかわからないや
「え、気持ち悪...」
普通に酷いな、いや確かに気持ち悪かったけど、兄妹ってこんな感じなのか?もっとこう、「お兄ちゃん♡」って感じじゃないのか―
「ご、ごめんちょっとぼんやりしてて、記憶が...」
「...本当に大丈夫なの?」
彼女はぐい、とベッドに乗り出し俺の顔を覗き込む。
妹さんは、純心で幼さがある、アイドル系の可愛い顔をしていた。綺麗な長いピンク髪がギャルゲーヒロイン感を感じさせてくれる。スタイルもかなり良さそうだ。青いブレザーとスカートがよく似合っている。
「って、学校に行くんだっけか?準備するから待っててくれ。」
俺は手で妹をどかすと、大学に行く用のリュックを探すが、見つからない...というかもしかして学校って
「何してるの、お兄ちゃん...制服もカバンも机の上にあるよ?」
「は?制服?待ってくれよ俺はそんな歳じゃ...いやまさか...」
俺は洗面所に走る。まさかまさか、全く違う、他人になっているのか?
「....いや、これは学生時代の俺」
鏡に写っていたのは高校生の頃の俺だった。身長は180cm近くあったにも関わらず、顔だけが全く成長しなかったせいで、休日街を歩いているとよく輩にナンパされて大変だった。こっちは未成年で男だぞ、全く。
「てことは、若返ったのか?」
神様というのは伊達じゃなかったらしい。俺はとりあえず部屋に戻ると、妹が本当に心配そうにこっちを見ていた。
「お兄ちゃん、今日は学校休もう?」
「.....いや、行くよ」
俺は服を脱ぎ、見知らぬ学校のシャツに袖を通す。そして奇抜な青いネクタイを締めて、青いブレザーを羽織る。生地感からして高そうだ。もしかして上流階級系の学校か?ギャルゲーでよくある...
「妹、真面目に聞いて欲しいんだが、お兄ちゃんは記憶喪失になったみたいなんだ、だから名前とか学校の場所とか、思い出とか、良かったら優しく教えて欲しい」
自分で言ってから気付いたが、これもまたギャルゲーの設定でありそうだな、記憶喪失した主人公がヒロイン達の助けを借りて記憶を取り戻す。多分泣きゲーだろう。
「....記憶喪失..お兄ちゃんが?...じゃ私との約束も覚えてないの?」
妹は心底悲しそうな表情を浮かべていた。俺は胸が痛む。確かに突然大切な人が記憶喪失になったら心労は相当な物だろう、ましてや家族ともなると...。
「約束思い出せなくてごめんな」
俺はとりあえず優しく声をかける。ボディタッチは実際やると女の子はあまり嬉しくないと本で読んだので
とりあえず安心させるために口角を上げる。
「学校に行きながら、教えてくれないか?今までの事」
「....分かった...もしかしたらすぐ戻るかもしんないしね...うん!」
俺は鞄を持ち部屋を出ようとした。
「あ、待って忘れ物!」
「え?鞄も持ったけど...」
「これ!忘れてるよ?部活どうするのさ」
俺は竹刀袋と矢筒と野球鞄と様々な競技用のスパイクを持たされる。
「お兄ちゃんは色んな部活の助っ人でしょ?」
「...あー....」
ちゃんとギャルゲーだ。ギャルゲーの世界だ、主人公がなんでも出来るせいであらゆる部活から引っ張りだこな設定、ギャルゲーすぎる。
というか不可能だろ普通に、身体構造どうなってるんだ。某ハンマー投げの元オリンピック選手なら可能かもしれないが。
「今日はこんな状態だし、部活は休むよ」
「あ、ごめんそうだったね、それじゃ学校行こっか」
俺は部屋から出て玄関に向かう。そこそこ内装が豪華な一戸建ての住宅である事に今気付く。
「金持ちなんだな、ウチは」
「海外で働いてるパパとママのおかげだよ」
うわ、ギャルゲーっぽい理由。何故か知らないけど高確率で両親居ないんだよな家に、思春期の頃に大きな家で一人暮らしとか羨ましい本当に。
ーー
家出て妹から色々話を聞いているうちにわかった事がある。まず今は2025年という事になっている。つまり、時間軸は元居た世界と同じだという事。2つ目、アメリカやイギリスが存在している事。これはかなり助かった。訳の分からない世界だったら宇宙人に侵略されてたりしたかもしれないからな。最後に、妹の名前だが...
「私の名前は榎宮 陽だよ!」
そう自己紹介してくれた妹は元の世界の俺と苗字が全く同じだった。生い立ちも一通り聞いたが、俺の幼少期に陽が追加されたような内容になっていた。妹であるというのは恐らく本当なのだろう。
俺は榎宮志津であって 厳密には榎宮志津で無いのかもしれない。哲学的になってきたが、これにはちゃんとした理由がある。だが今はそれより
「着いたよお兄ちゃん!」
俺は自分が通っているらしい学校に到着してしまった
正直不安しかない。初めて行く美容院のドアを開ける時と同じような緊張感が俺を包み込む。
「ここが私立聖エクスタシー学院だよ!」
「は?今なんて?」
「聖エクスタシー学院だよ!!」
「.....名乗りたくないなその学校名は」
俺は学割とか使う時、一々その恥ずかしい学校名を相手に伝えないといけないのかと、考えながら、顔を上げて校舎を見る。
抜きゲーみたいな名前をした学校はいかにも金がかかってそうな外観をしていた。豪華な門と柵に囲まれた敷地内に入り、奥に進むと白い宮殿のような建物とでかい噴水が目に入ってくる。すると校舎の入口らしき場所で何やら腕を組んだ女子生徒が綺麗にならんで検問のような事をしていた。
「おい、お前達!何を考えているんだ!10分も遅刻するなど!」
まさか風紀委員会では?実際に存在しない組織第24位ぐらいに入ってそうな、創作でしか見ない組織!風紀委員会!ということはあの尻が弱そうな女が風紀委員長か!