7話 とっても怖い
あっという間に日は暮れ始めた。
イリオス先生に別れを言い、食堂に向かう。
妖精を捕まえるってどうやるんだろう。
禁忌の術とかあるのかな。
獣の血を使う…みたいな。
様々な憶測が脳内を飛び交い、気付いたら食堂に着いていた。
よく分からないご飯を次々と受け取り、いつもの席へ座る。
「なんか機嫌いいね。良いことでもあった?」
後から来たネモさんに話しかけられ、さっき起きた事を話す。
今日は二人と向かい合って、いつもの席でご飯を食べ始めた。
「え、いーなー!私も行く!」
「イリオスはマシューを誘ったんだ。お前を誘ったわけではない。」
「アルヴィンくんは頭が固いなー。」
ネモさんは口を尖らせてアルヴィン先輩を叩くが無視されていた。
「別に誰も連れてくるなって言われてないので大丈夫だと思いますよ。」
「でしょ?!ほら、マシューだってそう言ってるし!」
「圧政だろ。」
「違いますー。」
うん、誰にも言うな…とかも言われてないだろうし大丈夫だろう。
多分。
「じゃあご飯食べたらそのまま行っちゃお!」
ネモさんは勢いよくご飯を口につめ、そのままむせていた。
「…マシュー、ネモは無視していい。」
「そうですね…。」
なんて言いながらもネモさんの背中をさすってるアルヴィン先輩、流石です。
「しかしイリオスが妖精に絡まれるなんて珍しいな。」
「そうなんですか?」
「…いや、やっぱり珍しくないかもしれない。」
どっちだよ。
「イリオス先生、妖精に好かれやすいんだよね。大体遠目から見守る系だから、干渉してくる妖精は珍しいんだ。」
「妖精に好かれやすいって、なんか良いですね。」
正直羨ましい。
妖精に好かれやすい体臭とかなのだろうか。
それか好かれやすい顔をしているとか。
イリオス先生の顔を思い出してみる。
黒い癖毛に、青色の目。
寝不足なのか目元には隈があった。
ザ研究者のような白衣を着て、身長はアルヴィン先輩よりも高い。
そして顔は整っている。
うん、虚しくなってきたから考えるのをやめよう。
「よし、そろそろ行こ!」
ネモさんもアルヴィン先輩もいつの間にか食べ終わっており、俺も急いで食べて席を立った。
「妖精ってどうやって捕まえるんだろうね。やり方を知っていれば、誰でも出来る…でしょ?聞いたことないんだけど。」
「イリオスも一応教師だからな。俺たちが知らないことを知っていても不思議ではない。」
夜の学園は思いのほか賑やかで、虫の鳴き声が辺りに響いていた。
「やっぱり夜は妖精が多いね。」
「そうなんですか?全然分からないんですけど、」
「いや嘘、多くはないかも。ちょっと増えたかな?ぐらい。」
周りを見ても普段と変わった様子はない。
「ネモが少し敏感なだけだ。」
「まあイリオス先生に鍛えられてるだけあるからね!」
ネモさんは得意気に鼻の穴を広げ、目を細めていた。
「それにしても、夜の学園を歩き回るの結構楽しいね!」
「お前はよく寮を抜け出してやってるだろ。」
「ちゃんと寮母さんがいないとき選んでるし!それに、アルヴィンだってなんだかんだ来てるじゃん。」
微笑ましい。
微笑ましすぎる。
「…帰りってどうやって帰るんですか?」
「ん?普通に…。アルヴィン、今日寮母さんって、」
「いるな。普通にいる。」
急にネモさんの口数が減り、アルヴィン先輩も眉間に皺を寄せていた。
「マシュー、寮母さんはね、とっても怖い。」
嫌な予感しかしない。
寮母さんが怖いからなんですか。
もういっそ先に教えて、とどめ刺してくれ。
「大丈夫。一緒に死のう。」
「ネモが囮になればいいだろ。そしたらマシューは無事に帰れる。」
「アルヴィンくんは人の心をどこに置いてきたんですか。」
話をしていると、いつの間にかコテージに近づいてきた。
「やっぱり悪魔の儀式みたいなやつやるのかな。」
「生け贄はお前だ!みたいなやつですね。」
「マシューが呼ばれたのもそれが理由だったりして。」
「やめてください。」
コテージのドアの取っ手に手をかけると、横の窓から光が外へと強く放たれていた。
まるで部屋全体が光で満たされ、窓がそれをこらえきれずに漏れ出しているかのようだった。
あまりにも眩しすぎて、俺たちは咄嗟に目を覆った。
しばらくすると光も収まったので、恐る恐るドアを開くと、そこには手に黒い物体を持ったイリオス先生がいた。
「…もう捕まえた。遅かったな。」
イリオス先生は黒い物体をこちらに投げ、それをアルヴィン先輩が受け止めた。
「猫…?」
そこには黒猫がおり、怯えたようにアルヴィン先輩にくっついていた。
だが何より驚いたのは、その黒猫の背に、小さな羽が生えていたことだった。