44話 全裸になって
こうして俺たちは、イリオス先生に連れられて噴水広場へ向かっていた。
「それにしても、噴水広場に妖精が集まりやすいってどういうことなんですか?」
イリオス先生は歩みを止めずに話しだす。
「学園長には会ったことがあるか?」
「一回ぐらいはあります。」
入学式のときに荷物を押し付けたぐらいしか記憶にないけど。
「彼の妖精の祝福が水なんだ。この学園は彼の祝福に包まれているから、必然的に祝福が多く集まる場所に妖精も集まる。」
「それが噴水広場なんですか?」
イリオス先生が頷く。
正直、言っていることは全く分からない。
学園長が水の祝福を持っているから、水がある噴水広場に妖精も集まるってこと?
「学園長も妖精に好かれている。でなければここの学園長なんてできない。」
「妖精に好かれていいこととかあるんですか?」
「ない。」
即答かよ。
「ただまあ、祝福が使いやすいとかはあるかもしれない。」
「めっちゃいいじゃないですか。」
俺の地面盛り上がり系も、もしかしたらめっちゃ盛り上げられるかもしれないってことだし。
夢しかなくないか。
いやそもそも地面盛り上がり系ってなんだよ。
「いいなー。俺も妖精に好かれたい。体臭とかですかね?」
俺たちの話を聞いていたのか、ジュード叔父さんが急に自身の体を嗅ぎ出した。
横に立っているテディー君が引いているけど、言わないでおこう。
「体臭ではない。」
あ、嗅ぐのやめた。
「王族などが好かれやすい。初めて妖精から祝福を授かった者の家系だからな。」
じゃあ俺が妖精に好かれる世界線は最初から無かったっていうことですね、了解です。
「あとは稀に好かれるやつもいる。そうは言っても、どうせ先祖を辿ったら王族がいた、なんて話になるだけだ。」
ド田舎で梨を育てているペリー家に王族の血が入っているとは聞いたことがない。
いや、もしかしたらいるかもしれない。
「ジュード叔父さん!」
一縷の望みをかけて聞いてはみたが、ジュード叔父さんは悲しそうに首を横に振るだけだった。
「もしいたら、俺はここで全裸になって踊り狂っていた。」
「そうなったら学園初めて出禁になった人になるな。おめでとう。」
イリオス先生の、全く思っていなさそうなおめでとうの言葉にテディー君が吹き出していた。
全員に見られて、テディー君は耳を赤くしながらわざとらしく咳をした。
「着きましたよ、噴水広場です。」
いつもと特に変わらない噴水広場。
太陽の日差しが木漏れ日となって辺りに降り注いでいた。
「それで、妖精はどこにいるんだ?」
ジュード叔父さんが辺りを見回し、俺もつられる。
特にそれっぽいものは何もないし、いつもと変わらない風景だ。
「叔父は分からないだろう。君たちは適当なところでも見てるんだな。」
「叔父って言うな。俺はお前の叔父ではない。」
とりあえず適当なところを見てみるが、何も分からない。
「そもそも妖精ってどんな姿なんですか?」
イリオス先生は首をかしげると、噴水の横にあるベンチを指さした。
「あそこにいるだろ。」
いやどこ。
誰も座ってないベンチなんだけど。
「あー、いるかも?」
「いるの?!」
カロリーナちゃんがベンチを見つめる。
「ほら、あそこ。なんかモヤモヤしてる。空間が歪んでるのか?」
「カロリーナちゃん、妖精が見えたんだね…。」
テディー君もベンチを見つめているが、それっぽいものは見当たらないらしい。
ジュード叔父さんもベンチを穴が開くくらい凝視しているが、特に何も見えてはいなさそう。
「これが妖精の姿、叔父が望んだものだ。」
「だから俺はお前の叔父じゃないって。」
ジュード叔父さんはしばらくベンチを見つめ、それから小さくため息をついた。
「帰る。」
「え?!」
引き止める俺とテディー君の言葉を聞きもせず、叔父さんは来た道を戻っていく。
「別に家に帰るわけではないだろう。学園の客室に戻っただけだ。」
イリオス先生もコテージへ帰ろうとしていたので、急いで後を追う。
テディー君は、まだカロリーナちゃんがベンチに釘付けなので帰れずにいた。
「妖精ってモヤなんですね。」
俺が言うと、イリオス先生はすぐに否定した。
「モヤではない。あれはまだ妖精の姿を自身の中で確定できていないから、モヤになって見えるんだ。」
「俺が、妖精は猫だ!って思ってたら、あのモヤは猫に見えるってことですか?」
「まあ、そういうことだ。」
「イリオス先生は何に見えるんですか?」
イリオス先生は少し考えるとまた口を開いた。
「……何に見えているんだろうな」
「分かってないんですか?!」
「あまり考えていなかった。確かに、俺は何に見えているんだろうな。」
そこからイリオス先生は黙ってしまった。
俺も気まずいので、とりあえず黙って辺りを見回した。
すると後ろからドドドと激しい足音が聞こえてきた。
待ってよーとテディー君のか弱い声が聞こえるのは気のせいだろうか。
「どーん!!!」
そして俺の背中に強い衝撃が走る。
どこかで見たことがある情景だな…と現実逃避をしながら、腰に回された腕を見つめる。
案の定俺の後ろには飛びついてきたカロリーナちゃんがいた。
「か、カロリーナちゃん。それ結構腰にくるからやめてあげて…」
走ってきたのか息が上がっているテディー君は、俺からカロリーナちゃんを引き剥がした。
「あたしを置いていくなんてひどいぞ!」
「それはカロリーナちゃんが、」
「うるさい!」
カロリーナちゃんがテディー君を叩き、テディー君はわざとらしく痛がる。
そんな情景を背中を擦りながら微笑ましく見ていると、ついにイリオス先生が口を開いた。
「君は親族に王族でもいるのか?」
聞かれているのが自分ではないと思い、その場にいる全員がカロリーナちゃんを見た。
「あ、あたしか?」
カロリーナちゃんはうーんと首を捻り、それから気まずそうに口を開いた。
「あたし、」
「カロリーナちゃん、試験のことで先生から呼び出されてなかったっけ?」
「あっ、そうだった!教えてくれてありがとな!」
テディー君の言葉に反応して、カロリーナちゃんはは俺たちに手を振って、走ってこの場から離れていった。
「……じゃあ僕たちもそろそろ帰りましょう。」
「え、あ、うん、そうだね。」
微妙な空気が流れ、それにつられて足取りも重くなる。
そろそろ解散する雰囲気になったところで、テディー君がようやく口を開いた。
「…人のことは、もっと親しくなってから聞いたほうがいいと思います。」
それじゃ、と言ってテディー君が駆け足で離れていった。
「…………怒らせたか?」
イリオス先生が呟く。
はい、多分イリオス先生のデリカシーのないカロリーナちゃんへの発言が、テディー君を怒らせたんだと思います。
とは言えるはずもなく、俺はただ苦笑いをすることしかできなかった。




