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学園の些事  作者: 道兵衛
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41話 出張講義開催

カルロさんは、どうやってイリオス先生から逃げ切るつもりなのだろう。


そう思いながら、俺たち五人は息をひそめて見守っていた。

第二校庭には、先ほどまでの喧騒が嘘のように静けさが広がっている。

雨上がりの地面はまだ湿っていて、太陽の光を受けてきらきらと反射していた。

校庭の中央で、カルロさんは一人、イリオス先生と向かい合っている。

距離はそう離れていない。

それなのに、逃げる気配も、祝福を使う素振りも見えなかった。


次の瞬間だった。

カルロさんが、ふいに両手を高く掲げた。


「降参だよ。僕一人じゃ、どうにもできないしね」


あまりにもあっさりした声だった。

一瞬、時間が止まったような感覚が校庭を包む。

俺たち五人は、揃って狐につままれたような顔になっていた。


……まじかよ。

最後まで逃げ切るか、少なくともカルロさんのことだから、何か秘策があるのだと思っていた。


カルロさんはそのままイリオス先生のもとへ歩み寄り、周囲には聞こえない声で耳打ちをした。

距離があるせいで内容は分からない。

イリオス先生は何も言わず、目を細めるだけだった。

それ以上の反応はない。

カルロさんは小さく息をつくと、今度は自分からイリオス先生の肩に手を置いた。


「はい、捕まった。」


それだけ言って、振り返る。

少し照れたような、でもどこか満足そうな顔で、俺たちのほうへ歩いてきた。

まだ狐につままれた顔をした俺たちを、カルロさんは面白そうに見ていた。

こうして、俺たちは最後の競技を敗北で飾った。

学術戦の「術」の部分は、あっけなく幕を閉じたのだった。


その後すぐに行われた閉会式では、結果発表が淡々と進められていった。

最後に呼ばれたのは、優勝した班の名前。

学園長が重々しい雰囲気でゆっくりと口を開く。


「アーロン・オリエンス班!」


その瞬間、会場のあちこちから納得したような声が漏れる。


俺も心のなかで納得していた。

生徒会メンバーで、王子様のアーロンに、ロルフ先輩だっている。

あの班の完成度を見ていれば、異論を挟む余地はない。


正直、優勝そのものよりも、俺の意識はまだ発表されていない「優勝賞品」に向いていた。

とんでもなく豪華だという噂だけが先に広まっていて、王族になれるんじゃないかというトンチキな噂まで広まっていた。

その場にいる全員が、何だ、何なんだ…となりながら待っていたが、結局その中身は最後まで明かされないままだった。

気になる気持ちを残したまま、閉会式は静かに終了した。



それから一週間後。

学術戦の「学」の部分、つまり試験もすべて終わり、廊下には順位表が張り出された。

人だかりの中をかき分けながら、俺は自分の名前を探す。


正直言って、とんでもなく難しかった。

今までやってきた勉強は何だったのだろうかと思えるほど、見たことない単語ばかりだった。


「……七十六位」


百数人中七十六位。

悪すぎるわけではないが、胸を張れる成績でもない。

いや、よく見たら悪すぎるな。


思わず肩を落とし、無意識に深く息を吐いた。

そして視線を一番上へ移す。


首席 カロリーナ

次席 テディー


「二人とも、そんなに頭よかったのか……」


驚き半分、納得半分の感想が口から漏れる。


じゃああそこの班は、学年トップの二人が組んでいたのか…。

競技に学力もあったらぶっちぎりで優勝だったのでは?


なんて考えていると、ちょうど本人たちと廊下で顔を合わせた。


「あ、マシュー君!試験お疲れ様!」


テディー君は微笑み、眼鏡の位置を直した。

カロリーナちゃんは順位表に釘付けで、俺の方は少しも見ていなかった。


「テディー!あたしの方が上だぞ!これで今回もあたしの勝ちだな!」


カロリーナちゃんは順位表を指さし、嬉しそうに飛び跳ねた。


「成績でも競い合ってたの?」


俺が聞くと、テディー君は困ったように微笑んだ。


「カロリーナちゃんに、あたしより成績が低かったら言うことなんでも聞け!って言われててね。」

「テディー君が勝ったらカロリーナちゃんが言うこと聞くの?」

「いや、彼女は意地でも聞かないと思うよ。」


そして嬉しそうに走り回るカロリーナちゃんを落ち着かせながら、テディー君も順位表を見る。

だがその目線は順位表ではなく、横の一枚のチラシに向かっていた。

俺もつられてチラシを見る。


『大四教室 有名画家・ジュード 出張講義開催』


ジュード。

どこかで聞いたことのある名前だ。

記憶をたどろうとした、その瞬間だった。


「あー!!!」


突然、テディー君が廊下に響くほどの声を上げた。


「ちょ、どうした?」

「この人!ジュード先生!僕の一番好きな画家!!」


チラシを指差し、目を輝かせるテディー君。

その様子があまりに分かりやすくて、思わず笑ってしまう。


「そんなに好きなの?」

「大好きなんだ!昔一度だけ絵を見たことがあるんだけど、繊細な筆使いに一目惚れしてしまって!そこから個展にも行ったんだけど、ジュード先生はあまり表舞台に立ちたがらないから、会えたことがなくて……」


愛がすごい。

俺が適当に頷いているあいだも、テディー君の語りは止まらなかった。

カロリーナちゃんは完全に興味をなくしていたけど。


「じゃあその講義にいけばいいんじゃないか?」


カロリーナちゃんが適当に呟いた言葉に、テディー君はなぜか頬を赤らめる。


「そんな…神に会うだなんて…」


こいつ、好きなものは神格化する系か。

かなり面倒くさいぞ。


「まあ、考えてても仕方ないし、早速行こっか!」

「ええ?!でも、いや、うーん、」


そして、うだうだしてるテディー君の腕を俺とカロリーナちゃんでそれぞれ掴み、大四教室へと向かうことになった。


やっぱりジュードって名前、どこかで聞き覚えがあるんだけどなー?

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