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学園の些事  作者: 道兵衛
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16話 誰ですか?!

夜の食堂はいつもより静かだったが、そんな平穏を破ったのはネモさんの声だった。


「あ、ねえ!あの噂って知ってる?!」

「ネモ、口に物を入れたまま喋るな。」


アルヴィン先輩の小言を無視して、ネモさんは喋り続ける。


「なんでも、夜の噴水で愛を囁きあってる人たちがいるんだけど、誰もその正体を知らないから、もしかしたら妖精かもって言われてるの!」

「妖精って言葉を喋るんですか?」

「喋るけど普通の人は聞き取れないの。」

「じゃあ妖精じゃないだろ。どこかの恋人が現を抜かしているだけだ。」


ネモさんはまたアルヴィン先輩の小言を無視して俺に話しかける。


「今日の夜さ、噴水広場に行こうよ!」


めっちゃいいですね!

と言いたい所だが、寮を抜け出したのがバレたら寮母さんに半殺しどころか地獄を見せられそうなので、答えはいいえだ。


「マシューなら来てくれると思ったのに…。アルヴィンは?」

「無理だ。」

「おねがーい、ね?」


ネモさんに上目遣いで見られたアルヴィン先輩は眉間に皺を寄せて、ぎこちなく頷いた。


アルヴィン先輩もよく抜け出しているとは聞いてたけど、ネモさんに誘われたから抜け出してたんだな…。

まるで娘の我が儘に付き合う父親…。


「アルヴィンが来るならマシューも来るでしょ?大丈夫、今日は寮母さんいないから!」

「なら行きます!」


寮母さんがいないのであれば、怖いものはない。


「じゃあ晩ごはん食べたらそのまま行こ!」


ネモさんは嬉しそうに笑いスプーンをくるくると回し始めたが、下品ということでアルヴィン先輩に奪われていた。


全員が食べ終わり、食堂を後にする。

夜風は思いの外冷たく、ポケットに手を突っ込んで歩いた。


「愛を囁きあうってどんな感じなんでしょうね。」


俺の問いにネモさんは目を輝かせる。


「やっぱり好き同士だしお互いのことが分かりあってるんだから、言い合うの楽しいんだろうなー。」

「そうですねー。」


俺も彼女ほしいな…なんて考えてはみたものの、虚しくなって思考を中断した。


ネモさんは彼氏ほしいと亡霊のように呟いており、アルヴィン先輩は生暖かい目で見つめていた。


「…本当に誰かいるんですかね。」


噴水広場に近づいてきたので、俺たちは音を立てないように歩いたが、ネモさんは小走り気味で前を歩いていた。


「…てる…。」


声が聞こえたのが嬉しかったのか、ネモさんは噴水広場の低木の後ろに飛ぶように隠れた。

俺とアルヴィン先輩も後に続き低木の後ろに隠れて、噴水の方を見る。


確かに噴水の近くには人影があり、俺たちは耳を澄ませて内容を聞いた。


「…愛してる…。」


思わず叫びだしそうなネモさんの口を手で押さえ、アルヴィン先輩は小さく囁く。


「噂っていうのは、大抵期待外れなものが多い。よく聞いてみろ。」


アルヴィン先輩は目を細め、少し呆れたように微笑んだ。


「…そんなところも愛してる…。」

「…たまに…なのも可愛い…。」


噂通り恋人同士が愛を囁いているようにしか聞こえないけど…。


でもネモさんは何かに気付いたのか、戦意喪失したように固まっていた。


「癖毛が可愛い。」

「でも成績評価が厳しいのが玉に(きず)よね。」

「別にいいじゃん。授業面白いし。」


…なんかどっかで聞いたことある内容だな。

どっかっていうより、部活見学をしたときに聞いた内容だな。


「…せみ会…。」

「せみ?」

「『せ』んせい方を『み』守る会。約してせみ会だ。」


ネモさんの呟きをアルヴィン先輩が見事説明してくれた。


つまり恋人同士で愛を囁きあってるわけじゃなくて、先生に対しての愛を囁きあってたのか。

なんか全然思ってたものと違かったな。


ネモさんは突っ伏しており、アルヴィン先輩は少し笑いをこらえつつ、「噂は大抵こういうものだ。」と呟いた。


俺たちは少し間を置いてから、低木の前で肩を寄せ合うようにして立ち去った。


「全然違うじゃん!!」


寮へ向かう道で、しかめっ面をしたネモさんが面白いのかアルヴィン先輩はまだ笑っていた。


「でもさ、アルヴィンなら夜の噴水での告白とか似合いそうだよね。」


ネモさんは悪戯っぽくアルヴィン先輩を見上げたが、当の本人は軽く肩をすくめるだけだった。


なんだか面白くなって笑ってしまい、拗ねたネモさんにどつかれた。


帰り道の話題は自然と恋愛の話に移った。

ネモさんの弾丸質問に、俺は思わず照れてしまって答えられなかった。

アルヴィン先輩は「くだらないことを聞くな。」と真面目に返していたが、どこか楽しそうな表情をしていた。


「逆にネモさんは気になってる人とかいるんですか?」


このままでは茹でダコにされると思いネモさんに逆質問をしたが、反応は思っていたものとは違った。


「え、あ、私?どうだろ、いや、うん。いないと思うけど、いるかも、しれない。うん。」


ネモさんは「この話終わり!」と叫んで走り出した。


「え、誰ですか?!」


俺は走って追いかけ、アルヴィン先輩は呆れた目で俺たちを追いかけた。


俺の笑い声と、ネモさんの叫び声、そしてアルヴィン先輩のため息が、夜の静けさを吹き飛ばしていた。

初めて後書きを書くので、使い方が違うのであれば後程直します。

今回出てきた先生方を見守る会は9話に出てきていますので、特に大事な話ではありませんが、確認したい方がいましたらぜひご覧ください。

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