56話 付き添い
グレッタさんが王宮に行って数日が経ち、俺はネモさんたちと食堂でご飯を食べていた。
「グレッタさん、大丈夫かな……」
「大丈夫だろう。あの方は図太いからな。」
「誰が図太いですって?」
アルヴィン先輩が吹き出す。
俺が後ろを振り返ると、そこには少し怒っているような気がするグレッタさんが立っていた。
「アルヴィン、貴方、」
「滅相もありません。」
ここまでアルヴィン先輩が焦っているのは久しぶりに見たかも。
グレッタさんは向かいの席、ネモさんの隣に座った。
「国王陛下に進言する場を設けてもらったの。貴方達には、証言者として来てもらおうと思って。」
「私たちが?」
ネモさんの言葉に、グレッタさんが頷く。
「じゃあ、ルーカス君も呼んだ方がいいんですかね?デブンソーさんの裏金の情報を集めてくれたし、」
「それはだめだ。」
アルヴィン先輩が口を開く。
「手紙には、ルーカスが密告したことを周りには話すなと書いてあった。だからあいつを出すのはだめだ。」
「じゃあ誰が、」
「俺がやる。」
アルヴィン先輩はいつにも増して真剣な顔をしていた。
「ヒルディッド伯爵家とブライアント侯爵家なんて、四捨五入したら変わらないだろう。俺がやってもだめではない。」
いや、結構変わるのでは?とは言わないでおいた。
「ネモも来てもらうわよ。あなたにはヒーナの証言をしてもらわなくちゃいけないんだから。」
「責任重大過ぎない?」
まあ、この順番なら次は俺の番だけど、さすがに今回は何もやってないしなー。
でもとりあえず行きたそうな顔をしておこう。
王宮になんて一生行けないだろうし。
「……じゃあマシューは私の付き添いで来たらどう?」
グレッタさんの言葉に激しく首をふって同意を表した。
そんな俺を見て、グレッタさんは少しだけ微笑んだ。
「じゃあ今週末、王宮に向かいましょう。校門で待ち合わせね。」
グレッタさんは俺たちに別れを言って去っていった。
そうしてあれよあれよというまに週末になり、馬車に乗り王宮に向かった。
お城の門をくぐり、客室へ向かう。
その間も、豪華絢爛な壁の装飾に目をやられそうになっていたが、なんとか耐えた。
案内された客室もこれまた豪華で、一年分の豪華を味わった気がする。
「……ここでマシューに悲しいお知らせよ。」
グレッタさんが上着を脱ぎ、椅子にかける。
「あなたの同席が認められなかったわ。ごめんなさい。」
うん、なんとなくはわかってた。
わかってたけど……!
「あー!グレッタさんがマシューを泣かせた!」
「泣いてないです!」
「ごめんなさい、マシュー。」
「グレッタさんものらないでください!」
「マシュー……」
「アルヴィン先輩まで?!」
ということで、無事お留守番となった。
でも王宮内は自由に歩いていいらしく、許可証のピンバッジをもらったので胸元につけた。
「うう……ご武運を……」
「死地に向かうわけじゃないんだしさ、」
「死地だろ。」
客室から出ていくネモさんとアルヴィン先輩、それからグレッタさんに別れを告げる。
「……俺も出るか。」
客室に別れを告げ、適当に歩き始める。
色とりどりのドレスを着た女性や、立派なひげを持つ男性とすれ違うたびに、じろじろと見られている気がした。
そりゃ子供が王宮内を歩いていたら見るわ。
「……目がチカチカしてきた……」
ということで、休憩がてら外の空気を吸いに行こう。
ちょうど外には庭園があり、きれいな花がたくさん咲いていた。
梨も花は咲くけど、白いからずっと見ていたら飽きちゃうんだよな……。
色とりどりの花は、さっきまで見ていたドレスよりもきれいだった。
「……一人か?」
誰かに声をかけられ、後ろを振り向く。
後ろに立っていたやせ細った男性は、俺の胸元にあるピンバッジを見ると、目尻にシワを寄せた。
「お客さんだったんだね。ようこそ。」
男性は近くのベンチに腰をおろし、ほっと一息ついた。
「一緒に来ている子はいないのかい?ご両親は?」
道に迷った子供とでも思われているのだろうか。
「友達の用事が終わるのを待っていたんです。」
「そうか、君は暇なのか。」
男性は嬉しそうに笑い、自身の横の空いている場所を手で叩いた。
座れということなのだろう。
もちろん暇なので座る。
「どうだい、好きな子はいるかい?」
急な質問に、思わず吹き出してしまう。
「いませんよ?!というか急になんですか?!」
男性は楽しそうに笑い、目尻に浮かんだ涙を拭いた。
「いや、すまない。君くらいの歳に、私も恋をしていたのを思い出してしまってね。」
男性は懐かしそうに目を細めた。
そして近くに生えている花を手折り、匂いを嗅いだ。
「この花、彼女が好きだったんだ。目の色と花が彼女と同じでね、それを言うととても喜んでくれて。」
男性がとても幸せそうに語るから、俺も思わず顔が緩んでしまった。
「彼女は今奥さんなんですか?」
俺が聞くと、男性はゆっくりと首を横に振った。
「彼女は消えてしまったんだ、私の目の前から。それも何も言わずに。」
花の匂いが、鼻の奥をくすぐる。
男性は持っている花を見つめていた。
「もしかしたら、彼女は妖精だったのかもしれないね。」
男性があまりにも悲しそうに微笑むから、なんて声をかければいいのか分からなかった。
「……あの、」
「マシュー!どこー!」
遠くから俺の名前を呼ぶネモさんの声が聞こえる。
国王との話が終わったんだ。
「はーい!今行きます!それじゃあ、失礼します!」
「うん。さようなら、マシュー君。」
俺は男性に小さくお辞儀をした。
男性も俺に手を振り、俺は庭園を後にした。
そしてネモさんの声がしたほうに向かうと、明らかに疲れた顔をしているアルヴィン先輩とグレッタさんがいた。
ネモさんは丁寧におかれたお菓子をむさぼり食べていた。
「マシューどこ行ってたの?探検?」
「庭園に行ってました。そこで男性に会ったんですけど……あ!!!」
「どうしたの?!」
「男性の名前聞くの忘れてました……」
ネモさんはポカンとしてから、盛大に吹き出した。
「マシューらしいね!」
「それ褒めてますか?」
「褒めてる褒めてる!」
俺たちの話を聞いて、疲れていた顔をしたグレッタさんも小さく微笑んだ。
「そういえば、国王様とのお話はどうだったんですか?」
俺が聞くと、アルヴィン先輩が口を開いた。
「一応聞き入れてはもらえた。ブライアント侯爵家には秘密で調査を進めるらしい。」
おお、めっちゃいい感じでは?
「とりあえず吉報を待つしかないって感じだねー。それにしても、私あんな近くで国王様と喋ったの初めてだよ!めっちゃ緊張した!」
ネモさんがわざとらしく額の汗をぬぐう。
俺も国王は入学式と学術戦の時しか見たことないな……。
そんな頻繁に見るものでもないとは思うけど。
「そろそろ学園に戻りましょう。お疲れさま会はその後ね。」
俺たちがこの前やった学術戦のお疲れさま会のこと、かなり根に持ってるな……。
気まずそうに苦笑いする俺を見て、グレッタさんは楽しそうに微笑んだ。




