45話 かなり早めの晩ご飯
とりあえずすることもないので、コテージまでついていった。
黙っていても仕方ないので、何か適当なことでも話すことにした。
「結局、イリオス先生の祝福って何なんですか?」
学術戦で、最後までそれらしいものは見せなかったイリオス先生。
もうここまで来たら、何も持っていないと言われても逆に納得できる。
嘘、できないかも。
「それを知ってどうする。」
てっきり「言わない。」と即答されるかと思っていたから、その返答は予想外だった。
「まずはネモさんやアルヴィン先輩に言いますね。そのあとに祝福を見せてもらいます。」
イリオス先生は少し考える素振りを見せてから口を開いた。
「なら言わない。」
結局言わないんかい。
ていうか、ならってなんだよ。
「じゃあ、俺の返答によっては教えてくれてたんですか?!」
「いや、言わなかっただろう。」
なんだ、こっちが言い損かよ。
「だが、いつかは言ってもいいかもしれない。」
「いつですか、それ。」
「百年後辺りで。」
「俺死んでますよ。」
イリオス先生にしては珍しい冗談に、思わず笑ってしまう。
イリオス先生もつられて微笑んでいたので、やっぱり言い損ではなかった。
コテージに着くと、中からガサゴソと音がした。
思わずドアノブから手を離し、イリオス先生と目を合わせる。
「……俺はネモさんだと思います。」
「流石に人がいないときに勝手に入るやつではない…………多分。」
いや、そこは確信してあげてくださいよ。
遠くでネモさんがくしゃみをする音が聞こえた気がした。
「じゃあ不審者……?!」
「不審者が入れるような警備だったら、俺はこの学園に退職届を出す。」
それで本当に不審者だったら退職するんですか?と聞こうと思ったが、流石にボケにしては激しすぎるのでやめておいた。
「じゃあ俺は逆転の発想でアルヴィン先輩で賭けますね。」
「逆転の発想の使い方を間違っていると思うが、」
「今はそういうのいいですから!!!」
息を整え、ドアノブに手をかける。
流石に不審者はやめてくれ!と思いながらドアを開けると、
「な、なんだ。帰るのが早いじゃないか。」
今まさにキャンバスに絵の具を塗ろうとしているジュード叔父さんがいた。
「……不法侵入で学園から出禁にするぞ。」
「いやいやいや!!お前と叔父の仲じゃないか!」
ジュード叔父さんは俺の叔父さんであって、イリオス先生の叔父さんではないけど。
「それで、ジュード叔父さんはここで何してたんですか?」
「見てわからないのか?描くんだよ、絵を。」
ジュード叔父さんはわざとらしく持っているパレットと筆をこちらに見せてきた。
「部屋が汚れる。出ていけ。」
イリオス先生は心底嫌そうな顔をして、キャンバスに掴みかかる勢いだった。
とりあえず面白そうだったので、「まあまあ」と言ってイリオス先生を引き止める。
「でも叔父さん、ここで絵を描かなくても自室で描けばいいんじゃないんですか?」
俺の言葉に、ジュード叔父さんは「ちっちっち」と言いながら指を振った。
なんともイラつく態度だが、一応拳を出す前に話は聞こう。
「やはりこういうのは直感が働くところでやったほうがいいのだよ、マシュー君。」
「うぜー」
「心の声が出てるから。おじさん傷つくから。」
まさか言ってしまっていたとは。
それだけ強く思っていたということなのだろう。
ごめん叔父さん、俺の強い思いが止められなくて…!
「だからといって、ここでやる必要はない。他所でやれ。」
イリオス先生がジュード叔父さんの首根っこを掴んで外に放り出そうとしていたので、それは流石に止めた。
「まあ、ちょっとぐらいいいんじゃないんですか?まだお昼過ぎですし。」
俺の言葉に、イリオス先生はまた心底嫌そうな顔をした。
この人、嫌という感情が口には出さないけど顔にはよく出るな。
「そうだそうだ、お前の可愛い教え子も言っているんだし、ヒッ!」
イリオス先生があまりにも鋭い眼光で睨んだため、ジュード叔父さんも思わず震え上がっていた。
それからイリオス先生はため息をつくと、窓の外にある太陽を眺めた。
「日が沈むまではここにいていい。日が沈んだらすぐに出ていけ。」
おお、優しい。
今は夏前だから、日没までの時間が長いことを知っての発言なのだろうか。
だとしたらさらに優しい。
「俺は叔父としてお前のことを誇りに思う。よくこんなに優しい子に育ってくれたな……」
ジュード叔父さんがわざとらしく泣き、イリオス先生の肩を撫でる。
色々突っ込みたいところはあるが、面倒くさいので放っておくことにした。
イリオス先生も心ここにあらずなので、早速心を戻してあげなければ。
「じゃあ、早速だが出ていってくれ!」
すぐに叔父さんの口から出た爆弾発言に、俺も心ここにあらず状態になる。
「いやー、実は俺、近くに人がいると絵が描けなくて。」
そこから適当な理由を適当に言われ、「そういうことで!」とコテージの外に出されてしまった。
中から叔父さんの鼻歌が聞こえるのが、なんともイラつく。
「……急に日没まで暇になりましたね。」
「こんなことになるのなら、制限を日没までにしなければよかった……」
「今さら悔やんでも仕方ありませんよ。暇潰しなら付き合いますよ。」
俺がイリオス先生の背中を軽く叩くと、それに反応するように大きなため息が出てきた。
これは過去最大では?!とイリオス先生を見ながら考える。
「まあ、考えていても仕方ないですし、ちょっと遅めの昼ご飯でも食べに行きますか?」
「昼はもう食べた。」
「なら、かなり早めの晩ご飯ということで!」
イリオス先生の腕を掴んで強引に引っ張り、食堂へ向かった。
とりあえず話す内容に困ったら食堂に来る癖、そろそろ治したい。
食堂につくと、お昼ご飯用のパンがまだ長机の上に大量に置かれていた。
そこには、頬っぺにパンを大量に詰め込んだカロリーナちゃんと、こちらに気づいて気まずそうなテディー君もいた。
「ここ、座ってもいい?」
俺が聞くと、カロリーナちゃんが喋れないかわりに激しく首を振って許可してくれた。
「二人はかなり早めの晩ご飯?」
「ちょっと遅めの昼ご飯だよ。」
テディー君が笑いながら返事をする。
それから正面に座ったイリオス先生を見て、口を開いた。
「……さっきは、すいません。急に変なことを言ってしまって。」
「それは俺が悪かった。人のことに探りを入れるなど、教師のすることではない。君の方が正しいよ。」
イリオス先生はパンをちぎってから口を運んだ。
テディー君も、喋って少しは楽になったのか、パンを黙々と食べ始めた。
「そういえば、今コテージでジュード叔父さんが絵を描いてるよ。」
俺の言葉に、テディー君が勢いよくむせる。
「ジュード先生が?!絵を描いているの?!」
「でも、俺は人がいると描けないからとか言われてさ、だから食堂に来たんだ。」
「流石ジュード先生、考えが常人とは違う……!」
そこで感動するところあったか?
「いいな、僕もジュード先生が絵を描いているところ、見てみたかったよ。」
テディー君が肩を落としながらパンを食べる。
「窓から見るくらいは許してくれるんじゃないか?叔父だからな。」
イリオス先生のその叔父呼びと、謎の確信はどこから来るんですか。
「本当ですか?!僕信じますよ?!」
テディー君は頬っペぱんぱんにパンを突っ込み、早く食べ終わろうと必死だった。
隣のカロリーナちゃんも頬っぺがぱんぱんだから、どっちもリスみたいで面白くなってしまった。
イリオス先生ら食べることに飽きたのか、優雅に紅茶を嗜んでいたけど。
「よし、食べ終わりました!行きましょう!」
勢いよく立ち上がり、テディー君が食堂から出ていく。
その後ろを、俺とまだ頬っぺがパンパンなカロリーナちゃんと、優雅な紅茶を飲んで優雅な立ち振舞いになっているイリオス先生がついていった。
俺もいつか優雅な紅茶を飲む男になろうと心に決めたのはこのときだった。




