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学園の些事  作者: 道兵衛
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69話 水かけ合戦

「ということで……」


 青い空、白い砂浜。

 頬にあたる風は生暖かくて気持ちがいい。


「来たぞ、海!!!」


 サッチとアルアさんは楽しそうに海に突撃していき、俺たちは保護者のように後ろから見守っていた。


「……彼らに品性はないのかしら」

「ヤーリュカさんも海楽しみにしていましたよね……?」

「私はいいのよ」


 ヤーリュカさんとミューンさんは顔を見合わせて微笑み合うと、波が立つ海へ歩いていった。

 俺は海に突撃する気分ではなかったので、砂浜に座ってみんなを見ていた。


「行かないの?」


 ラベンちゃんが俺の顔を覗いてくる。


「あー、うん。なんかね」


 適当な相槌をする俺に、ラベンちゃんは首をかしげた。


「じゃあ私もここにいよっと!」


 ラベンちゃんは俺のすぐ横に座ると、手についた砂をはらっていた。


「え、せっかくの海なんだし、サッチたちと混ざったほうがいいよ」

「いいの、私がここにいたいって選んだんだから」


 ラベンちゃんは、裸足になってはしゃぐサッチとアルアさんを見て微笑んだ。


「自分が楽しむのもいいけど、人が楽しんでいるのを見るのもいいよね」

「たしかに」


 俺が同意すると、ラベンちゃんも嬉しそうにうんうんと頷いた。

 こういう仕草が、ネモさんに少しだけ似ている気がする。

 明るいところとかも。


「じゃあ、マシューくんには、私の国のお話をしてあげよう!」

「……ポーロアン?」

「うん!」


 正直、ロルフ先輩にあんなことを言われた今、あまり乗り気はしないが、せっかくだし聞くとしよう。


「ポーロアンはね、世界でも有数の宗教国なんだ。信仰している神様の名前を、そのまま国の名前にしちゃった的な。」


 じゃあ、ポーロアンって名前の神様を信仰しているのか。


「その神様はね、困っている人の前に現れて、願い事を一つだけ叶えてくれるの」

「一つだけ?」

「そう、一つ。それに、なんでも叶えてくれる」


 ずいぶん優しい神だな。


「そして、神を信じる全ての者を全て救ってくれる」


 潮の匂いが鼻をくすぐる。

 遠くで、サッチの笑い声がした。


「救ってくれたことなんて、一度もないのに」

「……え?」


 ラベンちゃんは何でもないと言うように首を横に振った。


「この国はいいよね。ちゃんと存在するものを国の頂点に置いてるし。やっぱりうちの国も君主制にすべきだと思う!」

「それはちょっとわからないけど……」


 存在しない神様をあがめるって、どんな感じなんだろう。

 この国にも協会はあるけど、あれは国王様の健康を祈るみたいな感じだからな……。


「じゃあ、そのポーロアンって神様に、失踪者が早く見つかりますようにってお祈りしておこうかな」


 俺がわざとらしく手を組むと、ラベンちゃんはなんとも言えない表情で、眉を歪めた。


「いなくなった子、友達とかだったの?」

「いや、会ったこともないけどさ」


 なんだか恥ずかしくなって頬をかく。


「知らない人でも、一応は同じ学園に通う生徒だしさ。心配じゃん?」

「……そうかな」

「そうだよ、きっと。俺もあんまわかんないけどさ」


 ラベンちゃんは首をかしげ、それから立ち上がっておしりについた砂をはらった。


「海に突撃してくる!」

「じゃあ俺も行くか!」


 俺も立ち上がり、靴下を脱ぎながらラベンちゃんのあとを追った。

 サッチたちのところに合流したとき、ちょうどミューンさんがきれいに転び、顔が海に直撃した。


「……じょっばい……」

「でしょうね」


 ヤーリュカさんはミューンさんの顔をハンカチで丁寧に拭いていた。

 この二人は姉妹みたいで見てて楽しいんだよな。


「マシュー!」


 誰かに呼ばれて後ろを振り向くと、俺の顔に水がかかった。


「じょっばい!!!」


 裾で顔を拭うと、向かい側でにやにやしているサッチとアルアさんがいた。


「かけただろ!」

「だからなんだってんだ!」

「二対一は卑怯だろ!」


 こちらも味方が欲しい。

 やつらを倒せるくらいの戦力が……!


「ラベンちゃん、加勢して!」

「え、私?!」


 ラベンちゃんは「困ったなー」と苦笑いして、俺の横に立った。


「それで、マシュー大尉。どちらから倒しますか?」

「うむ、まずはサッチから行こう」

「承知いたしました。突撃ー!」


 ラベンちゃんは勢いよく海に手を突っ込み、サッチたちの方に水をかけ始めた。


 というかラベンちゃん、ノリがいいな。


「こっちも負けていられぬ!アルア殿、参りますぞ!」

「おうよ!」


 あっちはあっちでノリがいいな。


 そこからは仁義なき水かけ合戦が始まった。

 この戦いは、オリエンス学園に後世まで語り継がれることだろう……。


「おい、顔狙うの卑怯だぞ!」

「誰も狙っちゃ駄目なんて言ってませーん!」


 サッチの猛攻に耐えきれなかった俺は、勢いよくしりもちをついた。

 腰まで浸かったが、海は不思議と冷たくはなく、むしろ生暖かかった。


 ラベンちゃんは俺の姿を見て吹き出し、それから俺の頭に手を伸ばした。


「海草がついていますよ、マシュー大尉?」


 ラベンちゃんは海草をわざとらしく俺に見せ、また吹き出した。

 俺は恥ずかしくなってうつむいていた。

 向こう側では仲間割れが起きたのか、サッチとアルアさんが争っている声がする。


「ほら、手。出して」


 ラベンちゃんが差し出してくれた手を掴もうと、顔をあげる。

 だが、不思議と手は掴めなかった。

 鼓動がうるさくて、うまく息ができなかった。


「……どうかした?」


 ラベンちゃんの濡れた髪が光に照らされ、輝いて見えた。

 困り眉で俺を見つめ、催促する手も、全てが。


「あ、あ、ごめん。手、ありがと」

「どういたしまして」


 ラベンちゃんは俺の手を握り返して、そのまま引き上げた。

 俺たちの間に、妙な空気が流れる。


「そこの二人、もう帰るわよ」


 ヤーリュカさんに話しかけられハッとすると、サッチもアルアさんも靴下を履き始めていた。

 ビショビショになった俺の服を見て、ミューンさんは苦笑いした。


「多分、学園に戻る道で乾きますよ、多分」


 潮風が火照った体を冷ましてくれる。

 それが変に気持ちよくて、なんだか笑ってしまった。


「ほら、早く学園に戻ろうぜ!寮母さんに叱られたくないし……」

「それはそう」

「じゃあ競争な!」


 サッチは走り出し、そのあとにアルアさんも続く。

 ヤーリュカさんは呆れて、ミューンさんはとりあえず走っていた。

 ラベンちゃんはまだ俺の手を掴んでおり、そのまま歩き始めた。


「いいね、友達って」


 小さく呟いたそれは、俺の冷めた体をまた火照らせた。


「いいでしょ、友達」

「え、聞こえてたの?!」


 ラベンちゃんは「恥ずかしい……」と困り顔で頬をかいた。

 それから四人の後ろ姿を見て、微笑んだ。


「……うん、すごくいい!」

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