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学園の些事  作者: 道兵衛
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28話 どーん!!

「最初から旗を目指して突っ込んだよくなかったかも。時間めいっぱいまで他の班に持たせておいて、最後に奪うっていうのが定石だったね。」


ネモさんは子供のように地面の土をいじりだす。

アルヴィン先輩も、同感だと口を開いた。


「そもそも今回の学術戦はいつが終わり時なんだ。何も教わってないぞ。」

「それが目的でしょ。」


カルロさんは小さくため息をついた。まるで俺たちに呆れてるようだった。


「いつ終わるか教えていたら全員その瞬間に旗を奪いに行く。そんなの面白くないじゃないか。」


確かに。

流石カルロさん、いつも何考えてるか分かんないけど、一応学術戦の事は考えてくれてたんだ。


「因みに、僕なら夜明けを終了の合図にするね。皆寝起きで思考もままならないだろうし。」


というか、学術戦って日付をまたいでも続くんだ…。

そう考えると、無性にお風呂に入りたくなってくる。


「君はどう思う、グレッタ嬢。」


話をふられたグレッタさんは、考えるように首を捻り、そこからしばらくの沈黙が続いた。


俺なら夕方になったら自然に終わらせるけど、これがいわゆる平凡な発想なんだろう。



「…太陽が一番高い時かしら。」

「その心は?」


グレッタさんは空を見上げた。

朝方に始まったのもあり、太陽はまだ東の方角にいた。


「今回の学術戦はオリエンス王もご覧になっているでしょう?そしたら我が国の象徴である太陽が一番高い時に、確実に何かが起きるはずよ。」


グレッタさんの内容は確かに的を射ていた。


「ミンディ、君は?」


カルロさんに急に問いを投げかけられ、まだ息を整えていたミンディさんは驚いて少し跳んでいた。


「普通に、夕方かな、と。」

「どうして?」

「……一番終わりそうな時間だったので。」


大丈夫、ミンディさん。

俺も同じことを考えてたから。


カルロさんはミンディさんの発言に笑みを溢した。


その後俺とネモさん、アルヴィン先輩にも聞いてきたが、全員夕方という回答になった。


「それでは結果発表と行こうじゃないか。」


カルロさんは目を閉じて、小さく息を吐いた。

冷たい風が辺りに吹き荒れ、舞い上がった砂ぼこりに思わず目を閉じてしまった。


「…うん、正解者はグレッタ嬢だったね。」


風が吹き終わり、カルロさんは髪を整えながら言った。


俺とネモさんは、カルロさんがどうして正解が分かったのかが全く分からないという顔をした。

ミンディさんは呆れており、グレッタさんは興味がないようだった。


「どうして、」

「どうして分かったかだって?風の噂だよ。」


アルヴィン先輩の言葉にわざと被せるようにカルロさんが口を開く。

まるでこれ以上は聞いてくるなというような、そんな圧を感じた。


カルロさん、風の祝福を持ってるって言ってたし、今のが祝福の力なんだろう。


答えが知れる祝福?

それとも遠くの声が聞こえる祝福?


どんな祝福だよと内心突っ込みをしてしまった。


「今は大体九時辺りだよね。お昼までまだ全然時間あるけど、どうする?」


ネモさんが班の皆に聞くが、カルロさんは髪の毛をいじっており、話し合いに参加する気は無さそうだった。


「他の班に聞き込み調査とか…?」


とりあえず思いついたものを言ってみたが、あまりにも平凡すぎて恥ずかしくなってきた。


「…今の言葉取り消しでお願いします。」

「いや、取り消さないでいいよ。」


ネモさんは立ち上がって腰周りの土を落としていた。


「敵情視察は大事なことだ。どの班がどんな能力を持っているか知る必要がある。」

「うんうん、アルヴィンに同意。」


グレッタさんもミンディさんも頷いて同意を表してくれた。

カルロさんは心ここにあらずで何の反応も示してくれなかったけど。


「じゃあ聞き込みに行こう!確か東区域にいる班は……数えきれないぐらいいたね。」

「聞き込み調査をし終わる頃には学術戦も終わっていますね…。」


ネモさんとミンディさんが遠い目をしながら指で班の数を数え始めた。


「別に全部の班を聞かなくてもいいでしょ。強そうな班だけで。」


カルロさんはまた目を閉じて小さく息を吐いた。


「今のところの有力候補は二班しかいない。片方は前回の学術戦でも好成績の班。もう片方は…、」


カルロさんは急に喋るのを止め、目を開けて俺を見始めた。


…え、俺?

俺が有力候補ってこと?


そんな馬鹿な事を考えていると、アルヴィン先輩に腕を引っ張られ後ろに下げられた。


その場にいた全員が、俺が立っていた方向を見る。

その向こうからは、人影がゆっくりと近づいてのくるが見えた。


「こんばんは。あ、おはようございますの方が正解ですかね。」


眼鏡をかけた青年は目を細めてはいたが、口元は笑っていなかった。

アルヴィン先輩が一歩前に進むと、青年は驚いたかのように両手を慌ただしく振った。


「敵意はないですよ?本当に話に来ただけですから。」


妙にゆったりと喋る青年に、アルヴィン先輩が警戒をほどく事はなかった。


タタタッと青年の更に向こう側から走る音が聞こえる。

次に聞こえたのは、


「どーん!!」


という可愛らしい声で、その声の主は青年を突き飛ばした。


「テディー!あたしを置いていくなって言ったじゃん!」


青年、テディーは痛そうに背中を擦っていた。


「カロリーナちゃん…せめて予告してから突き飛ばして…。」


青年がカロリーナと呼んだ声の主は、まだ幼さの残る可愛らしい少女だった。

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