33話 踊りますか?
あっという間に次の日になり、まだ疲れの残る体を起こして身支度を整える。
寮から出て学園に向かう途中の掲示板に、人が群がっていた。
「あ、マシュー!おはよう!」
ネモさんは俺に気付くと、駆け足で寄ってきた。
寝癖で髪がはねているのが少し面白い。
「今日の競技が掲示板に掲載されててね、私は第二訓練場に行くことになったんだ。」
「ということは、俺も第二訓練場に行けばいいんですか?」
「いや、そういうわけじゃない。」
人混みの向こうから、まだ少し眠そうな顔をしたアルヴィン先輩が現れた。
「どうやら班員全員、違う訓練場に振り分けられている。ちなみに俺は第四で、マシューは第一だ。」
「え、なんでですか?!」
「それは知らん。」
ネモさんもアルヴィン先輩も、カルロさんにミンディさんに、グレッタさんともバラバラってこと?!
俺は誰と行動すればいいんだよ……。
「とりあえず、途中まで一緒に行こ!」
ネモさんに急かされ、歩き出す。
まだ日が完全には昇っていないのか、辺りは肌寒かった。
少し歩くと、お互いがそれぞれの方向に進んでいき、俺は一人になってしまった。
第一訓練場まで一人で向かった俺を誰か褒めてほしい。
訓練場の入口には人が並んでおり、かなり混み合っていた。
列が進み、ようやく入口に来ると、そこには椅子に座ったクラスメイトであるヤーリュカさんがいた。
「ヤーリュカさん、久しぶり!」
ヤーリュカさんは俺に気付くと、こちらに手を振ってくれた。
「あなた、学術戦に参加してたのね。はい、これ。」
ヤーリュカさんが渡してきたバッジには、103と番号が書いてあった。
「それ、胸元とかにつけて訓練場に入ってね。そうしたら同じ番号の人を探して。頑張って。」
「ありがとう!ヤーリュカさんも頑張れ!」
受け取ったバッジを胸元に付け、訓練場に入る。
ヤーリュカさん、裏方だったんだ。
ということはアルアさんとミューンさんも裏方なのかな。
サッチは参加していそうだけど。
ぶらぶらしていてもらちがあかないので、とりあえず同じ番号の人を探すことにする。
周りの人たちはもう同じ番号の人を見つけてるらしく、楽しそうに話していた。
俺も知り合いが同じ番号だったらいいのに…。
なんて考えていると、横を通りすぎた人の胸に103と書かれたバッジを付けていたのを見た。
「あの、すいません!」
俺が声をかけると、その人はゆっくりと振り返った。
なんか見たことある後ろ姿だな、なんてぼんやりと考えていたら、その理由はすぐに分かった。
「……マシュー・ペリーか?」
「………ロルフ・コーネリアス?!?!」
そこには、あのグレッタさんの婚約者で、学園の副会長であるロルフさんが立っていた。
え、見間違いじゃないよな?
ロルフさんだよな?
番号は103だよな?
自分の胸に付いているバッジとロルフさんの胸に付いているバッジの番号を交互に見る。
それから自分の頬をつねり、ようやくこれが現実だと思えた。
ロルフさんって怖い印象しかないんだよな…。
グレッタさんのことで色々あったし…。
「君が今回の相手か。よろしく頼む。」
俺の記憶の中のロルフさんとは裏腹に、彼は俺に手を差し出した。
俺が手を握ると、ロルフさんは口を開いた。
「君たちの班の話は聞いている。東区域で旗を守りきったらしいな。」
「あ、はい!先輩方の力があったからこその結果ですけど…、」
「謙遜はよくない。君が班の人間を助けたことがあるのも事実だろう。最後の転ばしは見事だった。」
ロルフさんは少しだけ微笑んだ。
いつも固い表情しか見ていなかった俺には、ロルフさんって笑うんだ…という感想しか出てこなかった。
「というか、俺が転ばしたのを見てたんですか?!」
「俺の担当区域であった北は、全員降伏をしたんだ。だから早めに終わり、観覧席に移動した。」
全員降伏ってどういうことだよ。
「ちなみにロルフさんの班は…?」
「もちろん、旗を守りきった。今年はグレッタがいない生徒会員でやったから、少し面倒だったが。」
生徒会、おそろしや…。
何があっても生徒会には喧嘩を売らないようにしよう…。
「それで、」
「あつまれー!!!!」
ロルフさんが何か言いかけたところで、訓練場の奥から大きな声が聞こえた。
とりあえず行ってみると、そこには台の上に立つキャロル先生がいた。
「これから第二競技を始める!今回競うのは芸術だ!午後の鐘が鳴ったらまたここに集まってくれ!それでは解散!」
キャロル先生は怒涛の勢いで言いきり、台から降りると去っていった。
「キャロル・ローゼンか。確か一年の土の祝福担当だったな。君の担任か?」
なんだか少し恥ずかしくなり、首を斜めにかしげて苦笑いした。
というか、芸術を競うってなんだよ。
踊ればいいのか?
「さっきのキャロル先生の発言、なんて言ってるかわかりました?」
「芸術を競うことしかわからなかった。」
ですよね、俺も同じです。
「とりあえず午後までに何か考えなきゃですよね…。個性とかを出す発表にしたほうがいいんですかね?」
ロルフさんは頷き、辺りを見た。
周りには俺たちと同じように困惑した顔をした生徒で溢れていた。
「派手なのは他の生徒がやるだろうから、俺たちは違うところで個性を出さなくてはならない。君は人を転ばせる祝福として考えてしまっていいか?」
いや、全然よくないが?
なにその不名誉な祝福。
「土を少し盛り上げられます!」
「キャロル・ローゼンの劣化版ということか。理解した。」
なんか妙にいらっとする言い方だな。
いや別に間違ってはいないけど。
「そういうロルフさんの祝福は何なんですか?」
「俺は……。まあ、見た方が早いだろう。」
そう言うとロルフさんは目を閉じ、手のひらを下にして前に突き出した。
すると手のひらから出てきた黒い塊が地面に落ち、うにょうにょと形を変えていく。
少し経つと黒い塊は犬の姿になり、ロルフさんの横にお行儀よく座る。
その姿はまるで指示を待つ番犬のようだった。
「これが俺の闇の祝福だ。俺が生み出した犬とは視覚や嗅覚、聴覚が共有でき、大きさも変えられる。」
そう言いながら、ロルフさんが円を描くように手を動かすと、犬は子犬ほどの小ささになった。
またロルフさんの手が動くと、今度は俺の身長ぐらい大きくなった。
「何かを探すときに使っている。大きい時は一体しか出せないが、小さければかなりの量を出せる。」
動物を出す祝福ってなんか良いな。
動物って可愛いから結構好きなんだよな。
「君と俺の祝福を組み合わせて出来る芸術は何だ?」
ロルフさんに問われ、腕を組んで考える。
「……盛り上げた土に犬が乗って芸をするとか?」
「芸は教え込んでいない。」
今度は首をひねって考える。
だが、全く良い考えは浮かばない。
「……やっぱり踊りますか?」
「……………それは最終手段だ。」
何も浮かばないし、結構最終手段になりそうなんだけども。
俺とロルフさんが踊ったら、周りはどんな反応をするのだろうか。
考えただけで悪寒がするのでやめておこう。
「ここで考えていても時間がすぎるだけだ。外に行って歩くか?」
「大賛成です。行きましょう。」
やはり気分転換は大事だ。
アルヴィン先輩も、勉強会の時によく息抜きしにどこかに行っていたし。
いや、あれは勉強から逃げていただけか。
ロルフさんは俺の言葉に頷くと、出口へ向かった。
まだヤーリュカさんが椅子に座っており、訓練場から出ようとする俺たちを見て、声をかけてきた。
「午後の鐘が鳴るまでに戻ってきてください。」
俺がぐっと親指を突き出すと、ヤーリュカさんは少しだけ微笑んだ。
「応援してる、頑張って。」
ヤーリュカさんにそう言われ、なんだか恥ずかしくなって頬をかく。
ロルフさんは俺を置いてどんどん歩いており、急いで後を追った。
「他の生徒がいない静かな所で話したいのだが、どこかいい場所は知っているか?」
ロルフさんにそう聞かれたが、まだろくに学園の建物の場所を把握していない俺には難しい問いだった。
ロルフさんが「図書館はどうだ。」と言ってきたが、あそこは喋っただけで殺されかねないので全力で拒否した。
「……あ、一つだけあるかもです。」
「どこだ?」
「人も滅多に寄りつかなくて、しかも屋内です!」
もしかしたら先にネモさんとかがいるかもだけど。
「なら、早速そこに向かおう。案内してくれ。」
家主の嫌がる顔が目に浮かんだが、とりあえずどうにかなるだろう精神で目的地まで向かった。
突き返されないといいけどね…。




