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学園の些事  作者: 道兵衛
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8話 お節介な妖精

「えっと、イリオス先生。この猫は、」


俺はアルヴィン先輩の腕の中で震えている黒猫を指差す。


「俺に絡んできた妖精だ。俺はもう寝るから好きにしてくれ。」


イリオス先生はこめかみを押さえ、これだから黒猫は嫌いなんだと呟きながら奥の部屋に引っ込んだ。


「…この猫…妖精?アルヴィン、どうする?」

「…事情でも聞くか。おい。」


アルヴィン先輩に話しかけられた黒猫は瞳孔を完全に開き、耳をイカ耳にしていた。


「何故イリオスに絡んだ。」


少し待っても返事は無かった。

いやそもそも妖精って喋れるのか?


「聞き方が悪いんじゃない?おーい、猫ちゃーん。喋ってること分かる?」


にゃあと小さな声がコテージの中に静かに響いた。


「なんでイリオス先生が困ることをしたの?」


返事は無い。


「…妖精に聞いても、俺たちじゃ言葉が分からないから意味ないんじゃ、」

「だよねー。てかさ!イリオス先生はどうやって妖精を捕まえたんだろうね。」


周りを見渡しても、闇の儀式っぽいものに使われていそうな物は何もなかった。


こういうのって、蝋燭とか、地面に魔方陣が書いてあったりしないんだ…。

と、少しがっかりしたのは黙っておこう。


「ここで話していても埒があかない。一旦この猫を寮に連れて帰ろう。」

「猫ちゃん、びっくりするぐらいアルヴィンから離れないね。」

「俺の妖精の祝福がこいつと同じなんじゃないか?」

「なーるほどね。」


アルヴィン先輩はコテージの出口に向かって歩きだし、俺とネモさんも後に続いた。

すると奥の部屋のドアが開き、中からイリオス先生が出てきた。


「…流石に送る。」


イリオス先生はランプにマッチで火を灯すと、俺に渡してきた。

持てってことですね了解です。


「…寮母さんの恐ろしさは俺も知ってる。」

「寮母さんから私たちを守ってくれるんですかー?」


イリオス先生は何も言わずに外に出た。

アルヴィン先輩は猫を抱くのに慣れていないのか、肩に担いでいた。


「それにしてもこの猫ちゃんなんだったんですか?」


俺の問いに少し考える素振りを見せてから、イリオス先生が口を開いた。


「心配、とだけ言われた。お節介な妖精だ。」


…心配?

つまり…どういうこと?


「イリオス先生が変なところで寝てたから、心配して起こしてくれてたんですね?!」


流石ネモさん。

読解力が素晴らしい。


アルヴィン先輩の肩に担がれていた猫が急に動いて地面に降り、小さく鳴いてから暗闇に紛れて消えていった。


「うそ、飼おうかと思ってたのに。」

「俺の方が好かれていた。」

「なんですかアルヴィンくん、嫉妬ですか。」

「正論だ。」


アルヴィン先輩とネモさんは二人で並んでそのまま話を続けていた。


いや気まずい。

ネモさんかアルヴィン先輩、どっちかでいいから戻ってきてくれ。

なんならどっちも戻ってきてくれ。


「…あ、妖精ってどうやって捕まえたんですか?」


イリオス先生は横目で俺を見て小さくため息をついた。


「探求心があるのはいいことだ。この前俺が、やり方を知っていれば誰でも出来ると言ったことを覚えているか?」

「はい。」

「あれは嘘だ。誰でも出来るわけではなかった。」


え、なにこの人。

急に自慢しだした?


「妖精と少し縁がなければ出来ない。君はまだ祝福の扱いも出来ていないから、当たり前に捕まえることは出来ない。」


凄いズバズバ言うな。

もっと口数少ない人かと思ってたけど、全然そんなことないわ。


「俺が祝福を上手く扱えるようになったら出来るんですか?」

「人による。」


出来ないんかーい。

期待させといて急に落としてきたな。


「無駄話はここまでだ。着いたぞ。」


いつの間にか外灯で照らされる舗装された道を俺たちは歩いていて、目と鼻の先には寮があった。


「守る努力はする。」


努力はするってなんですか。

そんなに寮母さんは怖いんですか?


「アルヴィン、私の前歩いて。」

「いつも俺の前を歩いてるじゃないか。ネモが俺の前を歩け。」

「無理。本当に無理。」


ネモさんはアルヴィン先輩の後ろに隠れていたが、すぐに振り返ってイリオス先生の後ろへと移動した。

アルヴィン先輩も同じように隠れたので、俺も真似をした。


寮の門をくぐると、椅子に座っている寮母さんが見えた。

寮母さんは吸っていた煙草の吸い殻を握り潰し、俺たちに向かって歩いてきた。


「言い訳を聞こうじゃないか、坊主。」

「…生徒たちと少し話していたら遅くなった。」


寮母さんはイリオス先生の見苦しい言い訳を鼻で笑い、後ろに隠れていた俺を見た。


「あんたはまだ新入生だから、道に迷ったりでもしたんだろ。早く部屋に戻りな。」


てっきり怒られると思っていたので、拍子抜けだった。

ネモさんが俺を恨めしそうに見ていたが気にしないことにする。


「あんたたち二人はこれで何度目だ。」

「…四回です…。」

「私がいない時にも抜け出してただろ。」


まるで極寒の地にいると錯覚するぐらい、この場は寒かった。

ネモさんは冷や汗だらだらで、アルヴィン先輩に至っては心ここにあらずだ。


「…今日はイリオスがいたから罰は軽めにしてやる。朝五時半にここに来な。」


寮母さんは定位置に戻って椅子に座ると、また煙草を吸い始めた。


「…アルヴィン、私、生きてる?」

「俺に喋りかけるな。俺は今息をしてない。」

「…大丈夫ですか?」

「「大丈夫じゃない。」」


ですよねー。


「俺はもう戻る。学生の本分は寝ることだ。早く部屋に戻って寝ろ。」


そう言い残し、イリオス先生は俺の手からランプを取って去っていった。

ネモさんとアルヴィン先輩は虚ろな目でふらつきながら部屋に戻っていった。


それにしても、明日の朝五時半に集まるって言われてたけど、二人は何をするんだろう。


そして次の日の朝。

食堂で寮母さんに小言を言われつつ、甲斐甲斐しく働く二人を見ていたら、朝ごはんがいつもより美味しく感じた。

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