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学園の些事  作者: 道兵衛
12/28

11話 姉らしい

「…そちらの女性は?」


ネモさんが沈黙を破った。


「姉らしいが、ほぼ親族だ。」


どっちだよ。


イリオス先生はこめかみを押さえながら、もう片方の手に持っていた花束を机に置いた。


あの花束、俺が花屋で奢ったやつだ。

じゃあこの女性は、本当にさっきの女性と同じ人なんだ。


(わたくし)はオリアナよ。しばらくイリオスのお家に泊まることにしたの。」


スカートの裾を持ち上げて、貴族のお嬢様のようにお辞儀をする。

一瞬でオリアナさんが良家の出身だというのが分かった。


…ん?


「今、泊まるって、」

「俺は許可していない。」

「お姉ちゃんのお願い、聞いてくれないの?」

「産まれたのが数ヶ月早かっただけだろ。」

「意地悪なんだから。」


ネモさんもアルヴィン先輩も状況が読み込めないのか、口を開けて動きを停止していた。


「皆さんはイリオスの生徒さんなの?」

「そんな感じです。」


嬉しそうにオリアナさんは微笑んだ。


綺麗な人だ。

なんというか、こう、神秘感というか、

窓から差し込む光に金色の髪が照らされて、もはや神々しいという感じだ。


「…えっと、え?イリオス先生って家族の方いたんですか?一人っ子って、」

「一人っ子のはずだ。」

「はずってなんですか…。」


ネモさんの声にアルヴィン先輩が反応し、ようやく意識を取り戻した。


「イリオス、この方は、」

「俺の親族で、姉らしい。それ以上でも、それ以下でもない。」


アルヴィン先輩はイリオス先生の言葉で口を閉じ、黙ってしまった。


「あ、えっと、ネモ・コックスです。この男はアルヴィン・ヒルディッドです。この子は、」

「マシューさんでしょう?さっき会ったばかりなの。」


オリアナさんと目が合ったので、軽くお辞儀をする。


「何か迷惑をかけていないだろうな。」

「もちろん。お花屋さんで私の代わりにお金を払ってくれたの。」

「それを迷惑をかけたって言うんだ。」


イリオス先生は急に俺にお金を渡してきた。


「足りなかったら増やすが。」

「いやいや、多すぎるぐらいですよ。お釣り返しますね。」

「迷惑料で受け取っておけ。」


迷惑はかかってなかったから別にいいんだけどな…。


「ネモさん、だったかしら?(わたくし)、ずっと女の子のお友達が欲しかったの。よければ少し話さない?」

「あ、はい!ぜひぜひ!」


そこから二人はガールズトークに花を咲かせていたが、男三人は無言で立っていた。


「あの、お姉さんいたんですね。初めて知りました。」

「誰にも言ったことがないからな。」


なんかここだけ寒くない?

なんでこんなに話が弾まない?

アルヴィン先輩は黙っちゃったし。


「えっと、オリアナさんはなんでここに。」

「家出だそうだ。いい歳して何やってるんだか…。」

「イリオス、何か言った?」

「…何も。」


オリアナさんはため息をつき、困ったように頬に手を当てた。


(わたくし)、夫がいるの。でも少し喧嘩をしてしまって。」


夫婦喧嘩で家を飛び出してきたのか。

オリアナさんと結婚できるなんて、一体どれだけ前世で徳を積んだんだ。


「因みにどうして喧嘩を?」

「…彼って少し過保護で、(わたくし)に何もやらせてくれないの。紙を持とうとしただけで、指を切るかもしれないからとか言って持たせてくれなくて。他にも…」


ネモさんから聞かれ、オリアナさんはどんどん旦那さんの愚痴が出てくる。

話を聞いている限り、旦那さんが少しじゃなくてとんでもなく過保護だということが分かった。

イリオス先生は聞き飽きたのか周りの器具をいじっていた。


俺の両親は滅多に喧嘩しないけど、したときはとんでもなかったな。

母さんは父さんを無視し続けて、父さんはとんでもなく困ってた。

両親の喧嘩で一番被害を受けるのが息子の俺だから本当にやめてほしい。


「だから(わたくし)、夫に置き手紙をして家を飛び出したの。貴方が直々に迎えに来るまで家には帰りません!ってね。」

「おい、旦那がここに来るのか?」

「そう願ってるわ。」

「頼むからここを修羅場にはしないでくれ…。」


そのときは観戦するためにお菓子でも持っていくか。


「明日には迎えに来るはずだから大丈夫よ、イリオスに迷惑はかけないわ。」

「既にかかっているんだが…。」


イリオス先生は机に置いてあったクッキーをオリアナさんの口に詰め込んだ。

あれで黙らせたつもりなのだろうか。


「それで、君たちは何故ここに来たんだ?用があったんだろ。」

「あ、そうだ。渡すものがあったんです。」


ネモさんは持っていた紙袋をイリオス先生に渡した。


「…手袋か?」

「この前壊れちゃってたじゃないですか。」

「そういえばそうだったな。助かった。」


ネモさんは頬を赤らめると、照れくさそうに笑った。


「じゃあもう寮に戻れ。オリアナとは明日また話せばいい。」

「ネモさん、またお話しましょうね。」

「もちろんです!女子会やりましょ!」


ネモさんは黙っているアルヴィン先輩の手を引いてコテージを出たので、俺も二人にお辞儀をして外に出た。


「イリオス先生にお姉さんがいたなんて衝撃だなー。」

「知らなかったんですか?」

「うん、イリオス先生って全然自分のこと話さないから。でも一番上じゃないのは当たってた!」


ネモさんは手を叩いた後に小さくガッツポーズをして喜びを体で表していた。


「アルヴィン、ずっと黙ってるけど体調でも悪いの?」

「…いや、大丈夫だ。少しオリアナ様とは喋れなくてな。」

「えー、イリオス先生は呼び捨てなのに、オリアナさんは様付けなんだ。」

「大人で呼び捨てしているのはイリオスだけだ。それ以外は敬称はつけている。」


あ、そうなんだ。

てっきり大人を舐めているとでも思ってたけど違ったんだ。

そりゃアルヴィン先輩だし違うか。


「明日午前授業だけだし、午後はオリアナさんに会いに行こっかな。二人は?」

「俺は部活があるからいかない。」

「あ、俺行きます!」


決してオリアナさんの旦那さんが気になるとかではない。

明日迎えに来るから、オリアナさんの旦那さんが見れるかもしれないとは微塵も思っていない。


「じゃあお昼食べたら一緒に行こ!はー、疲れた。」


ネモさんが小さくあくびをする。

気付けば夕方になっており、俺たちの背中を夕日が照らしていた。

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