66話 書類
とある日、俺はネモさんと一緒に、イリオス先生のコテージに遊びに来ていた。
遊びといっても特にすることがないので、棚に並べてある本を読んだり喋ったりしていた。
「……暇なら書類整理を手伝え」
イリオス先生の言葉に、寝っ転がっていたネモさんが起き上がる。
「おこづかいくれるならいいですよ!」
「もちろんタダ働きだ」
それからイリオス先生の視線は俺に向いた。
お前も手伝えってことですね、了解です。
俺も読んでいた本を閉じ、イリオス先生の元へ向かう。
机の上に積み重ねられた書類を別の部屋まで運ぶのが今回の命令だった。
「何書いてあるか見てもいいですか?」
「別にいいが、お前たちでは読めないと思うぞ」
さすがに文字くらい読めるわ!と内心つっこみながら書類の束を持つ。
部屋まで移動している間に書類に書いてある文字を読もうとしたが、他国語で書いてあり、全くわからなかった。
「あ、ちょっとならわかるかも!」
さすがネモさん。
言動に対してなぜか試験の点はいい。
いや、本当になんで?
「……妖精……を?……なんか動詞がついてて、えっとね、うん、全然わかんないや」
ネモさん敗北。
「そもそも力仕事はアルヴィン担当じゃん!なんでいないの?!」
ついにキレだしたぞ。
「アルヴィン先輩は部活じゃないですか。恨むなら部活に入ってない自分を恨んでください」
「マシューが冷たい……」
嘆きながらもネモさんは見事な足技で部屋のドアを開け、書類を机の上に置いた。
俺も置いて、一呼吸つく。
「あと何往復ですかね」
「物を運ぶ祝福を持ってる人を今から探しに行こう」
「絶対に運ぶより探すほうが時間かかるので、早く運びますよ」
「マシューが冷たい……」
ネモさんのことを適当にあしらいながら、また何が書いてあるか全くわからない書類を運ぶ。
というか、ポーロアンからの留学生できたラベンちゃん、普通にオリエンスの言葉を喋れるのすごくないか?
東方のなまりも全く入ってないし、実は親がオリエンス出身とかなのかな?
なんてのんきに考えていたら、後ろからザシュッと鈍い音がした。
おそるおそる後ろを振り向くと、そこにはなぜか中腰のネモさんがいた。
そしてすぐ手先から血が溢れだす。
「いったぁ!!!!紙で手切った!!!!」
痛みに悶絶するネモさんにとりあえずハンカチを渡し、俺はイリオス先生の元へ向かう。
「イリオス先生!絆創膏とかありますか?!」
「保健室に行け」
いや、ないとは思ってはいたけど、まさか本当にないとは。
「ネモさん、絆創膏をもらいに保健室に行きましょう」
俺が声をかけると、ネモさんは祝福で指を水で包んでおり、見たことないくらいのしょげた顔をしていた。
とぼとぼと歩くネモさんを横目で見ながら保健室まで一緒に行く。
なんかいつも保健室に行くときは誰かと一緒な気がする……。
なんて考えているとあっという間に保健室についたので、ノックして入る。
「失礼します、絆創膏を貰いに来たのですが、」
保健室には誰もおらず、消毒液の匂いが鼻の奥を刺激してきた。
「勝手にもらっちゃってもいいのかな……」
まあ、あの保健室の先生なら怒らないだろうと思い、ネモさんの言葉に頷く。
ネモさんが机の上に置いてある絆創膏の束に手を伸ばすと、部屋の奥から何かが動く音がした。
一瞬で伸ばしていた手を引っ込め、俺たちは身を寄せ合った。
「おおおお化け?!」
「ネモさん、怖がらせないでください……!」
でも、奥から出てきたのは、保健室の先生であるヴァンス先生だった。
「いやいや、すいません。ベッドで仮眠をしていて。あ、他の先生には秘密ですよ」
ヴァンス先生は軽く微笑むと、絆創膏に手を伸ばした。
「話はなんとなく聞こえていました。どちらが怪我をしたんですか?」
ヴァンス先生の問いに、ネモさんが手をあげる。
「気をつけてくださいね、女の子は手が綺麗なんですから」
「は……はひ……」
イリオス先生には存在しない優しさがヴァンス先生にはつまってる……。
この先生なら書類運びもやらせないんだろうな……。
「じゃあ、お大事にしてください。本当はここにこないのが一番なんですからね」
そうして保健室をあとにした俺たちだが、ネモさんはまだ保健室にいたがっていた。
「イリオス先生もあの先生くらい優しかったらいいのに!」
「イリオス先生にはもっと優しくしてほしいんですか?」
「あれはあれで全然いいんだけどね?!」
あ、いいんだ。
「じゃあ戻って書類運びですね」
「それとこれとは話が違う!」
さすがにイリオス先生も鬼ではなく、怪我をしたネモさんには運ばせなかった。
その代わりに全部俺が運んだけど……。
そして次の日の朝、筋肉痛になった手で必死にスプーンを持って食後のデザートを食べている俺の横にネモさんとアルヴィン先輩が座ってきた。
「話はネモから聞いた、良い鍛錬になったな」
「いや、地獄でしたけど。」
「まあまあ!先輩を救ったと思って!」
ネモさんは呑気にパンを食べていたので、なんかもう筋肉痛もどうでもよくなってきた。
俺も呑気にデザートを食べていると、かなり焦っている様子の男子生徒が食堂内を歩き回っていた。
気になって見ていると目が合い、男子生徒は俺にかけよってきた。
「なあ、トーキアを見ていないか?!俺の友人なんだが、一昨日からいなくて、」
一昨日からいないって、結構やばくないか。
ネモさんが首を傾げる。
「風邪でもひいて寮で寝ているとかは?」
「寮には誰もいなかった!昨日も寮に帰ってきていないんだ、彼は寮を抜け出すやつなんかじゃない!」
発言に心に刺さるものがあったが、とりあえず無視して話を聞く。
「先生方にも言った。すまないが、見かけたら教えてくれないか?」
俺たちが頷いたのに安心して、男子生徒は去っていった。
「トーキアって、多分私たち二年生の子爵家の男の子だよね?」
貴族だったの?!
貴族が失踪したって、結構やばくないか。
「俺と同じクラスだ。先ほどの生徒が言うように、寮を抜け出すような不真面目な生徒ではなかったはずだ」
じゃあ、誰かに連れ去られたとか……?
……不穏なことを考えるのはやめよう。
きっと学園が広すぎてて迷子になっているだけだ、多分。
そして、放課後。
学園に放送が流れた。
学園の生徒であるトーキアが失踪したと。




