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学園の些事  作者: 道兵衛
23/31

22話 高貴すぎる

学術戦が近づいてきたからか、最近は誰もがピリピリしていた。

校庭の一角を歩いているときも、誰もが勉強や対策の話に自然と流れていくくらいだ。

俺はといえば、ネモさんとアルヴィン先輩と並んで歩きながら、正直そこまで深刻じゃない話をしていた。


「俺の祝福って役に立つんですかね…。」

「自分を卑下するな、マシュー。役に立たない祝福は祝福なんて言わない。」

「アルヴィン、いいこと言う!じゃあマシューはさ、ほら、迷路を転ぶ名人とか?」

「ネモさん、それ褒めてないですよね?」


そんなふざけた掛け合いをしていた、そのときだった。


「だから、私には私の考えがあるの。」

「考え?君の考えが間違っている可能性はないのか?」


廊下の向こうから声が響いてきた。

誰かが口論しているようで、俺たちは思わず足を止めた。


「喧嘩ですかね…?」

「…副会長のロルフ・コーネリアスだ。」


アルヴィン先輩が眉をひそめる。


「隣にいるのは…宰相の娘、グレッタ様か」


どう考えても、一般人が立ち入っていい空気じゃないのをひしひしと感じていた。

俺たちは自然と小声になり、そろりそろりと横を通り過ぎようとした。


その時、ふいにグレッタさんの視線がこちらを向いた。

気のせいかと思った瞬間、俺の腕をガシッと掴んできた。


「この方の班に入るわ!」


俺の頭は真っ白になった。


「は、はぁ!?」

「ちょ、ちょっと待ってくださいグレッタ様!?なぜマシューが!?」


アルヴィン先輩まで動揺している。

ロルフ副会長はただこちらを睨みつけるだけだった。


やばい。

副会長に殺される。

いや殺されはしないけど、学園生活が今後詰むのは間違いない。

というか、なんで俺なんだよ!


「え、えっと……」


必死に言葉を探していると、ネモさんが肘で小突いてきた。


「マシュー、ここは紳士的に微笑んで『ようこそ』って言っときな!」

「無理でしょ!?だってなんでお前なんだって顔で副会長が見てきてますよ!?」


実際、ロルフ副会長の目は氷のように冷たく、それでいて怒りが滲み出ているように感じた。

グレッタさんは俺の腕を掴んだまま、副会長をまっすぐと見ていた。


「私、もう決めましたから。」

「グレッタ!君は…!」


副会長の声が追いかけてくる前に、グレッタさんは走ってその場を離れ、ネモさんたちも後に続いた。

というかなんで俺が人質みたいに引きずられてるんだ。


人目の少ない中庭に逃げ込むと、ようやく全員が足を止めた。

俺はようやくグレッタさんから腕を解放され、盛大にため息をついた。


「…説明、してもらえますか?」


アルヴィン先輩が冷静に問いかける。

グレッタさんは涼しい顔で綺麗に整えられた銀色の髪を軽く直し、あっさりと答えた。


「説明も何も、私がこの方の班に入ると決めただけです。」

「いやいやいや!勝手に決められても困りますから!」


俺は思わず叫んだ。


「マシュー、宰相の娘さん相手に困るとか言っちゃって大丈夫?」


ネモさんが耳元で囁く。


「ここで逆らったら処刑されるんじゃ…。」

「それはない!…ないはずです…。」


アルヴィン先輩は溜め息を吐いたあと、少し柔らかい声でグレッタさんに話しかけた。


「グレッタ様、あなたは生徒会の班に入る予定だったのでは?」

「ええ、そうですね。」

「では、なぜマシューの班に?」


グレッタさんは小首をかしげ、さらりと言った。


「特に理由はないと思います。」


理由ないのかよ!


「ま、まあ、理由はともかく」


ネモさんが割り込んできた。


「でもうちの班に入るってことは、グレッタ様も学術戦に出るってことですよね?その覚悟は…」

「ありませんわ」

「ないのかよ!!」


見事三人同時に突っ込んだ。

グレッタさんはきょとんとした顔でこちらを見ている。

本人にとっては、本当にただの思いつきなのかもしれない。

俺は心底嫌な予感しかしなかった。


その後、俺たちは半ば強引にグレッタさんを同じ班のカルロさんとミンディさんに紹介しに行った。

だがどれだけ校舎内を探してもカルロさんは見つからなかったので、ミンディさんにだけ紹介することにした。


「…え、グレッタ様?!そんな、恐れ多いです…。それで、どうしてこうなったんですか?」


みんなの視線が一斉に俺に突き刺さる。


「どうしてかは俺が聞きたいですよ!」


俺は頭を抱えながら叫んだ。


「同じ班ですし、私のことはグレッタと呼んでくれて構いませんわ。」

「因みに、グレッタって読んでる人ってこの世界に何人ほど…?」


ネモさんの問いにグレッタさんは少し首を傾げてから答えた。


「家族と、あとは四人ほどかしら?」


うん、絶対に呼び捨てで呼べない。

高貴すぎる。


「じゃ、じゃあ、グレッタさんって呼ぶね!」


その後に付け足したように、ネモって呼んで!と自己紹介もしていた。

ネモさんに続いて俺たちも自己紹介をし、この場にいないカルロさんの自己紹介はミンディさんにしてもらった。


こうして、俺たちの班に宰相の娘グレッタさんが加入した。


俺の学園生活、前途多難すぎるだろ…。

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