62話 もちろん!
国王は一息つくと、ゆっくりと口を開いた。
「……アーロンのために、よくここまでやってくれた。」
国王の言葉に、グレッタさんが首を振る。
「当たり前のことをしたまでです。」
「グレッタ・レイガリオか。お前がアーロンの婚約者で良かった。」
「身に余るお言葉です。」
グレッタさんは深くお辞儀をした。
「アルヴィン・ヒルディッド。伯爵家の次男で、剣の才能があると聞く。将来、私を支えるのを期待している。」
「過分なお褒めをいただき恐縮です。」
このまま行くと俺とネモさんだな。
「ネモ・コックス。コックス商会の者か?」
「は、はい!」
「妻が気に入ってよく使っている。繁栄を願おう。」
「あ、ありがとうございます!」
国王の妻ってことは、王妃さま?!
とんでもないひとがお得意様じゃん……
「そして、」
想像していたように、国王の視線が俺に向く。
「名前はなんだ?」
「はい!マシュー・ペリーでさ!」
声が裏返り、最後も盛大に噛んだ気がする。
いや、ネモさんが隣で声を押し殺して笑ってる。
気のせいじゃない。
「アーロンとは友人か?」
友人……?
あ、友人。
え、友達でいいんだよな?
一応お互い名前で呼び合ってるし。
廊下ですれ違ったときも挨拶するし。
この前のパーティーだって、かなり話したし。
「はい、友人です!」
国王は今までの緊張感のある顔を緩め、やわらかく微笑んだ。
「なら良い。これからもアーロンと仲良くしてくれ。」
「あ、ぜひ!」
いや、ぜひって何だよ。
国王は俺の言葉に頷き、それが合図のようにロンラットさんが口を開いた。
「次の予定も近くなってきました。客人はご退出願いますか?」
俺たちは頷き、謁見の間を後にした。
後ろでロンラットさんの安堵のため息が聞こえた気がした。
「私はここでお別れだ。」
少し歩いたところで、エリアルさんが口を開く。
「王宮が私の家だからね、またすぐに会えるさ。」
エリアルさんは急に俺の右手を取り、両手で包みこんだ。
「えっと……?」
「おまじないさ。マシュー君の未来が安全であるようにと、妖精に頼んでいるんだ。」
包まれている右手は温かく、手が離れるのが少しだけ惜しかった。
次にネモさん、アルヴィン先輩と、エリアルさんはどんどん手を握っていく。
「辛くなったら、手を握りしめて。いつでもかけつけるから。」
アルヴィン先輩から手を離し、最後にグレッタさんを見る。
「残るはグレッタだけど……君は大丈夫だね。」
その言葉の意味を聞く前に、エリアルさんは去っていった。
少しだけ、庭園のときに嗅いだ花の匂いがした。
「……私は大丈夫って、どういう意味かしら。」
「まあ、グレッタさんって大丈夫な感じするもんね。」
「褒め言葉として受け取っておくわ、ネモ。」
グレッタさんは微笑むと、何かを思い出したかのように手を叩いた。
「私、お父様に挨拶をしてくるわ。ごめんなさい、客室で待っていて。」
グレッタさんは駆け足で、エリアルさんとは逆方向に向かっていった。
「なら俺も父上に挨拶をしてくる。」
アルヴィン先輩もグレッタさんを追いかけるように走っていった。
「……王宮務めの親がいるって、誇らしいけど大変そうだよね。」
「本当ですよね……」
残された俺とネモさんは苦笑いしながら客室へと向かった。
「……マシュー?」
名前を呼ばれ後ろを振り向くと、そこにはきれいな格好をしたアーロン君がおり、両隣には騎士のような人が立っていた。
さすが、王子という風格だ。
アーロン君は騎士さんたちに何かを話し、こちらに駆け寄ってきた。
「やっぱりマシューだったんだね。ここで何してるんだい?」
「あ、ネモさんたちと……っていない!」
隣に立っていたはずのネモさんはいつのまにか遠くにおり、俺に親指を突き立てていた。
気を使ってくれたんだと思うけど、別に隣にいてもよかったのでは?!
「ネモさん?」
「あー、気のせいだったかも!うん!気のせい!」
わざとらしく笑う俺を見て、アーロン君は少しだけ微笑んだ。
「アーロン君はここで何してたの?」
「私?私は父に、国王陛下に呼ばれて来たんだ。」
そういえば、次の予定があるって言ってたけど、アーロン君との予定だったんだ。
「国王陛下とは久しぶりに話すんだ。陛下はいつも忙しいから、なかなか会えなくて。」
アーロン君がすごく嬉しそうに話すから、俺も頬がゆるんでしまった。
国王が大好きなんだなー。
そりゃ父親だし、大好きに決まってるか。
「そういえば、最近周りが優しくなった気がするんだ。私のことを、すこしでも信頼してくれたということなのかな。」
誰も、アーロン君には何も教えてないんだ。
それが一番いいのかもしれない。
「って、立ち話してる場合ではないんだった!私、もう行かないと!」
「あ、待ってアーロン君!」
俺の言葉に、アーロン君が足を止める。
俺も、とくに何も考えずに引き止めてしまったので、かなり焦る。
いや、聞きたいことは一つだけあった。
聞く勇気がないだけで。
「マシュー?どうかした?」
アーロン君は首を傾げる。
「その、俺たちってさ、えっと、」
大丈夫、アーロン君は優しいから。
とりあえず言ってみたらいい。
行動することに意味があるって、イリオス先生も言っていた。
「俺たちって、友達?」
アーロン君はきょとんとして、それから近づいてきて俺の手をとった。
「もちろん!」
眩しい笑顔だった。
太陽のような笑顔とは、このようなことを言うのだろう。
「じゃあ、また!マシュー!」
アーロン君は走って騎士さんたちのところへ戻っていき、そのまま謁見の間に入っていった。
「いやー、私たちが守ったいい笑顔だね!」
「ネモさん?!いつの間に?!」
ネモさんはわざとらしく鼻をこすっていた。
「空気読んだかいがあったね!」
「別に隣にいてもよかったんですけど……」
「男同士の熱い友情に割り込むつもりはないのだよ!」
「なんですか、それ。」
そのまま客室に向かい、アルヴィン先輩たちを待つことにした。
先に戻ってきたのは、にこにこ笑顔のグレッタさん。
その数分後に、満足げなアルヴィン先輩が戻ってきた。
「じゃあ今度お疲れ様会やりましょう。」
「まだ諦めてなかったんですね……」
グレッタさんは楽しそうに微笑み、それから椅子から立ち上がった。
「もう馬車は呼んでいるわ。学園に戻りましょう。」
グレッタさんの後に続き、客室を出て馬車のある場所に向かう。
途中に通り過ぎた庭園には、エリアルさんが好きだと言っていた花が、太陽に照らされて輝いていた。




