20話 曲がり角から
「今日は祝福を使った授業だ。」
キャロル先生に校庭に呼び出され、俺たちはさっきの雨のせいでぬかるんだ校庭に座らされて、話を聞いていた。
「なんで今日は体操着なんですか?」
サッチが手を上げて聞く。
「それはだな…。」
キャロル先生が指で音を鳴らすと、地面が揺れ始めた。
「今日は実践だ!アタシを捕まえてみろ!」
地面が盛り上がり、次々に壁が出来ていく。
気づけば、壁に囲まれて周りの仲間は見えなくなっていた。
俺だけが、呆然と座ったままだった。
「…どうすんだ、これ。」
とりあえず右手で壁をつたいながら迷わないように歩き始める。
「いい行動だが、地形は常に変化している。すぐ迷ってしまうぞ。」
思わず頭上を見上げると、壁の上には楽しそうな顔をしたキャロル先生がいた。
「キャロル先生を捕まえるって、どういうことですか?!」
「言葉の通りだ。行動しなければ何も始まらないぞ!」
キャロル先生は俺の頭上を飛んで消えていった。
祝福使ってみるか…。
といっても、俺はキャロル先生の下位互換のような感じで、地面を少し盛り上がらせる事しか出来ない。
この祝福でどうしろと…?
そんなとき、遠くから誰かの声が聞こえた。
声を出すなんてサッチしかいないだろうということで声の方へ向かった。
「サッチか?」
「その声は我が友マシュー!」
サッチと壁一枚挟んだ状態で喋り出す。
「マシューはこっち来れるか?」
「かなり時間がかかるかも。巨大な迷路みたいになってるから、迷うかもしれないし。」
「だよなー。」
向こう側から悩んでいる声が聞こえ、俺も思わず首を捻って唸る。
「あ!分かった!」
サッチは大きな声を出した後、急に静かになった。
何かしてるのかと思って待っていると、サッチがまた口を開いた。
「壁からちょっと離れてくれ!」
「え、なんで…ってうわ!!」
俺が一歩後ずさったと同時に、土を丸めた岩みたいなものが壁に突っ込み、見事な穴を開けた。
「上手くいったな!」
サッチは壁に出来た穴から顔をだし、爽やかな笑顔で俺を見た。
「え、これ、何、え?」
「あー、なんか壁がぬかるんでたからさ、とりあえず土集めて丸くして固くして壁に突っ込ませた。」
そっか、サッチの祝福って土とかを固くすることが出来るのか。
驚いて言葉も出ない俺にサッチは肩を軽く叩いた。
「じゃあキャロル先生探しに行こうぜ!」
「あと女子組も探さないとだね。」
「だなー。」
狭い道を二人で突き進む。
「サッチってもうそんなに祝福使えるようになったんだね。」
「隠れて練習してるからだな。」
「俺も誘えよー!」
「今度から誘うわ。」
俺も祝福を使ってみたが、ただ足元が少し盛り上がるだけで躓いて転んでしまった。
「そんな何もない所で転ぶことある?」
「何かはあるわ。」
サッチの足元も盛り上がらせると、見事サッチも転んだ。
「…確かに何かあったわ。」
「だろ?」
二人で地面に座って休憩していると、向こう側から走っている音が聞こえた。
「あ、二人とも!」
曲がり角から飛び出してきたのは、体操着が驚くほど汚れていたアルアさんだった。
「さっきぶりだね。」
俺の言葉に頷き、アルアさんが辺りを見回す。
「ヤーリュカちゃんとミューンちゃんは?」
「え、アルアさんと一緒じゃないの?」
「それがどこにもいなくて。」
アルアさんはしゃがんでしばらく地面に耳をつけるとまた立ち上がった。
「近くに人がいるね、何人かは分からないけど。」
「え、どうやったの?!」
「私、足音とか、地面が動いてるのとかをなんとなく感じ取れるの。」
「すごくないか?!」
「すごいすごい!!」
アルアさんの祝福ってなんて素晴らしいんだろう。
もはや羨ましいの域を超えている。
俺とサッチが褒め続けていると、少し赤くなった頬を手のひらで隠した。
「ヤーリュカちゃんたちとそろそろ合流するだろうし、キャロル先生捕縛作戦でも考える?」
アルアさんの提案に俺たちは頷いた。
「ミューンさんって植物の成長を促進させれるから、それでキャロル先生を絡めとる的なのは?」
「草なんてすぐ千切られそうだよな。」
「確かに。うーん。」
俺の提案はサッチに一瞬で却下されたので、また首を捻る。
「私の祝福はあんまり捕縛に適してないし、」
「俺もなんだよなー。」
俺が一番適してないよという言葉はぐっと飲み込んだ。
全員が頭を悩ませていると、遠くから話し声が聞こえてきた。
アルアさんは嬉しそうに声の方へと走っていき、俺たちも後に続く。
曲がり角を曲がった先にいたのは、ヤーリュカさんにすがりつくミューンさんと、そんなミューンさんをごみを見るような目で見ていたヤーリュカさんだった。
「ヤーリュカちゃん、ミューンちゃん!」
「アルアさん…!」
涙と鼻水でぐちゃぐちゃの顔になっていたミューンさんは、嬉しそうに鼻をすった。
「これ、どうにかしてくれない?ずっと泣きわめいてて。」
「ヤーリュカさんだって不安そうだったじゃないですか!」
「そんなことないでしょ?!」
ヤーリュカさんはミューンさんを引き離してから小さくため息をついた。
「キャロル先生を捕まえるんでしょ?私は手伝えないわよ、祝福がまだ使えないし。」
アルアさんはハンカチでミューンさんの顔を拭いていた。
「全員揃ったし、本格的に作戦を練らないとね。まずは祝福を教え合う?」
「じゃあ俺から。俺は土とかを岩ぐらい固くできる。でも大きいの無理。」
「私は地面の中の反響音みたいなのが聞こえる感じかな。なんとなくの方向も分かるよ。」
「私は植物の成長を早められます!お花なら枯れるところまで出来るし、ツタとかなら伸ばせます。」
なんでこんな素晴らしい祝福の中で、ちょっと地面盛り上げられますとか言わなきゃいけないんだよ。
「…俺はまあ、キャロル先生の下位互換的な…?」
「なんだそれ。」
「俺もよく分からん。」
ヤーリュカさんは全員の特徴を地面に指で文字を書き始めた。
「じゃあ、作戦会議といきましょう。」
ヤーリュカさんが手を叩いたのが合図で、俺たちは作戦会議を始めた。




