49話 甘酸っぱい!
「お、お兄さん?!妹さん?!」
俺は困惑してアルヴィン先輩と妹さんを交互で見て、ネモさんは頭から煙が出ていた。
そんな中でも、アルヴィン先輩は妹さんの頭を撫でる手を止めない。
「妹のエレンだ。エレン、挨拶をしろ。」
エレンちゃんは目元を腕でゴシゴシと拭き、俺とネモさんを見た。
スカートの裾を軽く持ち上げてお辞儀をする。
「エレン・ヒルディッドです。この度はお越しいただき、ありがとう、ございます、」
そこまで言って、エレンちゃんの目から涙が溢れ出した。
「どどどどうしたの?!お菓子とかいる?!」
ネモさんがハンカチでエレンちゃんの顔を拭き、精一杯の笑顔を見せていた。
俺もわけがわからず、とりあえずポケットに入っていた飴をエレンちゃんに渡そうとしている。
「ここで泣いても理由がわからないから俺は何もできないぞ。エレン、事情を説明しろ。」
アルヴィン先輩の鋭い言葉に、エレンちゃんが泣き止む。
そして鼻をすすりながら口を開いた。
「あたし、婚約者ができちゃったの…!」
「「こ、婚約者?!」」
俺とネモさんの声が、玄関に響き渡った。
とりあえず玄関で話すのもあれだしということで、客室に案内された。
客室もこれまた豪華で、座ったソファはありえないくらいフカフカだった。
「婚約者って、エレンちゃんって確かまだ14歳だよね?!」
エレンちゃんが小さく頷く。
14歳で婚約者ができるとは…。
貴族、恐るべし。
「エレンはなんで婚約が嫌なんだ。以前は喜んでいただろ。」
喜んでたの?!
アルヴィン先輩の言葉に、エレンちゃんが俯く。
ああ、これは何かあったな、と俺でも分かった。
「……はい!ここからは女の花園です!男子は出てってくださーい!」
ネモさんに背中を押され、客室の外に出される。
何が起きたのか全く分からなかった俺含む男子二名は、ただただ閉められたドアを見つめるしかなかった。
中から「きゃー!!」や「うそー?!」とネモさんの楽しそうな声が聞こえる。
「……アルヴィン先輩は婚約者さんはいるんですか?」
「いない、まだ。」
まだかー。
「俺は伯爵家を継ぐわけではないから、結婚は強制ではないんだ。エレンは他の家に嫁ぐ立場でもあるから、そこは俺とは違うんだ。」
だがまあ、とアルヴィン先輩が話し続ける。
「どこぞの馬の骨に、俺の妹を渡すつもりはない。」
アルヴィン先輩は微笑んでいたが、逆にその微笑みが怖かった。
辺りを見回すと、お昼前でも使用人の人たちが忙しそうに歩き回っていた。
「アルヴィン様、まさかご友人を連れてくるとは!お早めに伝えてくだされば、もう少し準備もできたというのに!」
使用人の一人が、アルヴィン先輩に小言を言う。
忙しそうだったのは、俺たちのせいか…。
「すまない、昼食は外で食べてくる。」
「なんですと?!それはアルヴィン様の言うことでも許しません!今から昼食を用意させるので!全く、食べ盛りだというのに!」
使用人さんはどこか怒った様子で急いで去っていった。
悪い人ではなさそうで、なんだか面白かった。
そのとき、客室のドアが開き、にやにやしたネモさんが出てきた。
「いやー。エレンちゃん、熱い恋をしてるねー」
俺とアルヴィン先輩が首をかしげる。
「エレンちゃん、最近仲が良い男の子がいるらしくて。だからまだ婚約したくないんだって!」
ネモさんは一人で盛り上がってまだにやにやしている。
「なるほど、恋ですか!いいですねー!恋!甘酸っぱい!」
俺も思わず親戚のおばさんのような反応をしてしまう。
それとは反対に、アルヴィン先輩は客室に勢いよく入っていった。
「エレン、婚約者は誰だ。」
「あ、えっと、途中で飛び出しちゃったから、名前は覚えていないの。でも、侯爵家の人だった気がする…?」
「侯爵家か…」
そこでエレンちゃんが何かを思い出したかのように立ち上がる。
「あたし、このあとお勉強の予定が入ってるの!アルヴィンお兄様、あとネモさん。それと…」
「あ、マシューです!」
「マシューさん!ここで失礼しますわ!」
可愛らしいお辞儀をして、エレンちゃんは去っていった。
俺は、妹がほしい、なんて呑気に考えていた。
「アルヴィン、婚約って解消できないの?」
「伯爵家から言うのは無理だ。侯爵家が提案してきたなら更に無理だ。あちらのほうが位が高い。」
うわ、貴族って大変。
ネモさんも同じ事を思っていそうな表情をしていた。
そのとき、客室のドアをノックする音が聞こえた。
俺がドアを開けると、そこにはさっきアルヴィン先輩と話をしていた使用人さんが立っていた。
「お話中のところ、失礼します。本日は天気も良いようですし、お外でご飯を食べてはいかがでしょう。」
俺に布でくるまれたバケットを渡し、使用人さんは去っていった。
ネモさんが俺からバスケットを奪い、中を開ける。
「サンドイッチだ!」
俺も横から中を覗き込む。
そこには色んな種類のサンドイッチがぱんぱんに詰まっていた。
「じゃあピクニックだ!アルヴィン!お庭を案内しなさい!」
ネモさんの命令に眉間にシワを寄せながらも、庭に案内してくれた。
そのあと、なぜか巨大な石像の前でお昼ご飯を食べることになった。
ネモさんを石像の影が覆ったので苦情を言っていたが、アルヴィン先輩は満足そうだった。
場所を動かせばいいのではと提案しようとしたが、面白かったので無視してサンドイッチを食べた。




