9話 呼んだ?
あの妖精お節介事件から数日経った放課後。
授業も終わったので一旦寮にでも戻ろうかと考えていたところ、サッチが話しかけてきた。
「なー。部活の見学行かね?」
「この前行ってなかった?」
「なんか活動禁止日だったっぽくてどこもやってなくてさー。だから行こうぜ!な!」
まだ頷いてもいないのに、サッチは俺の手を引いて教室を出た。
「マシューは気になってる部活無いのかよ?」
「別にどこでもいいかなって。入らなくてもいいし。」
「もったいねーよ!折角の学生生活なんだからな!」
そう言われると確かに入った方がいいように思えてきた。
いやでも気になる部活ないんだよなー。
「まずは運動部から行こうぜ!」
最初に行ったのは馬術部だった。
サッチ曰く、貴族っぽくてかっこいいとのことだ。
「キミッ!馬は我々の足となるものだッ!丁重に扱うのだよッ!」
あまりに貴族感が強すぎて、早々に退場した。
次に行ったは競歩部だった。
その名の通り、永遠に校庭を一定速度で歩いていた。
一種の恐怖を感じ、これまた退場した。
「…文化部行くか!文化部なら変なの無いだろ!」
「だ、だよね!」
だが、文化部は活動している場所がかなり分かりづらく、あまり見つけられなかった。
最初に見つけたのは先生方を見守る会だったが、これは名前からして既に変だった。
「やはり世界を救うのはキャロル先生のあの素晴らしい肉体ッ!そしてあの知的さ!」
「保健室の天使ことヴァンス先生。彼が一度も外したことのない手袋の下には、一体どんな叡知が隠されてるというの…?」
「あまり生徒と関わらないことから、不法入国民や他国のスパイと言われてるイリオス先生。でもその謎に包まれている感じがまた良い!」
「学園長が一番。」
「あの老人のどこがいいのよ。」
「よしきた、表に出ろ。決闘だ。」
よし、退場だ。
「…やっぱキャロル先生って胸でかいよな…。」
「サッチは黙っとけ。」
最後に行ったのはお茶会部だった。
これは行きたくて行ったわけではなく、気付いたらいたという感じだった。
それも何故か、ティーカップを片手にサッチや他の生徒と机を囲んでいた。
「サッチ様は本日はどこからいらっしゃったの?」
「え、あ、えっと、教室からです。」
だろうな。
それだったらここにいる生徒全員教室から来てるわ。
「マシュー様は?」
ボケか?
いや、真面目に返すべきか?
腹をくくれ、マシュー!
「…俺も教室からですかね…。」
冷たい視線が突き刺さる。
俺は二択を外したのだ。
「…帰ります…。」
「まてまてまて。俺を残して帰るな。」
お茶会部…恐ろしい…。
二度と近づかないようにしよう…。
「なんか変な部活ばっかだなー。」
「本当にな。」
諦めて俺たちは寮に向かっていた。
「…朝ぶりだな。」
「アルヴィン先輩!」
声をかけてきたアルヴィン先輩は、制服ではなく運動着を着ていた。
「マシュー、この人だれ…?」
サッチが俺の耳元で囁く。
「一個上のアルヴィン先輩。アルヴィン先輩、こちら同級生のサッチです。」
「アルヴィン・ヒルディッドだ。」
「サッチ・ペレスです!よろしくお願いします!」
「ああ、よろしく。」
アルヴィン先輩は運動をしていたのか、額にある汗を拭った。
「運動ですか?俺も体を動かすのは好きです!」
流石サッチ、ぐいぐい行くな。
「今は部活で学園を一周中なんだ。」
「え、何部なんですか?!」
「剣術部だ。」
「剣術部は基本何を?」
「素振りをしたり、模擬戦をしたりだな。」
「マシュー、俺剣術部に入るわ。」
「いや決めるのが早い。」
えー、だってー、など言いながらサッチは俺を小突いてきた。
「今までの部活の中で一番マシじゃないか?」
「それは本当にそう。」
アルヴィン先輩も入ってるなら信頼できる。
「入部希望なら部長の所に連れていくが。マシューはどうする。」
「あ、俺はまだ大丈夫です。」
「そうか。」
アルヴィン先輩は俺たちに背を向けて走り出した。
そういえば学園を一周中って言ってたな。
あっという間にアルヴィン先輩の背中は見えなくなった。
「…あの速さの人についていけと?」
「もうついていけないぐらい遠いけどな。」
サッチも全速力で走り出し、この場には俺一人になった。
流石に疲れたので、寮に向かってまた歩きだした。
流石にどっかの部活には入ろうかな…。
先生方を見守る会とか、ちょっとだけ面白そうだよな…。
「呼んだ?」
「呼んでないです。」
拗ねた顔をして、見守る会の人は去っていった。
いやどこから現れた。
何故俺の考えてることがわかった。
やっぱり、先生方を見守る会はやめておこう…。
寮に戻ると、寮母さんから手紙を渡された。
宛名には『マシューのお母さん』と書かれていた。
なんで急に手紙?
部屋に戻り、内容を確認する。
まず、あなたの学費について…
あ、学費!!
そういえば手紙を送っていたのをすっかり忘れていた。
闇金に手を出してないかだけ知りたい。
学費については大丈夫!
あなたの叔父さんが学費を全額出してくれてね!
だから大丈夫!
叔父さん…?
俺が産まれた日に家を飛び出し、そのまま音信不通となったあの叔父さん…?
とりあえず闇金に手を出していなかったことに安堵し、手紙を机の上に置いてベッドに突っ伏す。
そのまま見事に寝た俺は晩ごはんを食べ忘れ、気付いたら朝になっていた。
ネモさんには失踪でもしたのかと思われていたと、後からアルヴィン先輩から聞いた。