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学園の些事  作者: 道兵衛
22/31

21話 キャロル先生捕獲大作戦

「じゃあ、作戦会議といきましょう。」


ヤーリュカさんが地面に文字を書きながら、きっぱりとそう言った。

俺たちはその周りに集まって、いかにも頭脳戦っぽい雰囲気を漂わせる。


いや、雰囲気だけ。

だって俺、正直、自分の祝福をどう使えばいいのかまったく分からないんだよな。


でも作戦は決まった。

アルアさんがキャロル先生の位置を探知、サッチが進路を塞ぎ、ミューンさんが捕縛、ヤーリュカさんが全体指揮。

俺は……囮。

いや、囮ってなんだよ。

俺にしかできない大役?かもしれないけどさ。


作戦が決まり、俺たちは迷路みたいな壁の間を走り回った。

アルアさんが立ち止まり、しゃがんで耳を地面につける。


「あっちにいる!」


アルアさんが指を指した方向へ突っ込むと、人影が見えた。

それを合図に、サッチが抱えていた壁の土をえぐって石にしてぶん投げる。


「うおっと!」


キャロル先生はそれを軽やかにかわす。

そのまま壁を蹴って、にやにやと笑いながら俺たちの頭上を飛び越えた。


「そんな小細工で、このアタシを捕まえられるか!」

「さすが先生!」


俺たちは悔しがりつつもばらばらになって追いかける。

次にキャロル先生を待ち構えていたのはミューンさんだった。

地面から伸びたツタが一気に広がり、緑の網のようにキャロル先生の進路を塞ぐ。


「かかりました!」

「残念!」


先生は地面を網よりも高く盛り上がらせ、壁の上に跳び乗った。


すごい。

もはやアクロバットの域だ。


俺たちが一斉にため息をつくと、ヤーリュカさんがぱんと手を叩いた。


「まだよ。次は右の通路に追い込みなさい!」


さすがヤーリュカさん、仕切り力が半端ない。


俺たちは言われるがままに動いて、じりじりと先生を追い詰めていく。

…はずだったんだけど。


「ぜぇ……ぜぇ……もう体力が……。」


俺は囮の役目で走り回る羽目になり、すでに息が切れていた。


そもそも囮っていっても何するんだよ、走り回ってるだけじゃん。


サッチヤーリュカさんも肩で息をしている。

アルアさんはまだ頑張ってるけど、ミューンさんは膝に手をついて青ざめている。


一方のキャロル先生はまだまだ余裕なのか、壁の上からひらひら手を振っている。


「アンタたち、動きは悪くないが、まだまだ甘いな!」

「くっそー、やっぱ無理じゃないか?」

「まだよ!」


ヤーリュカさんが一人だけ気迫を保っているが、全体はだんだんバテバテだ。


俺は思った。

ここで何かしなきゃ、また役立たずで終わる。


「よし、俺もやるぞ!」


気合いを入れて、地面に手をかざす。


「出ろ、俺の祝福!」


ちょこん。


足元が、ほんの少し盛り上がった。

つまずくほどでもない、なんなら石ころを蹴飛ばしたくらいの小さな変化。


「…あー、やっぱダメか。」


俺はその場にしゃがみ込んだ。


その瞬間だった。


「はっはっは!いいぞ、もっと追い詰めてこい!」


サッチに追いかけられているキャロル先生が勢いよく俺の方へ跳び降りてきた。

壁を蹴って華麗に宙を舞い、軽やかに着地する…はずだった。


「ん?……なっ!?」


先生の足先が、俺の作った小さな盛り上がりに、ぴたりと引っかかった。


「うわぁぁっ!」


次の瞬間、先生は見事に前のめりで転んだ。

派手に。

海にダイブするみたいに。


「せ、先生ぇぇぇ!?」


俺は一瞬呆然としたが、すぐに駆け寄って先生に覆いかぶさった。

サッチが両腕を押さえ、ミューンさんがツタで巻きつけ、アルアさんとヤーリュカさんも加勢した。


「「「「「捕まえたー!!」」」」」


全員で大歓声をあげた。


泥まみれで押さえ込まれたキャロル先生は一瞬ぽかんとした後、突然笑い出した。


「はーっはっはっは!最高だ!まさかこんな転び方で捕まるとはな!」


俺は慌てて手を離す。


「い、いや今のは偶然で、俺はただ…。」

「マシュー。」


ヤーリュカさんが真顔で俺を指差した。


「結果的にあなたが決め手だったわ。」

「そうだぜ。奇跡も祝福のうちってな!」


サッチが俺の背中を激しく叩き、ミューンさんも目を輝かせていた。


「マシューさん、すごいです!」

「いやいやいやいや、絶対違うから!」


必死に否定する俺の肩を、キャロル先生がどん、と叩いた。


「面白かった!授業はこれで終了だ!」

「え、終わり?これで!?」

「そうだ。アタシを笑わせた、それだけで十分!」


…笑わせただけ?


俺たちは顔を見合わせ、そしてまた笑った。


「ところでキャロル先生、地形は変化しているって言ってましたけど、あれ嘘ですよね?」

「どうしてそう思ったんだ?」


ヤーリュカさんの問いに、キャロル先生は目を細めた。


「私一応歩いた道は全部覚えていたんですけど、道が全く変わっていなかったので。」


え、全部覚えてたの?


「大正解だ。ヤーリュカは頭がいいな!」

「それほどでも。」

「謙遜すんなよー!」


サッチに軽くいじられると、ヤーリュカさんは耳を赤くして早歩きで校舎に戻っていった。

ミューンさんとアルアさんが追いかけ、それを更にサッチが追いかけていった。

校庭には俺とキャロル先生が取り残された。


「マシュー、アンタは自分の祝福をアタシの下位互換だと言ってたね?」

「え、あ…はい…。」


なんだか少し気まずくて俯く。


「大丈夫、マシューはいい祝福を持っている。妖精共々大事にしてやるんだぞ。」


キャロル先生が指で音を鳴らすと地面が揺れ、壁でできた迷路は地面に戻っていった。


「今日は疲れたから午後の授業はなしだ!四人にも伝えてくれ!」


キャロル先生も走って校舎に戻ったので、俺もあとに続いた。


今日ははちゃめちゃに疲れたので、俺も寮に戻って寝るとしよう。


こうしてキャロル先生捕獲大作戦は、奇跡と偶然と俺の不本意な祝福によって、なんとか成功に終わったのだった。

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