48話 アルヴィンお兄様
「じゃあさ、お疲れさま会しようよ!」
お昼ご飯を食堂で食べていると、ネモさんが急に喋り始めた。
「一週間の休みなんて滅多にないんだしさ!」
「そもそもなんのお疲れさま会ですか?」
俺が聞くと、ネモさんはちっちっちと持っているフォークを揺らした。
「学術戦のお疲れさま会だよ、マシューくん。」
「じゃあどこでやるんだ。」
アルヴィン先輩の鋭い指摘に、フォークの揺れが止まる。
「まずはミンディたちに聞かないと!」
「誰も参加するとは言ってないが。」
「俺は参加しますよ。」
「マシュー…!あんたはいい後輩だよ…!」
ネモさんはお皿に盛りつけられたサラダを一気に口に入れると、水で無理やり流し込んだ。
「そうと決まれば誘いに行こう!まずはミンディとカルロ先輩から!」
「無理。」
隣の机にお盆が置かれ、誰かが横に座る。
「僕、休みの時は実家に帰らないとだから。」
カルロさんは退屈そうにパンを食べ始める。
向かいの席にはミンディさんが座っており、申し訳なさそうに微笑んでいた。
「私もカルロ様のお手伝いをしなくてはいけないので、お疲れさま会には参加できません。」
ネモさんはガクッと肩を落とし、ミンディさんから励ましの肩ポンをもらっていた。
ミンディさんとカルロさんが行けないということは、残っているのは…
「グレッタさんは?」
俺が聞くと、アルヴィン先輩は首を横に振った。
「グレッタ様の母上であるレイガリオ夫人の誕生日パーティーが近々あると言っていた。忙しい時期に参加は難しいだろう。」
お母さんの誕生日パーティーなら、仕方ないか。
「なら参加は三人ですか?」
「俺は参加するとは一言も言っていない。」
「どうせ参加するんだからいいじゃないですかー」
俺とアルヴィン先輩が話していると、いつの間に復活したネモさんが話に入ってきた。
「じゃあどこでやる?学園はいつもと同じだし、遠出したくない?!お泊まりとかどう?!」
ずいぶん話が飛んだな。
「お泊まりするって言っても、俺の家は結構遠いから無理ですよ?」
「私の家も無理だよ、遠いもん。」
なら残るは…
「…………却下だ。」
「えーなんで?!」
「ネモなんて呼んだら、家の装飾品を壊されかねない。」
「アルヴィンから見た私の評価ってどうなってんの?!」
アルヴィン先輩の家か…。
確かアルヴィン先輩って貴族だから、豪邸なんだろうな…。
ちょっと行きたい。
いや、かなり行きたい。
「ぱらぱら家でしたっけ?」
「伯爵家だ。」
「あ、それです。」
見たいなー、行きたいなーという視線を、ネモさんと一緒に出すが、アルヴィン先輩は無視してくる。
「別にいいんじゃない?減るものでもないんだし。」
ここでカルロさんの助け船が入る!
ミンディさんも首を縦に振って応援してくれている!
この勢いに任せて!
「俺、アルヴィン先輩の家、行きたいです!」
「私も!アルヴィンの家なら行きたい!」
アルヴィン先輩は心底嫌そうな顔で食堂に響き渡るほどの舌打ちをして、大きなため息をついた。
いや、どんだけ嫌なんだよ。
「…………今回だけだ。」
俺とネモさんは喜びのハイタッチをして、カルロさんは楽しそうに目を細めていた。
「明日の朝、必要最低限の物だけ持って学園の門の所に来い。服は屋敷に腐るほどある。」
「やーん!アルヴィン大好き!ありがとう!」
ネモさんが抱きしめようとするのを、アルヴィン先輩が必死で拒んでいた。
代わりに俺とネモさんが抱きしめあった。
そうしてあっという間に時間は過ぎて次の日の朝になり、俺は少しの荷物を持って学園の門の前に立っていた。
ネモさんたち、遅いなー、なんて考えながら辺りを見回す。
「わっ!!!」
「うわ!!!びっくりした!!!」
勢いよく振り向くと、そこには大笑いしているネモさんと呆れ顔のアルヴィン先輩がいた。
「えへへ、びっくりした?」
「俺は止めた。」
「アルヴィンが一番乗り気だったじゃん!何言い逃れしてんの!」
楽しそうにしている二人を見て、いつか絶対やり返すと心に誓った瞬間だった。
馬車がそろそろ来るとアルヴィン先輩が教えてくれたので、三人で門の前で待つ。
「マシューは馬車に乗ったことはあるのか?」
「流石にありますよ!馬鹿にしないでください!」
ヤーリュカさんの家に行ったときの一回だけだけど。
「あ、あれじゃない?」
ネモさんが指をさした方向から、馬の軽快な足音が聞こえてくる。
それからすぐに馬車の姿が見えた。
ここまで豪華絢爛という名前が合う馬車を、一生見ることはないと思えるほどの見た目だった。
アルヴィン先輩に支えてもらいながら馬車に乗る。
中の内装もこれまた豪華絢爛だった。
「なんかこの馬車、落ち着かないかも。」
「妹の趣味の馬車だ。」
「妹さんいたんですか?!」
俺の言葉に、アルヴィン先輩がうなずく。
「三歳差だ。長女でもある。」
「アルヴィンってお兄ちゃんもいなかった?」
「兄は俺とは四歳差だ。伯爵の名を継ぐものでもある。」
おお、三人兄妹。
一人っ子の俺からしたらかなり羨ましい。
「ネモさんの家族構成はどうなんですか?」
「私?私はそうだなー」
ネモさんが指を折って数え始めるが、明らかに数が尋常じゃない。
「正式な家族は母、父、私の三人なんだけど。お父さんが色んなところで子供を作っちゃうから、何人腹違いの兄妹がいるかは知らないんだよね。」
ネモさんのお父様、なんという人なんだ。
そこからネモさんのお父さんとお母さんの熱い恋話を聞かされていると、あっという間にアルヴィン先輩の家についた。
馬車から降りると、目の前には俺の家三個分ほどの大きさの庭があった。
あと噴水。
それからよくわからない石像。
「……貴族って石像好きだよね。」
「同意です。」
そこから門から屋敷の入り口までなのになぜか長い道を歩かされ、へとへとになっていた。
家に帰るだけでこんなに疲れるなら、俺は一生貴族にならなくてもいいかもしれない。
アルヴィン先輩の何倍もある玄関の扉を、扉の横に立っている人が開けてくれる。
ここからどんな豪華な内装が目に飛び込んでくるのだろうかと期待していたが、俺の前に飛び出してきたのは一人の少女だった。
「あっ、ごめんなさい…」
少女の目元は赤く腫れ、泣き腫らしているのがすぐにわかった。
「……エレン?!」
アルヴィン先輩の声を聞き、エレンと呼ばれた少女は俺からアルヴィン先輩に飛びついた。
「アルヴィンお兄様!会いたかった!」
そのまま少女はアルヴィン先輩の胸の中で泣き出してしまった。
状況を全く理解できていない俺とネモさんは、ただただアルヴィン先輩を見るしかなかった。




