81話 プレゼント
「……えへへ、あんま楽しい話じゃなかったね。みんなのとこに行こうよ!私も港見てみたいし!」
作り笑いを浮かべたラベンちゃんは、駆け足でサッチたちのところへ向かって行った。
その背中を、俺はただ見つめることしかできなかった。
ラベンちゃんは、両親を殺されていたんだ。
そこでヴァンス先生に拾われて、国のために働くことになった。
ラベンちゃんの過去が、こんなにも重いとは考えてもいなかった。
俺はいかに自分が浅はかな考えだったかを痛感した。
「ほらマシューも来いよー!」
ラベンちゃんと合流したサッチが、俺に手を振ってくる。
正直気持ちの整理はついていなかったが、みんなで過ごす最後の時間を大切にしたかったので俺も向かうことにした。
アルアさんは早速魚を買っており、隠れて寮で焼くと楽しそうにしていた。
サッチとミューンさんは魚の歯がついたキーホルダーを買っており、ヤーリュカさんから呆れられていた。
「……そろそろ船が来ちゃいますね」
ミューンさんが海を見つめながら、悲しそうに呟いた。
そこでアルアさんは、手に持っていた紙袋をラベンちゃんに半ば強引に渡した。
「これに、私たちからのプレゼントが入ってるから!ミューンちゃんからは、」
「お花の種です!オリエンスでしか咲かない花ですが、気候が合えばポーロアンでも咲くようになっているので!」
「えへへ、ありがとう!」
ミューンさんの次はヤーリュカさんの番だった。
「紅茶の茶葉が入っているわ。ラベンさん、甘いのはあまり好きじゃないと言っていたから、どちらかといえば少し辛い風味の紅茶にしたの」
「ほんと?!私辛いの好きだよ!」
ラベンちゃんは嬉しそうに紙袋の中を覗いていた。
そして待ってましたと言わんばかりにアルアさんが口を開く。
「私からはね、髪飾りだよー!」
アルアさんは紙袋の中に手を突っ込むと、そこからきれいな花の装飾が施されたバレッタを取り出した。
「ラベンちゃんって髪がきれいだから、髪飾りが似合うかなーって思ってね!一級品だよ!」
慣れた手つきで包装紙からバレットを取り出し、そのままラベンちゃんの髪につけた。
パチッと小気味良い音がなり、準備していたようにヤーリュカさんがラベンちゃんに手鏡を渡した。
「……ありがとう、アルアちゃん、ミューンちゃん、ヤーリュカちゃん!めっちゃ嬉しい!」
「えへへ、どういたしまして!」
そのまましばらく四人で抱きしめあい、終わったと思うと今度は俺たちに視線が向いた。
「ほら次は男子たちの番だよ!」
待ってましたと言わんばかりにサッチはポケットを漁って何かを探していた。
それに対して俺は内心はめっちゃ焦っていた。
一応プレゼントは用意してるけど、女子組のプレゼントに比べたら大したものでもないし……
なんなら今から買い換えてきたいぐらいだし……!
「はい、まず俺な!」
俺の心も知らずに、サッチは小さな箱をラベンちゃんに渡した。
「これは……?」
「石だ!俺んちの鉱山で採った石!」
ラベンちゃんが開けた箱の中には、真っ黒な小さな石が入っていた。
サッチはそれを手に取り、包み込んだ。
「のぞいてみな!」
サッチの手の隙間から中を覗くと、そこには微かに光る石があった。
「夜になると光る石なんだ!ポーロアンは暗い時間が多いって聞いたから、ならこれがぴったりだと思ってさ!」
照れながら笑うサッチはラベンちゃんに石を渡した。
周りの女子組は、サッチの予想もしないプレゼントに感心していた。
「サッチくんのことだから、葉っぱとかあげるかと思ってた……」
「同意です……」
「良くても花辺りかと思ってたわ……」
「なんか俺ってそんなやばい男だと思われてたの?!」
思っていました。
なのでサッチがこんなセンスのいいプレゼントをして、俺はありえないぐらい驚いています。
どうする、マシュー。
というかなんで俺が最後になっちゃったんだよ。
俺みたいなのは一番最初に前座として使うべきだろ。
「ほら、マシューくんの番だよ!」
アルアさんに言われ、一応プレゼントが入っている制服の胸ポケットに手を入れる。
もうどうにでもなれ!
「はい、これ!」
目をつむり、流れに身を任せる。
なぜか誰もなにも言わなくて、ただただ不安だけが積もる。
「あ、あの……?」
うっすらと目を開けると、今まで見たことがない表情をしているみんながいた。
「……これ、マシューさんが選んだんですか?」
一番最初に口を開いたのはミューンさんだった。
「え、うん、」
「まあ、いいんじゃないかしら?」
俺のプレゼントを見てなんとも微妙な表情をする女子組がいた。
変にニヤニヤしている女子組とは違い、サッチは「いいんじゃないかー?」なんて呑気に言っている。
反応が一番気になるのはラベンちゃんだったが、特に驚きも喜びも呆れもなにもなかった。
ただ少しだけ目を丸くして、それからふっと笑った。
「……ブレスレット、だよね?」
俺があげたプレゼントは、青を基調としたガラス玉や小さな貝殻がついたブレスレットだった。
一応ネモさんにも相談しながら買ったから、変ではないとは思うんだけど……?
「……えへへ、ありがと。大事にするね!」
ラベンちゃんは俺からブレスレットを受け取ると、さっそく左の手首につけてくれた。
嬉しそうに微笑むラベンちゃんを見て、俺も思わず頬がゆるんだ。
だんだんと誰も次の言葉を探せなくなって、自然と会話が途切れていく。
そこでアルアさんはブレスレットを見て、何かを思い出したかのように手を叩いた。
「ラベンちゃん、左腕の怪我、大丈夫?!」
「え、左腕?」
ラベンちゃんは少し考える素振りをしてから、思い出したのか口を開けた。
「あー大丈夫だよ!ほら!」
左腕の袖をめくり、怪我をしたところを見せてくれた。
白い肌には、まだうっすらと傷跡が残っていた。
「ピクニックで怪我しちゃったんだよね?なつかしー!」
ラベンちゃんは袖の位置を元に戻し、けらけらと笑っていた。
ピクニックに行ったとき、ミューンさんを庇って落ちてきた木の枝で怪我をしたときの傷跡。
まだ完全には完治していないことに、少し胸が痛んだ。
そんなことを気にしていないように、ラベンちゃんは話し続ける。
「そろそろ船が来る時間だし、みんなともお別れかー、さびしいね」
今にも泣き出しそうなミューンさんに「耐えろ」と声をかけていたサッチも泣き出しそうだった。
アルアさんはラベンちゃんを強く抱きしめる。
そんな俺たちの近くに近づいていた人影にヤーリュカさんが気づき、後ろを振り向く。
「……誰?」
その声に俺も気づき、人影の方を見る。
そこには、平然とした顔で立つヴァンス先生がいた。
喉の奥が冷たくなり、声が出ない。
まるで冷水を頭からかぶったような、そんな感覚に襲われた。




