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学園の些事  作者: 道兵衛
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17話 妖精の悪戯

昼休みに、俺はネモさんに誘われてイリオス先生のコテージにいた。

もちろん、アルヴィン先輩も一緒だ。


「イリオス先生、私たち暇なんですよ。」


いや全然暇じゃない。

溜まってる課題しかないし。

ネモさんに「面白いことが起きるからついてきて!」って言われて着いてきただけだが?


「…おいネモ、用がないなら帰るぞ。」

「えー!アルヴィンどうせ暇でしょ!」


正論なのか、アルヴィン先輩は何も言い返せずにいた。


「全員暇ならちょうどいい。」


いやだから全然暇じゃないが。

絶対に何か押し付けようとしてるだろ。


「植物園に行って水やりをしてきてくれ。ちょうど水の妖精の祝福を受けている者もいるからな。」

「イリオス先生、これは便利道具じゃないんですよ。」


ネモさんは口を尖らせて文句を言っていたが、俺とアルヴィン先輩は拒否権は無いことを理解して黙っていた。


「じゃあ、イリオス先生も行きましょう!これで平等ですよ!」


ネモさんはイリオス先生の手を引っ張ってコテージから出ていった。


イリオス先生が凄い嫌そうな顔をしていたけど、これは黙っておこう。


そうして植物園に着いた俺たちは早速植物への世話を開始した。

ネモさんは自身が出した水を植物にやり、水の妖精の祝福がない男三人組は池から水を汲んでいた。


「…マシュー、水はもっと丁寧に汲め。」

「アルヴィン先輩、じょうろって意外と重いんですよ。ネモさんが水を分けてくれればいいのに…。」

「私の出す水は高価なんだよー。ね、イリオス先生?」

「俺に振るな。」


他愛もない話をしながら、俺は池の縁にしゃがんで水を汲もうと身を乗り出した。


「…先輩方、あの、これ、」


水面にはもちろん俺が映っており、様子を見にきたネモさんたちも勿論映った。

だが、どこかがおかしかった。


水面に映るネモさんはスカートをつまみ、くるりと回ってポーズを決めた。


「ちょ、え?!私そんなことしてないんだけど?!」

「よく似合ってるじゃないか。」


アルヴィン先輩がにやにや笑った。


だがそんなアルヴィン先輩もおかしな行動をした。

腕を組んで真面目な顔をしてるはずなのに、映ったアルヴィン先輩は変に格好つけて髪をかき上げている。


「…………………。」

「アルヴィン先輩って、もしかしてそういう趣味なんですか…?」

「違う。断じて違う。」

「うわ、今ウインクしたよ!」


なんならこちらに向かって投げキスもしていた。


顔が良いから似合うのが妙に悔しいが、アルヴィン先輩は屈辱なのか水面に映る自分をものすごい顔で睨んでいた。


最後に映ったのはイリオス先生だった。


水面に映るイリオス先生は今の厳しくも落ち着いた雰囲気とは違い、どこかあどけなさが残っていた。


何か動きをすると思って俺たちが水面を見つめるも、池はおかしな姿を映さなくなっていた。


うん、これは流石に、


「妖精だね。」

「ですよねー。」


ネモさんはにやにや笑って、もはや口角が天井に突き刺さるのではないかというぐらいだった。


「にしてもアルヴィン、あんな趣味があるとは…。」

「だから違うと言っている!」


アルヴィン先輩は珍しく声を荒げたが、誰も信じていない。

ネモさんは目を合わせるだけで笑いをこらえるのに必死だった。


「でもイリオス先生、あれは……?」


俺はさっきの違和感を思い出して、先生のほうを見る。


水面に映ったイリオス先生は確かに、今よりもずっと幼い姿だった。

まるで幼少期のイリオス先生みたいな、


「あれが昔の俺だとでも言いたいのか?」

「違うんですか?」

「さあな。妖精の悪戯だろう。」


そう言ってイリオス先生は、水面をひと睨みしてから、くるりと背を向けた。

そのまま歩き出した背中からは、いつもの余裕が少しだけ失われているように見えた。


「…やっぱり妖精の悪戯だったね。」


ネモさんが、今度はちょっとだけ真剣な声で呟いた。


「祝福を受けている者が近くにいると、時々こういう不思議な現象が起きるって文献で読んだことあるよ。」

「つまりネモさんのせいってことですか?」

「それは風評被害!妖精たちが面白いと思ったから勝手にやっただけだもん!」


それもそうか、と妙に納得してしまう自分が悔しい。

この学校ではあり得ないが日常すぎて、だんだん思考が麻痺してきた気がするな…。


「…よし、仕事に戻るぞ。」


アルヴィン先輩はもう話題を終わらせたいらしく、黙々と水を汲み始めた。

イリオス先生も、どこか不機嫌なままバラの鉢にじょうろを向けている。


「…ねえマシュー。」


ネモさんがこっそり俺に耳打ちしてきた。


「この池、本当に起きたことが映るって噂もあるんだよ。」

「…え?」

「さっきの、本当だったかもね。」


俺はちょっとだけ笑って口を開いた。


「アルヴィン先輩が髪をかき上げるかもしれないんですか?」


ネモさんは吹き出し、アルヴィン先輩は大きなため息をつき、イリオス先生は聞こえないふりをしていた。

こうして、にぎやかな植物園の昼下がりは過ぎていった。

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