31話 なんだ、猫か
「暗いから、あんまり場所がわからないね。」
「すいません……」
「あ、テディーくんのせいじゃないからね?!」
アルヴィン先輩に背中を叩かれたネモさんは、ごめんってば…と小さく呟いていた。
「それにしても、旗を守ってる班って誰なんでしょうね。」
俺が聞くと、ミンディさんは小さくため息をついた。
「おそらく、自分のクラスメイトの三人班です。前回でも好成績を残していましたし。ですが、」
「ですが?」
ネモさんに急かされ、ミンディさんが灯している炎が揺れた。
「単体で喋るととても良い方たちなのですが、その、三人集まると、かなり、」
「厄介だな。」
「アルヴィン、知ってるの?」
アルヴィン先輩はネモさんの問いに頷いた。
カルロさんも知っているようで、苦笑いをしていた。
「まあ、見たほうが早いだろう。カロリーナ、太陽が頂上に来るまであとどれくらいだ?」
テディー君におんぶされているカロリーナちゃんは、視線を向けられて恥ずかしそうに地面に降りた。
それから上空の闇を見て、うーんと首を捻った。
「まだ時間があると思う。一時間くらい?」
「なら大丈夫だ。さっそく厄介三人組を見に行くか。」
心なしか、アルヴィン先輩は楽しそうに見えた。
ミンディさんは額に手を当ててため息をついていたけど。
◯
「私、ちょっと疲れちゃったかも、」
地面に突き刺さった旗の前に退屈そうに座る少女は、髪の毛をくるくるといじっていた。
「疲れたのかい?近くに川があった気がするけど、一緒に」
「本当?!ケイン、ありがとう!早速行ってくるね!」
リリーと呼ばれた少女は、ケインの手を握りぶんぶんと振り回し、そのまま闇の向こうへ走っていった。
「全く、一緒に行こうか誘おうと思ったのに。」
「リリーに回りくどい言い方はよくないぜ。」
「そういうジョインだってこの前遊びに誘って振られてたじゃないか」
ケインとジョインは旗の前で楽しそうに話し、リリーの帰りを待っていた。
「……リリーは俺らの幼なじみで、生まれたときからずっと一緒にいたよな」
「学園も、クラスも一緒で、」
「リリーに寄ってくる男は全部なぎはらって、」
「この前はヒルディッドがリリーに声をかけて、」
「あれは傑作だったな!俺らの顔を見たらすぐに逃げて!」
笑い声が辺りを包む。
気のせいかもしれないが、周りの木々や草も動いて一緒に笑っているようだった。
「俺、ケインにリリーのこと渡す気、ないから。」
「上等だよ、ジョイン。」
「えー何、なんの話?!」
途中から話を聞いていたリリーが戻ってきたが、制服の裾が所々水で濡れていた。
「いや、なんでもないよ。それで、水遊びは楽しかったかい?」
「え、なんで遊んでることが分かったの?!」
三人の世界を壊す者は、まだ現れない。
しばらくはこのぬるま湯に浸かっていたい……。
◯
「ネモさん、ナレーションつけたさないでください。」
「えー、そういう雰囲気だったじゃん。」
近くの低木の後ろに隠れて、三人の様子を俺たちは伺っていた。
カルロさんがニヤリとして、口を開く。
「そういえば、ヒルディッドってアルヴィンの、」
「誤解だ。あれは彼女が転んだから手を貸そうとしたら、変にあの男二人にちょっかいをかけられたんだ。」
アルヴィン先輩は大きなため息をして、三人を見つめた。
なるほど、アルヴィン先輩が厄介って言っていたのはこういうことだったのか。
「彼女たち、授業中もあのような感じで。正直、いや、かなり面倒くさくて、」
ミンディさんもアルヴィン先輩同様、大きなため息をついた。
ミンディさんと同じクラスっていうことは、全員火の祝福ってことか。
なんかバランス悪い気もするけど、それでも優勝候補ってことはかなり優秀なんだな。
「……彼、ジョインさんでしたっけ?以前先生と話していたのを見かけたことがあるわ。なんでも、実技で満点をとったとか。」
「それなら、僕も見たことありますよ。ケインさんの方ですけど。」
グレッタさんに続けて、テディー君も口を開く。
「彼、二年生の学年次席だった気がします。学園新聞でこの前見ました。」
どちらも優秀なことで。
ようやく誰か分かったのか、ネモさんは「分かった!」と言おうとして、勢いよくアルヴィン先輩に口を塞がれた。
「今、音しなかった?」
騒ぎすぎたのか、リリーさんがこちらに勘づいた。
「音?なにも聞こえなかったけど、」
「絶対聞こえたもん!」
「リリーがそう言うなら聞こえたんだろ。」
「ちょっと見てくる!」
来るな来るな来るな!
そこで止まれ!
「……に、にゃぁん……」
「なんだ、猫か。」
「野生の猫なら病気を持っているし、あまり近づかないほうがいい。」
「この声なら絶対オスなのに、残念。」
そう、オスです。
ちなみにそのオスは今にも恥ずかしさと屈辱で息絶えそうですけどね。
ネモさんの口を手で塞いだままのアルヴィン先輩は、顔を真っ赤にして息を震わせていた。
カルロさんは面白すぎて笑い転げていた。
「な、ないす機転です!」
「うるさい。」
「はい、すいません。」
俺とアルヴィン先輩の会話を聞いて、今度はテディー君が吹き出した。
女性陣はというと、気まず過ぎて全員黙っていた。
カロリーナちゃんは何が起きたか分かっていなさそうだったけど。
「……遊びはここまでだ。本格的に旗を奪う準備をするぞ。」
アルヴィン先輩は息を整え、また三人を見た。
いまだに口を塞がれて苦しそうにしているネモさんを、そろそろ解放したほうがいいのかもしれない。




