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学園の些事  作者: 道兵衛
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58話 エリアル王弟殿下

そうして俺は、アルヴィン先輩、ルーカス君と、王弟さんがいるであろう別荘に馬車に乗って向かっていた。


「……あんな作戦で大丈夫なんですかね……」


イリオス先生のコテージで話し合った作戦、正直不安でしかない。

ネモさんの根拠のない大丈夫ほど怖いものはない。

グレッタさんも大丈夫とは言ってたけど……。


「まあ、なんとかなるだろう。戦う準備はしておくか。」

「それって大丈夫って意味じゃないですよね?!」


騎士のような格好をしたアルヴィン先輩は、面白そうに笑った。


「しかしマシューさんとアルヴィンお義兄様が僕の護衛のふりをするなんて。全く思いつきませんでしたよ。」


馬車に揺られながら、ルーカス君が俺の格好をまじまじと見る。

俺もアルヴィン先輩と同様、騎士のような格好をしているので、なんだか少し恥ずかしかった。


「大丈夫だ。似合っているぞ、多分。」

「多分ってなんですか?!」


そんな話をしていると、馬車が止まるのを感じた。


「どうやら着いたようですね。」


ルーカス君が言うよりも先にアルヴィン先輩は馬車をおりた。

そしてこちら側に手を差し出した。


「ルーカス様、お手をどうぞ。」

「ああ、ありがとう。」


ルーカス君はアルヴィン先輩の手を取ると、丁寧に馬車からおりた。

俺も急いでおりたが、アルヴィン先輩の手は差し出されなかった。


そうか、もう護衛の設定は始まってるのか。


ルーカス君は俺たちを見ようともせずに歩いていく。

俺はアルヴィン先輩を真似て、ルーカス君の三歩後ろを歩いた。


別荘の入り口の門には門番が一人だけ立っていたが、すぐに俺たちに気づき、向こうから近づいてきた。


「ここからは立ち入り禁止だ。帰ってくれ。」


想像はしていたけど、王弟さんがいるってなったらこの反応だろうな。


「僕が誰かわかっていて、その馬鹿げた発言をしているのか?」


門番は、きれいに微笑むルーカス君を見て鼻で笑った。


「ここは子供が来るところじゃないんだ。後ろにいるのは友達か?」


その言葉に、ルーカス君の顔が明らかに暗くなる。


「君、雇われの下民?なら僕がわからないのも仕方ないか。」

「は?俺はブライアント侯爵家に長年勤めている、」

「なら僕の顔を見ても本当にわからないのか?」


門番はじっくりとルーカス君の顔を見ていたが、次第に顔が青ざめていくのがわかった。


「ルーカス様でしたか!これは、とんだ無礼を、」

「無礼だと思ってるなら、早く中に入らせてくれないかな。」

「ですが中には誰もいれるなと、」


門番の言葉をルーカス君のため息がさえぎる。


「君、自分の立場を理解してる?君が今無礼を働いたのは、次期ブライアント侯爵だよ?」

「すぐにお通しします!」


ルーカス君、すえおそろしい……。

俺なんかとは全く比べ物にならないほどの威圧感がある。


門番は門の鍵を開けると、玄関のドアを開いてくれた。


「俺が入れたことは秘密にしてください。上司に知られたらクビになってしまうので……」

「多分ね。」


こうして俺たちは無事中に入ることができた。

後ろでは、ドアの閉まる音が聞こえた。


「ルーカス君って演技派だね。」


俺が言うと、ルーカス君はなぜか照れた。


「家ではいつもあんな感じなんです。なめられたら困るので。」


いや怖すぎない?

お金に困っても、絶対にブライアント侯爵家には勤めないわ。


「早くエリアル王弟殿下を探そう。俺は北の部屋を見る。」

「作戦だと、俺が東で、ルーカス君が西ですよね?」


アルヴィン先輩は頷くと、俺たちに背を向けて歩き出した。


「僕たちも行きましょう。」


ルーカス君の声にせかされ、東へ向かう。

昼すぎだからか、廊下には影が差し込んでおり少しだけ肌寒かった。

となれば動くしかないので、片っ端から部屋を開けていく。


一つ目の部屋は、ノックをしても反応がなかったので諦め。

次は二つ目。

ドアノブに手をかけて、ゆっくりと引く。

ずいぶんと殺風景な部屋の机の上には、枯れた花が入った花瓶があった。

もちろんその横にある椅子には、誰かが座っていた。


「……すいません、」


おそるおそる声をかけると、椅子の主が振り返って俺を見た。


「あれ、マシュー君かい?久しぶりだね。」


椅子には、俺がこの前庭園で出会った男性が座っていた。


「こんなところで何してるんですか?!」


俺の大きな声に、男性は困ったように微笑むだけ。

ここで一つの予想が頭に浮かび上がる。

いや、この予想が当たっていたら俺はとんでもなく不敬な人になるので、とりあえず考えないことにした。


「マシュー君はここで何をしてるんだい?」

「その言葉、そっくりそのままお返ししますよ。」


男性は今度は楽しそうに微笑んだ。


「あ、そういえば、」

「マシュー!!!」


部屋の入り口から、明らかに走った様子のアルヴィン先輩が飛び入ってきた。


「ど、どうしたんですか、アルヴィン先輩。」

「いや、マシューの叫び声が聞こえたから、急いで飛び出してきたんだ。」


絶対に俺の「こんなところで何してるんですか?!」じゃん。

ご迷惑をおかけして申し訳ありません。


アルヴィン先輩は額の汗をぬぐい、俺の後ろに座っている男性を見た。

次の瞬間にはアルヴィン先輩はひざまずいていた。


「これからの太陽の更なる輝きを祈っております、エリアル王弟殿下。」


……でしょうね。

いや、なんとなくはわかっていたよ?

今この別荘にいる人は王弟さんしかいないと思うから。

けど俺が普通に知り合いのおじさんくらいの態度で話していた人が王弟だとは思わないじゃん?!


「顔を上げてくれ。……ヒルディッド家の次男かな?大きくなったんだね。」


王弟、エリアルさんは、懐かしそうにアルヴィン先輩を見つめた。


「それで、どうしてここに来たんだい?忘れ物かい?」


エリアルさんの言葉に、アルヴィン先輩が「いいえ」と首を横に振った。


「エリアル王弟殿下、無礼を承知で申し上げます。我々についてきていただけませんか?」


アルヴィン先輩の言葉に、エリアルさんの目線が俺たちから外れる。


「どうしてだい?」

「ブライアント侯爵は存じ上げておりますか?」

「私の妻の兄だよね?知っているよ。」

「彼が殿下の甥であるアーロン様を蹴落とし、殿下を次期国王にしようとしているのです。」


エリアルさんは目を少しだけ見開き、それから小さく微笑んだ。

全てを知っていたように。


「ブライアント侯爵は最初からそのつもりで、ヒーナを私に嫁がせてきたんだよ。でも、私に国王になる気がないと知ると、私を精神病と偽って閉じ込めてきたんだ。」


エリアルさんは精神病ではなかったんだ。

デブンソーさんが嘘をついていただけで。


「君たちは多分、ブライアント侯爵を消したいんだろう?でもそれは、私の妻がヒーナである限り永遠に消すことはできないよ。」

「じゃ、じゃあ、ヒーナさんと別れることは……?」


俺のうわずった声に、エリアルさんは目を細めた。


「それはできない。ブライアント侯爵のことについては言うことができるが、ヒーナは好きにさせてあげたいんだ。」

「それは、ヒーナさんが、エリアルさんの好きな人だからですか?」


庭園でエリアルさんが話していた好きな人。

その相手がヒーナさんならわかる。

でもエリアルさんは、奥さんじゃないって言ってたし……。


エリアルさんは首を横に振って、花瓶に入った枯れた花を、腫れ物に触るようにふれた。


「違う。違うんだよ。でもこれは、私がヒーナに犯してしまった罪なんだ。それに、」


花びらが落ちる。


「私はここから、この屋敷から出ない方が幸せだと思うんだ。私がいても、どうにもならないんだよ。」


アルヴィン先輩は、花びらを触るエリアルさんをただ見つめていた。

俺も、ただ見つめることしかできなかった。


人って、こんなに遠く感じることがあるんだ。

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