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学園の些事  作者: 道兵衛
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43話 誰にも言うな

そうして俺たち四人は、イリオス先生のコテージの前に立っていた。


結論から言えば、予想通りの反応だった。


「帰れ。」


ドアが半分だけ開き、イリオス先生の冷たい声が落ちてくる。


「ちょっと待ってください!」

「待たない。」


ガチャン、と閉められそうになるドアに、俺は慌てて足を突っ込んだ。


「いだっ?!」

「自業自得だ」

「妖精を見たいだけなんです!一目でいいんです!」

「一目が一番面倒なんだ」


ドアと俺の足の間で、静かだが確実に不毛な攻防戦が始まった。


「お願いします!叔父さんがどうしてもって!」

「叔父だろうが叔母だろうが関係ない。」

「俺の人生がかかってるんです!」

「大袈裟だ。」


背後から、テディー君が小声で囁く。


「マシュー君、全然押せてないよ、」

「分かってる……!」


俺が必死に粘っている、その時だった。


「……あ」


横から聞こえた小さな声と同時に、すり抜ける気配。


「入るぞ!」


気付いた時には、カロリーナちゃんがドアの隙間をするりと通り抜け、コテージの中に入っていた。


流石カロリーナちゃん。

小柄な体型を活かして見事潜入していった。

ちなみに全く作戦でやったとかはない。

なので俺は今とんでもなく驚いている。


「ちょっ?!カロリーナちゃん?!」

「何やってるんだ!」


イリオス先生は完全に固まり、次いで深く息を吐いた。


「……全員、入れ」

「やった!」

「喜ぶな。」


こうして俺たちは、半ば強引にコテージへ入った。


ソファに腰を下ろしたジュード叔父さんは、落ち着かない様子で部屋を見回している。

ジュード叔父さんの横に座るテディー君は、ジュード叔父さんしか見ていないけど。

なぜか座らないカロリーナちゃんは部屋を歩き回っている。


「それで、」


イリオス先生が腕を組む。


「用件は分かっている。妖精だろう。」

「そうだ!」


ジュード叔父さんは即答した。

イリオス先生はそんなジュード叔父さんを怪訝な目で見つめた。


「そもそもこの男は誰だ。」


そういえば三人のこと、イリオス先生に紹介していなかったなと思い、まずはジュード叔父さんを紹介する。


「この人は俺の叔父です。」

「ジュード・ペリーだ!」

「……出張講義で学園にいるやつか。」

「それでこの二人は、」

「その二人は知っている。」


イリオス先生が俺の言葉を遮る。


「一年の首席と次席。流石にそれくらいは覚えるようにしている。」


こころなしかテディー君が嬉しそうだ。

カロリーナちゃんはまだ部屋を歩き回っているけど。


「それで、君の叔父は何の用だ。」

「妖精を見たい。できればこの目で。できれば今すぐ。」

「無理だ。」

「判断が早い!」

「そもそも、妖精が見える最低条件は妖精の祝福を持っていることだ。君はその最低条件すら満たしていない。」


ジュード叔父さんは一瞬黙り込んだが、すぐに顔を上げた。


「なら、子供たちに見せてくれ。その姿を言葉で教えてもらう。それを俺が描く。」

「話を聞いていたか?」

「聞いたうえで言ってる。妖精はいるんだろ?」

「いるが、簡単には現れない。」

「じゃあ、どうやったら現れる?」


そのやり取りを聞きながら、俺は思い切って口を挟んだ。


「でも、前は見えましたよね」


イリオス先生の視線が、ゆっくりと俺に向く。


「……何の話だ」

「黒猫みたいな妖精です。イリオス先生に絡んでいた妖精。ネモさんもアルヴィン先輩だって見ました。」


一瞬、空気が止まった。


「……絶対に、誰にも言うな」


低い声でそう釘を刺し、先生は観念したように話し始めた。


「あれは純粋な妖精じゃない。手順を踏めば、見えない者にも見える状態を作れる。」

「手順?」


ジュード叔父さんの言葉に、イリオス先生が頷く。


「もちろん、見えるのは妖精の祝福を持っているものだけだ。まず、妖精の入る器を用意する。」

「器?」

「動物だ。いなければ昆虫でもいい」


テディー君が青ざめた顔で呟く。


「それって……嫌な予感しかしないんですけど……」

「その動物に、特定の血を飲ませる。」

「待て待て、待て。一旦止まれ。」


ジュード叔父さんが手を上げる。


「その時点でだいぶ嫌なんだが、」


だがイリオス先生の話は止まらない。

こころなしか楽しそうだったのは言わないでおこう。


「そうして妖精をおびき寄せ、器の中に入れる。動物の皮を被った妖精が完成だ。」

「……それは、違う」


きっぱりと叔父さんは首を振った。


「俺が描きたいのは、作られた姿じゃない。ありのままの妖精だ。」

「面倒くさい男だな。」


イリオス先生は額を押さえた。


「じゃあどうするんですか?」


俺の言葉に、今度は眉間を押さえた。


「……噴水広場に行く。」

「噴水広場?」

「妖精が集まりやすい場所だ。現れる可能性はある。」

「可能性で十分だ!」


ジュード叔父さんの目が、少年みたいに輝いた。


こうして俺たちは、イリオス先生に連れられ、噴水広場へ向かうことになった。

イリオス先生が本当に面倒な顔をしているので、流石に申し訳なく思った。

今度お詫びに梨でもあげよう。

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