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学園の些事  作者: 道兵衛
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50話 愛は全てを凌駕する

夜になり、俺たちはアルヴィン先輩の部屋に集まって夜更かしパーティーをすることになった。

パーティーと言っても、ただ使用人さんが用意してくれたお菓子を食べて話すだけだけど。


アルヴィン先輩の部屋は、寝室というより小さな居間のようで、ソファにテーブル、それから壁一面の本棚まで揃っていた。

ネモさんは入った瞬間から目を輝かせている。


「なにこの部屋!落ち着きすぎじゃない?お泊まり会に向かなすぎでしょ!」

「元々お泊まり会に作られた部屋ではない。気に入らないのなら出ていけ。」

「うそうそ、アルヴィンくんの部屋大好き。」


そう言いながらも、アルヴィン先輩は特に追い出す様子もなかった。


「せっかくだし、エレンちゃんも誘おうよ!」


ネモさんの提案に、俺も頷く。


「エレンには夜更かしをさせるな。」

「まだ夜更かしって呼ばれるような時間じゃないしー!」


しばらくしてネモさんに連れられてやってきたエレンちゃんは、最初は遠慮がちだったものの、お菓子につられてあっという間に引き込まれた。


「さーて!ではここで恋バナのお時間です!」


出た、と俺は内心で思う。

アルヴィン先輩は嫌そうに眉をひそめていたが、ネモさんはお構いなしだ。


「エレンちゃん、その想い人ってさ、」

「想い人じゃないです!仲の良い友達で…」


エレンちゃん、もうそれは好きって言うんだよ…。


ネモさんもにやにやしながら聞いてるし。


「じゃあ、そのお友達の背の高さはどれくらい?」

「え、えっと……あたしと同じくらい、かな…?」

「ふむふむ。じゃあ出会った場所は?」

「家の……お庭、です、」

「ほうほう。見た目は?!」

「き、金髪で……」


そこまで答えたところで、エレンちゃんの声がだんだん小さくなっていく。

さっきまで頑張って起きていた目が、ゆっくり閉じていった。


「……あ」


ネモさんが言葉を止めた時には、もう遅かった。

エレンちゃんは、ソファにもたれたまま、すっかり眠ってしまっていた。


「ほら見ろ。」


低い声でアルヴィン先輩が言う。


「この子に夜更かしをさせるなと言ったはずだ。」

「いやまだ世間ではぎりぎり夕方って言われる時間だよ?!」


アルヴィン先輩はため息をつくと、片手で軽々とエレンちゃんを抱き上げた。

いわゆる、お姫様抱っこだ。

もう片方の手でネモさんの頭を叩いていた。


「……起きないですね。」

「寝ると深いからな。」


そう言って、アルヴィン先輩は静かに部屋を出ていった。

廊下に消えるその姿は、立派なお兄ちゃんだった。


アルヴィン先輩を見てると、お兄ちゃんが欲しくなってくる。

一人っ子って辛い。


残された俺とネモさんは顔を見合わせる。


「……さて。」

「さて?」


ネモさんがにやりと笑った。


「これはもう、想い人を探すしかないよね!」

「今からですか?!」

「今からだよ!」


というのは冗談で、アルヴィン先輩が戻って来ると、今度はこの前あった試験の話になった。


「マシューは試験どんな感じだった?」

「まあ、ぼちぼちですかね。」

「ぼちぼちって何。」


俺のひどい順位を発表するのはかなり気が引けるので、上手くはぐらかす。


「ネモさんはどうだったんですか?」

「私?私はねー」


どこか嬉しそうなネモさんを見て、順位が良かったんだなーと一瞬で分かった。

ネモさんは四本指を立ててにんまりと笑った。


「四位!どう?!すごくない?!」


ちゃんと普通にすごくて泣けてくる。

そういえば前回の試験も八位って言ってたし、やっぱりネモさんは頭がいいんだな…。


「アルヴィン先輩は?」


アルヴィン先輩はお菓子を食べる手を止め、明後日の方向を見た。


「……全教科赤点だ……」


いつもなら馬鹿にしているであろうネモさんも、流石に気まずいのか黙っていた。

もちろん俺も何の反応も出来ずにお菓子を食べいていた。


そうして夜が明けていった。


次の日の朝。

俺たちは本当に屋敷中を歩き回っていた。

アルヴィン先輩は少し家のことをやりたいとのことで、別行動だった。


「まずはこの人!」


最初に見つけたのは、執事見習いらしい金髪の少年だった。

礼儀正しく、物腰も柔らかい。


「金髪、庭に出入りあり……条件は合ってるけど……」

「背が高すぎますね。」


エレンちゃんは俺たちの頭一個分ほど小さいが、この少年は明らかに俺くらい背が高かった。


「うん、却下!」


廊下から隠れて見ていた俺たちに少年がかなり怯えていたので、そこは申し訳なかった。

次からはもっと堂々と見よう。


次に見つけたのは庭師の少年。

背の高さはエレンちゃんと同じくらいだったが、


「黒髪ですね。」

「はい、次。」


三人目は、厨房で出会ったコックのおじいさんだった。


「金髪……というか白に近い。」

「背はエレンちゃんと同じくらいですけど……」

「でも年齢が…おじいさん…年の差恋愛にしては離れすぎ…?いやでも愛は全てを凌駕する…?」


おじいさんに聞いたところ妻子持ちとのことで、ほっとした俺たちがいた。


「いないねー。」

「いないですね……」


俺とネモさんが肩を落としていると、少し離れた場所でアルヴィン先輩が使用人の一人に話しかけられているのが見えた。


「何の話だろう?」

「さあ……」


しばらくして、アルヴィン先輩がこちらに戻ってくる。


「今から、エレンの婚約者が来るそうだ。」

「え?!」

「今日ですか?!」


話を聞くと、どうやら挨拶のために急遽屋敷を訪れるらしい。


「アルヴィン先輩のお父様方に任せればいいんじゃ……」

「今は誰もいない。父上は公務のため王宮にいる、兄上はその付き添いだ。母上は夫人方とのお茶会に出席している。」


ここまで誰もいないことある?!

もうわざといないとしか考えられないんだけど…


「だから、俺が対応する。」


そう言い切ったアルヴィン先輩の顔は、明らかに険しかった。


そして今。

アルヴィン先輩は客室のソファに座り、腕を組み、完全に鬼の形相で婚約者を待っている。

エレンちゃんに値しない男が来たら速攻で切り捨てる勢いだ。


……これは、絶対に穏やかな顔合わせにはならない。


俺とネモさんは隣の部屋から聞き耳を立てて、これから起きる最悪の事態に備えて祈っていた。

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