14話 あれじゃね
「それで、話っていうのは?」
お昼休みに、ご飯を食べながらヤーリュカのお姉さんと喋ることになった。
俺とミューンさんはそこまで初対面の人と喋るのが得意ではないので、サッチとアルアさんに相手をお願いした。
「自己紹介がまだだったね。私は三年生のラーシェル・ゲーナイン。よろしくね。」
俺たち四人も自己紹介をし、本格的に話が始まった。
「急なんですけど、ヤーリュカさんと仲は良いんですか?」
本当に急だな。
それが本題だから別にいいけどさ。
「あー、あなたたちってリュカのお友達だったのね!」
ラーシェルさんは自分がこの場にいる意味をようやく理解したのか、うんうんと首を縦に振った。
「仲良いと思ってたんだけど、この学園に入ってから変によそよそしくなっちゃって。理由は分かってるんだけどね…。」
「その理由は…?」
アルアさんが恐る恐る聞くと、ラーシェルさんは困ったように微笑んだ。
「家系妖精って知ってる?」
その言葉に、俺とサッチが首を捻る。
「貴族が国王から貰える妖精の事なんだ。最初は貴族しか祝福が使えなかったって聞いたことない?」
キャロル先生が言ってたような言ってなかったような…。
「私のゲーナイン家は水の妖精を貰ってね、だから私の家の人は全員水を扱えるんだけど、ヤーリュカはほら、土じゃない?それが気まずいんだと思う。」
一家の中で自分だけ違う妖精なら、そりゃ気まずいよな。
でも気まずいっていうより…、
「焦ってるんじゃないんですか、ヤーリュカさん。」
ミューンさんが口を開く。
「ただでさえ家族とは違う妖精の祝福を貰って疎外感を感じるのに、ラーシェルさんは学年でも有名な元副会長。お姉さんのようにならなくちゃって焦るのもおかしくないはずです。」
「…私のこと知ってるんだ。」
「去年の学園祭で見たことがあるので…。」
「なるほどね。」
ラーシェルさんはまた困ったように微笑んだ。
あの笑い方、彼女の癖なのだろうか。
それにしても、元副会長か。
なんかちょっとかっこいいな。
「じゃあさ、君たちリュカに会いに行ってあげてよ。今ごろ部屋のすみっこで泣いてると思うから。」
ラーシェルさんは指先から水を出すと、それを鳥の形にしていった。
鳥は食堂の中を飛び回り、窓から外へ出ていった。
ネモさんも水を動物の形にしていたけど、水の祝福を使う人は全員そうなのだろうか。
「家に迎えを頼んでおいたから、少し待ったら校門に馬車が来ると思う。それに乗って行っちゃってねー。」
そう言って、ラーシェルさんは去っていった。
「…え、俺たち今からヤーリュカさんの家にお邪魔しに行くのか?」
「お、お、お菓子とか持ってった方がいいんですかね、」
「落ち着いて、ミューンちゃん。」
「キャロル先生に午後の授業欠席しますって言わないと。」
残された俺たちは慌てふためき、とりあえず二人ずつで分かれることになった。
俺とサッチはキャロル先生がいる職員室に向かい、アルアさんとミューンさんは市街地にお菓子を買いに行った。
「キャロル先生いますかー?」
サッチが声をかけたが、職員室にはキャロル先生はいないようだった。
代わりにイリオス先生が出てきた。
「その探している先生から伝言だ。午後は用事が入ったので自習との事だ。」
イリオス先生にお礼を言い、校門に向かう。
「キャロル先生って絶対この流れ分かってたよね。」
「どうしてそう思うんだ?」
「なんとなく。」
「なんとなくかー。」
サッチは背伸びをして大きなあくびをした。
「でも、ちょっと分かるぞ。」
「だよなー。」
校門について少し待つと、並木道の向こう側から二人が走って来ているのが見えた。
「すいません、遅くなりました。」
「全然待ってないから大丈夫!それにしても何買ったんだ?」
サッチに聞かれ、アルアさんは紙袋から缶を出した。
「ヤーリュカさんは紅茶が好きだと聞いたので、茶葉を買ってきましたよ。」
「でもヤーリュカさんって貴族ですから、お茶なんて飲みなれてるでしょうし、庶民のお茶は不味いかもしれません、」
「そういう事言わないの。」
やっぱり買い物は女の子に任せた方がいいな、うんうん。
「お、あれじゃね?」
サッチが停まっている馬車を指差して近づく。
「ゲーナインさんの馬車ですか?」
馬車を運転していた老人は頷くと、わざわざ馬車のドアを開けてくれた。
「俺、馬車に乗るの初めてかも…。」
すごいな、まさか一生乗ることはないと思ってたのに。
ずっと乗ってるとお尻がいたくなるって聞いたけど本当なのかな。
それよりもちょっと運転してみたいかも…。
俺たちが乗ると、馬車が動き出した。
「何回か乗ったことあるけど、これお尻痛くなるから苦手なんだよな。」
「ちょっと揺れが激しいですよね。」
「私も初めてです!」
俺はミューンさんと固い握手を交わし、馬車初めて同盟を心の中で結んだ。
確かにお尻は痛いし、ちょっと酔うかもしれない。
皆と話していると時間は過ぎていき、あっという間にヤーリュカさんの家につくことが出来た。
馬車から降りるとまず目に入るのは大きな門。
門を通ると次に目に入るのは俺の家がすっぽり収まるぐらい広い庭。
そして豪邸。
貴族ってすげー。
「貴族ってすごい…。」
ミューンさんも同じことを考えていたようで安心した。
馬車を運転してくれていた老人は豪邸の中に入れてくれて、部屋に案内してくれた。
「皆様がいらっしゃった理由はラーシェル様から聞いております。ヤーリュカ様を呼んできますので、しばらくお待ちください。」
あれが執事というものなのか…。
「「かっこいい…!」」
うん、ミューンさんとは本当に気が合いそうだ。
「この絨毯、私の家から取り寄せたものですね。」
アルアさんが床に敷いてある絨毯を見て喋り出す。
「俺んちもこの絨毯敷いてある!」
「どうもご贔屓にありがとうございます。」
「いえいえ。」
「アルアさんの家はお店でもやってるの?」
「はい!ヴェルネストという商会をやっています!」
ヴェルネスト商会…?
それってうちの梨を買い取ってくれる商会じゃなかったっけ…?
よし、媚を売ろう。
「いつもご贔屓にありがとうごさいます。」
「よく分かりませんけど、いえいえ。」
これからもうちの梨をよろしくお願いしますと伝えたところで、部屋のドアが開いた。
「…なんで来たの。」
ヤーリュカさんは泣き腫らして赤くなった目元を隠すように、上から毛布を被っていた。
サッチはやはり気まずいのか、俺の後ろに隠れた。
「私たち、ヤーリュカさんとお話をしに来たの。」
アルアさんが沈黙を破り、ヤーリュカさんに向かって話を始めようとしていた。