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学園の些事  作者: 道兵衛
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60話 王位継承権

馬車は学園に着くと俺たちをおろし、ルーカス君とはお別れした。

コテージにエリアルさんを案内すると、中ではネモさんとグレッタさんが楽しそうにお茶会をしていた。

遠くの椅子には、多分ネモさんに付けられたであろう髪飾りを付けたイリオス先生が座っていた。


「お、早かったね!日付越えるかと思ってた!」

「越えたら寮母さんに叱られるだろ……」

「確かに。」


ネモさんはアルヴィン先輩と軽く言葉を交わし、俺の後ろに立っているエリアルさんに視線を向けた。


「……本物だよね?」

「本物じゃなかったら大事よ。」


グレッタさんが紅茶を飲んでから一息つく。

そして椅子から立ち上がると、エリアルさんに丁寧にお辞儀をした。


「これからの太陽の更なる輝きを祈っております、エリアル王弟殿下。」


エリアルさんはくすぐったそうに微笑み、頬をかいた。


「アーロンの婚約者だよね。甥がいつも世話になっているね。」

「いえ、私としてもアーロン様のお手伝いができるのは身に余る光栄だと考えております。」


グレッタさんの言葉に、エリアルさんは「ありがとう」と小さく呟いた。

そこからの沈黙を破ったのはイリオス先生だった。


「それで、そいつをコテージに泊めればいいのか?」

「そいつではない。エリアル王弟殿下だ。」

「部屋は大して広くないが、二階に使っていない部屋がある。掃除はしておいたから、そこを使ってくれ。」


アルヴィン先輩の指導を完全に無視して、イリオス先生は話を続けた。


イリオス先生のこういう誰にでも同じ態度をとれるところは、普通にすごいと思っている。


「……説明、ありがとう。」


エリアルさんはコテージ内をぐるっと見回して、イリオス先生に向き直った。


「ずいぶんと良い場所に住んでいるんだね。いつからだい?」

「……五年ほど前からだ。」

「そうかそうか。」


エリアルさんは満足そうに笑い、今度は俺たちの方を見た。


「それで、君たちの計画とやらを聞くのを忘れていたね。何をするつもりなんだい?」


その問いに、グレッタさんが口を開く。


「まず、ブライアント侯爵が何を企んでいるかご存知でしょうか。」

「ああ、大体知っているよ。それで君たちは、私に王位継承権を捨てろと言いたいんだね?」

「そういうわけでは!」


今まで見たことがないくらい、グレッタさんは焦りを露わにした。


「私が王位継承権を持っていれば、永遠にデブンソーは私を国王にしようとする。それなら私が王位継承権を捨てるのが一番手っ取り早い。そうだろう?」


誰も否定はしなかった。


「おい。」


イリオス先生がエリアルさんを睨む。


「すまない、少しからかいすぎたね。」


エリアルさんはやれやれと肩をすくめ、遠くに座るイリオス先生の隣に座った。

イリオス先生はかなり嫌がっていたけど。


「私としても、甥のアーロンをいじめているデブンソーは許すべきではないと考えている。彼は十分努力をしているのに、それを否定する行為をするのはやってはいけないことだ。」

「なら、えっと、エリアル王弟殿下?が、ヒーナさんと婚約を解消すればいいんじゃないんですか?」


ネモさんが首をかしげる。

だがエリアルさんは苦笑いしかしなかった。


「私は精神病と偽られて国王に報告されている。そんな人間が何かを言っても、気をおかしくしたとしか思われないんだ。実際今までそうだったしね。」

「それは、国王陛下に直接申し上げたのですか?」


アルヴィン先輩の問いに、今度はエリアルさんが首をかしげた。


「いや、国王の部下に、国王に伝えるように頼んだのだけどね。」

「なら今度は、国王陛下に直接進言をしましょう。幸い俺たちは明後日ほどに、国王陛下と会う機会があります。」

「え、なにそれ。初めて聞いたんだけど!」


ネモさんの言葉に、アルヴィン先輩は視線を逸らし、わずかに肩をすくめる。


「話す機会がなかっただけだ。」

「いやいや、普通そういうのは共有しない?!」


ネモさんが勢いよくアルヴィン先輩を指差す。

その様子を見て、エリアルさんは小さく笑った。


「君たちは本当に仲がいいんだね。」


そう言ってから、少しだけ表情を引き締める。


「国王に直接会える機会があるというのは、確かに大きい。今まで私は、誰かを通してしか言葉を届けられなかった。」


エリアルさんの視線が、窓の外へと向かう。

夕方の学園は静かで、遠くで虫の声がかすかに聞こえていた。


国王の弟なのに、どうして人を通してしか話せないんだろう。

俺はそこが疑問だった。


「もし、国王が私の目を見て話を聞いてくれるのなら……」

「聞いてくれます。」


その言葉を発したのは、グレッタさんだった。

迷いのない声だった。


「国王陛下は、無責任な方ではありません。少なくとも、王弟殿下の話を狂言だと切り捨てるような方ではないです。」

「……そうか。」


エリアルさんはゆっくりと息を吐いた。


「君は、国王を信じているんだね。」

「生まれたときにはもうその考えしかありませんでした。」


エリアルさんは、すべてを理解している。

自分がどう扱われてきたかも、誰が敵で、誰が味方かも。


それなのに、どこか、自分自身のことだけは置き去りにしている気がした。


「……エリアルさん。」


気づけば、俺は口を開いていた。


全員の視線が一斉に俺に向く。

ネモさんが「お?」という顔をする。


「国王様に会うのは、いいと思います。でも……そのあと、どうするつもりなんですか?」


エリアルさんは少しだけ驚いたように目を瞬かせた。


「そのあと、とは?」

「王位継承権をどうするかとか、ヒーナさんのこととか……全部終わったあとです。」


言葉にしてみて、改めて思う。

俺は、エリアルさんが、その先を考えていない気がしてならなかった。


「全部終わったら……私はまた、静かに過ごすだけだよ。」


その声は穏やかで、別荘で見た表情と似ていた。


「それって、本当にエリアルさんが望んでることですか?」


一瞬、誰も息をしなかった。


イリオス先生が、ゆっくりとこちらを見る。

エリアルさんは、しばらく黙ったまま俺を見返していたが、やがて小さく笑った。


「……君は、本当に遠慮がないな。」

「すみません。でも……」


俺は拳を握った。


「庭園で、好きな人の話をしてた時のエリアルさん、すごく楽しそうだったんです。だから、その人のことを思い出しながら、一生誰にも会わずに静かに過ごすっていうのが、どうしても正しいとは思えなくて。」


エリアルさんの目が、わずかに揺れた。


「君は……あの時のことを、そんなふうに覚えていたのか。」

「はい。」


短い沈黙のあと、エリアルさんはふっと息を吐いた。


「……困ったな。」


そう言って、エリアルさんはまた窓の外を見つめた。

でも、そこからは何も言わなかった。


「……とりあえず、明後日の国王陛下の謁見の話をしましょう。もちろん、次はマシューも会えるわよ。」

「本当ですか?!」


前回は拒否されたからなー。

まあ拒否される理由しか見つからないけど。


「エリアル王弟殿下には、精神病の虚偽の報告をされていたことを証言していただきます。私たちは、ブライアント侯爵の裏金と、ヒーナの横領について証言します。」

「いやー、ついにって感じだね。」


ネモさんもグレッタさんの言葉に頷く。

俺もつられて頷く。


「明後日はデブンソー侯爵とヒーナ様もいる。隙を見せるなよ。」


アルヴィン先輩の言葉に、一気に緊張を感じる。


アーロン君に、悪い言葉を言われるのは当たり前っていう考えを壊すために。

彼に、悩んでほしくないために。

俺たちは、国王に会いに行くんだ。

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