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学園の些事  作者: 道兵衛
11/28

10話 ほぼ風

この学園に通ってから初めての休日がやってきた。

本当は帰省するつもりだったが、明日に授業があると聞いて、帰省は諦めた。


「ならさ、遊びに行こうよ!」


食堂で朝ごはんを食べていると、ネモさんがそう言い出した。


「…抜け出すんですか?」

「いや休日は抜け出しても大丈夫だから!」


その言葉に胸を撫で下ろす。


寮母さん怖いからなー。

この前のネモさんたちの二の舞は嫌だ。


「どこ行く?イリオス先生のところとか?」

「そこはいつも行っているだろ。」

「だよねー。じゃあ、市街地にでも行く?」


市街地か!

ずっと行ってみたかったけど、行く機会がなかったんだよなー!


この学園は貴族たちが住む地域の近くにあり、そのため国中から集まった品々を扱う店が近くに並んでいる。

俺も人生で数回しか行ったことがない。


「賛成だ。」

「俺もです!」

「じゃあ外出用の服を着て、校門に集合ね!」


ネモさんは口にご飯を詰め込み、寮に戻っていった。

俺たちもそれぞれの行動に移る。


部屋に戻り棚を開け、服を着替え始める。

肩掛けのバッグに財布やらを詰め、校門に向かう。

一番乗りかと思ったが、既にアルヴィン先輩が本を読んで時間を潰していた。


「早いですね。」

「服を着替えるだけだからな。マシューは何か買うのか?」

「いやー、特には。」


何買おう。

無くて困ってるものはないんだよな。


少し待つと、向こうからネモさんが走って向かってきているのが見えた。


「ごめんごめん、待った?」

「ああ。」

「そういうときは待ってないよって言うの!」


ネモさんは少し崩れた髪型を手鏡を見ながら直していた。


「…お化粧してきたんですか?」

「え、分かる?!ちょっとだけだけどしてきたんだよね!」


ネモさんは嬉しそうに歩きだし、俺たちもそれに続く。


「アルヴィンは全然気付かなくてさー。やっぱマシューぐらい気付くのが当たり前だよね。」

「…女性の変化に気付くのは難しい。」

「ですよねー。」


従姉妹に聞かれた時は答えるのが大変だった。

前髪をほんの少ししか切ってないのに、どこが変わったでしょうか!なんて聞かれたときは正気を疑った。


「今日はお買い物が目的なので、いっぱいお金持ってきちゃった。」


アルヴィン先輩は眉間に皺を寄せ、俺の耳元に顔を近づける。


「…ネモはとんでもない量を買う。荷物持ちを任されそうになったら俺に言え。」


アルヴィン先輩…かっけぇ…。


俺を守ろうとしてくれているその心意気には尊敬の念を抱かずにはいられない。


校門を抜けた先にある並木道を少し歩くと、すぐに市街地についた。


「じゃあ、お昼にここに集合ね!」


ネモさんはそう言って、風のように去っていった。


風のようにというより、あれはもうほぼ風だった。


「…俺は本屋に行く。マシューも好きにしたらいい。」


アルヴィン先輩もこの場を離れ、俺は一人取り残されてしまった。


とりあえず色々見るか。


道路にある出店には様々な物が売っていた。

祝福刻印の装飾品や、屋台料理。

王宮にいる近衛兵士が持つ剣の模倣品を見つけたときは、流石に買おうか悩んだ。


適当にふらふらと歩いていると、小さな花屋の前についた。

歩き疲れたので中に入って涼もうと思い、中に入る。


「お嬢さん、この銀貨はうちじゃ扱ってないんだ。悪いが、他の銀貨は無いか?」


会計のところには、店員と女性がなにやら衝突しているようだった。


「…お嬢さん、お金が払えないのなら帰ってくれ。うちはそういう慈善活動はやっていないんだ。」


女性は身綺麗な格好をしていたが、お金が払えないのか、浮浪者だと思われていた。

流石に傍観は出来なくなり、バッグの中にある財布からお金を取り出し店員に渡す。


「これで足りますか?」

「なんだ、連れがいたのか。なら早速作ってくるよ。」


店員は奥の部屋に消え、その場にはお釣りを渡された俺と女性だけが取り残された。


「助かったわ。弟にあげるお花を買いたかったのだけれど、買い方が分からなくて困っていたの。」


買い方が分からない?

もしかして物を自分で買ったこと無い貴族のお嬢様か?

いや、お花を初めて買ったって意味だろう。

流石に深読みしすぎだ。


「お助け人さん、貴方お名前は?」

「あ、マシュー・ペリーです。」

「良い名前ね。(わたくし)は、」


その言葉と同時に、店員が奥から戻ってくる。


「注文通り作ったよ。毎度あり。」


女性は店員から花を受け取ると花屋から出ていった。


いや結局自己紹介しないんかいというツッコミは胸の奥にとどめておいた。


そこの花屋は押し花を売っていたので、偶然の出会いを記念して、押し花を一つ買った。


そんなこんなで時間は過ぎていき、あっという間にお昼時になった。


「アルヴィンは何買ったのー?」


ネモさんに聞かれたアルヴィン先輩は、大量の荷物を抱えていた。


「…本を一冊だけだ。」


大量の荷物はネモさんのだったんですね。

了解です。


「マシューは?」

「押し花を一つだけ。」

「なんかいいね、それ。私も今度作ろっかな。」


アルヴィン先輩に大量の荷物を預けているネモさんも、唯一自分の手で持っている紙袋があった。


「その中には何が入ってるんですか?」

「あー、イリオス先生が欲しがってたやつなんだ。この後渡そっかなーって思ってて。」


出店でどこでも売っているような焼き肉の串刺しを買い、皆で食べなから学園に戻る。

そして向かった先はイリオス先生のコテージだった。


「そういえば、花屋で女性に会ったんですよね。」

「知り合い?」

「いや、多分初対面です。」

「どんな人?」


コテージに入ると、イリオス先生の他にもう一人女性がいた。


「ちょうどあんな見た目で…。」


女性は俺に気付くと、小さく手を振ってきた。

思わず振り返したが、今思うとかなり図々しかったと思う。


イリオス先生と女性が同時に口を開いた。


「親族だ。」

「姉です。」


二人は顔を見合わせ、もう一度口を開いた。


「姉だ。」

「親族です。」


この息が全くあっていない二人に、とりあえず俺たちは挨拶をしたのだった。

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