85話 太陽の名
第三者視点
イリオスのコテージの裏手でアーロンは一人、瞳を閉じて立っていた。
想像するのは様々な情景。
燃える火を見つめる自分、風に吹かれている自分、雨に打たれている自分、自然に囲まれる自分、闇に包まれる自分。
だが、妖精の祝福は扱えなかった。
「おやおや、アーロン殿下がこんなところで一人で何を?」
現れたのはカルロだった。
少し走ったのか肩で息をしているカルロを、アーロンは横目で見た。
「カルロには関係ないことだ」
「いや、関係あるよ。なぜなら、僕もオリエンスの国民だからね」
「……何が言いたい」
「そんな緊張しないでくれ。何もアーロン殿下をいじめに来たわけじゃないんだ」
アーロンの冷たい視線がカルロを捉える。
だがカルロはなんでもないように肩をすくめる。
アーロンはカルロのことを何も知らない。
古い付き合いだが、カルロは自分のことを何も喋らないからだ。
でもカルロはアーロンによくちょっかいをかけてきていた。
それを呆れながらも受け止める時間が、アーロンは好きだった。
だが、今はカルロを怖いとしか思えなかった。
「……オリエンス国王の法則は知っているかい?」
カルロの言葉に、アーロンは体を強張らせる。
「知っている。妖精に最も愛された王族がなる地位だ」
「そこまで知っているなら、これも知っているよね?妖精は遥か過去、オリエンスが建国されるときに四つの太陽の名を授けた」
「……何を言っているんだ」
アーロンは王族と言うこともあり、国の歴史は全て知っているはずだ。
だがカルロの口から出る言葉全てが、アーロンは初めて聞いたものばかりなのだ。
「四つの名は毎回使い回されている。国王は産まれた子供を見極め、その名を授ける。その四つの名は……」
アーロンの呼吸が激しくなる。
体が聞きたくないと拒んでいた。
だが聞かないと、何も始まらない気がした。
アーロンは震える手を握りしめる。
カルロの言葉が、自分の求めている言葉ではないとしても。
「現国王のサイラス。前国王のレーン。前々国王のサムソン。そしてもう一つの名前を君は知っているかい?」
カルロは悲しそうな、辛そうな表情をしていた。
アーロンはそれが理解できなかった。
どうして今まで気づかなかったのだろう。
国王の名前は四つ、全て使い回されている、建国した日からずっと。
だがアーロンは今までそれに気づけなかった。
まるで記憶に蓋をされていたように、アーロンの記憶にはモヤがかかっていた。
「……イリオス」
吐き気がする。
今までの自分全てを否定されたような、そんな感覚にアーロンは襲われる。
「アーロン殿下は光の名は授かった。でもそれは、太陽の名ではなかったんだ」
カルロは横にあるコテージを見た。
アーロンとは母親の違う、義兄。
今のアーロンを救えるのは、イリオスだけなのに。
「……この事実をアーロン殿下に伝えたのは」
「いい、言わなくていい。自分で考える」
アーロンは去る。
現国王サイラスと同じ綺麗な瞳は、今にも溢れ出しそうな涙で隠されていた。
カルロも目を伏せた。
「……どうしてアーロン様に残酷な事実を教えてしまったのですか」
ミンディが影から現れる。
カルロの護衛ということで家から派遣されたミンディは、今のカルロの表情は見るに耐えなかった。
「いずれ明らかになってしまうことだ。国の重鎮たちはアーロンが正式な継承者ではないことを知ってるが黙っている。なぜなら、現国王に恩があるから。アーロンが国王になったら、彼らはきっとアーロンを裏切る。それならもう、この時点で諦めたほうが……」
辛そうな表情で語るカルロの不器用な友愛を見て、ミンディは頭が痛くなる。
そして、一ヶ月後にある式典の成功を祝わずにはいられなかった。




