53話 謝らない
パーティー会場は人で溢れかえっていた。
ネモさんは早速ご飯を食べに行こうとしてアルヴィン先輩に止められていた。
「俺とエレンはレイガリオ夫人へ挨拶に行ってくる。ネモとマシューはどうする?」
「せっかくだし行こうかな。」
「じゃあ俺も行きます。」
ということで、グレッタさんのお母さんであるレイガリオ夫人のところへ向かった。
パーティーの主役というのもあり、レイガリオ夫人の周りを人が囲んでいた。
とりあえず挨拶の列に並び、順番を待つ。
「それにしても、グレッタさんってレイガリオ夫人とそっくりだよね。さすが家族!」
たしかに似てるかも、目元とか。
「アルヴィンはお父さんとそっくりだよね。」
「そうだな。エレンは母上によく似ている。」
「えへへ、よく言われます。」
エレンちゃんは嬉しそうに微笑んだ。
しばらくすると俺たちの順番がまわってきた。
「ヒルディッド伯爵家次男のアルヴィン・ヒルディッドです。妹の、」
「エレン・ヒルディッドです…!」
「この度は招待いただき、感謝します。レイガリオ夫人のこれからのご活躍をお祈りしています。」
レイガリオ夫人は小さく頷くと、持っている扇子で俺とネモさんを指した。
「そちらの方々は?」
「コックス商会の長女、ネモ・コックスです。」
「ああ、コックスね。先ほど貴女のお父様方も挨拶に来てくれたのよ。ありがとうと伝えておいて。」
「もちろんです!」
「それで、」
レイガリオ夫人の視線が俺に向く。
「貴方は?」
「俺は、えっと、」
梨農家をやっているマシュー・ペリーでいいのか?!
なんかおかしくないか?!
ここは普通に「一般人です。」って答えたほうがいいのか?!
「マシュー・ペリーよ、お母様。私の友人なの。」
レイガリオ夫人の後ろからグレッタさんが現れる。
助け船感謝です、グレッタさん!!!
「あら、グレッタの友達なのね。グレッタが迷惑をかけてない?この子、学園の話を全くしないから。」
「……お母様、次の人が待ってるわよ。」
「全く……。じゃあマシューさん、グレッタをよろしくね。」
「あ、はい!」
アルヴィン先輩に引きずられ、その場をあとにする。
「優しそうな人でしたね。」
「あれでもかなりのやり手だ。彼女がレイガリオ公爵家を裏で支えているからな。」
俺たちが話していると、エレンちゃんがそわそわと辺りを見回していた。
「アルヴィンお兄様、あたし、お友達に会ってきてもいい…?」
「もちろんだ。帰る時に呼びに行くから、それまで話していていい。」
「ありがとう、アルヴィンお兄様!」
エレンちゃんは駆け足で、きれいに着飾った少女たちがいる方へ向かっていった。
「じゃあ私はご飯食べてくるね、アルヴィンお兄様!」
「俺はお前の兄じゃない。」
「アルヴィンお兄様、俺もご飯食べたいです!」
「マシューも乗るな。」
とりあえず誰も手をつけていない一口サイズのお菓子を口に放り込んでいく。
美味しいという感想しか出てこない。
さすが貴族のご飯。
「マシュー、後ろの飲み物とれる?」
口の端を少し汚したネモさんに言われ振り向く。
給仕の人が持っている飲み物を貰い、ネモさんに渡す。
「……お酒じゃないですよね?」
「失礼な、りんごジュースだよ。」
なら俺も飲もうと思い、もう一度給仕の人の方を向く。
「……マシュー?」
そこには、飲み物を持つアーロン君がいた。
「アーロン君!久しぶりだね、学術戦以来?」
「そうだね。訓練場で話した以外は、あまりしゃべったこともなかったから。」
アーロン君は、俺の後ろでご飯を食べているネモさんたちを見た。
「友人と来てるのかい?」
「友人って言っても、先輩だけどね。」
アルヴィン先輩がこちらに気付き、きれいなお辞儀をする。
あとから慌ててネモさんもお辞儀をした。
「これからの太陽の更なる輝きを祈り、」
「今は友人と話しているから、そういう堅苦しいのはやめてくれないかい?」
「……失礼しました。」
アルヴィン先輩の言葉に、アーロン君は困ったように微笑んだ。
「別に怒ってるわけじゃないんだ、すまない。」
「いえ、無礼をお許しください。」
「……マシューを借りてもいいかな。少し話がしたいんだ。」
アーロン君の言葉に、アルヴィン先輩が俺を横目で見る。
俺は大丈夫の意味をこめて頷いた。
「もちろんです。」
「ありがとう、すぐに返すから。」
ネモさんは俺に手を振ってご飯を食べるのを再開した。
アーロン君はすぐに歩き出したので、急いで後を追う。
「彼に謝らせたかった訳ではないんだ。ただ、私が何か言うと、すぐにこうなってしまって、」
前を歩くアーロン君の顔は見えない。
ただ、声が悲しそうだった。
王族だから。
アーロン君の言葉を否定できる人はなかなかいないのだろう。
「少し風に当たりたくて。ロルフがどこかに言ってしまったから、話す相手を探していたんだ。」
王子が歩いていることもあり、周りのほとんどが俺たちを見ていた。
「……出来損ないが、」
どこかで、誰かがそう吐き捨てた。
聞こえた言葉に思わず足を止める。
「王族なのに未だに祝福を上手く扱えていない。」
「次期国王として恥ずかしい……。」
「あの噂、知っているか?」
「くだらない……。」
アーロン君は足を止めない。
まるでそれが当たり前みたいに。
「……バルコニーに行こう。あそこは人もいない。」
早足になったアーロン君の後を追う。
バルコニーに出ると、夜風がほてった体に当たり気持ちよかった。
「……先ほどのは気にしないでくれ。よくあることだ。」
「よくあるって、」
さっきのが?
あんなのただの陰口だ。
「王族は複数の祝福を扱えるんだ。私の姉上は光と火を扱える。叔父上は光と風を。そして国王となる者は、全ての祝福を扱える。」
アーロン君の手が光り出す。
「……でも私は光しか扱えないんだ。次期国王の私が、光しか、」
風が強くなる。
光が不安定に揺れだして、消える。
「周りはそれに勘づいてきている。父上や母上は、人前ではあえて光しか使わないと誤魔化しているのだが、それもいつかは見破られてしまう。」
何も言えない。
今となりに立っているはずのアーロン君が、なぜか手の届かない存在に見える。
違いすぎるんだ、立っている場所が。
「……今の話は忘れてくれ。ずいぶんと冷えてきた、もう中に入ろう。」
ここで中に入ったら、何かを失ってしまう気がする。
でも、俺にはなんて声をかければいいのかがわからない。
アーロン君がどんな言葉を望んでいるのかもわからない。
「……アーロン君!」
勢いのまま呼び止めてしまった。
こうでもしないと、離れていきそうだったから。
でも、このあとの言葉は何も考えていない。
「その、えっと、……俺!謝らないから!」
「え、」
「アーロン君がどんな立場でも、簡単には謝らないから!」
俺が今できる精一杯。
でも、アーロン君が王族だという理由ですぐに謝るということは、したくなかった。
俺の言葉に、アーロン君は少しだけ微笑んでくれた。
それだけで言った価値があったというものだ。
「それじゃあ中に入ろう。マシューの先輩が待っているから。」
中に入ると、先ほどの静けさを感じられないほど騒がしかった。
アーロン君とお別れをして、ネモさんたちの元へ戻る。
「どうしたら僕とエレンの婚約を認めてくれるんですか?」
「認めないと言っている。」
どうやらアルヴィン先輩と少年が話をしているようだった。
ネモさんは俺に気付くとにやにやしながら近づいてきた。
「あの男の子、エレンちゃんの婚約者だよ!」
「……あの少年が?!」
少年は横目で俺を見て、アルヴィン先輩は困ったようにため息をついた。




