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学園の些事  作者: 道兵衛
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0話 いってきます

日差しがカーテンの隙間から差し込み、目元を照らす。

いつもは起きれず二度寝してしまうが、今日は恐ろしいほどの目覚めの良さだった。

ベッドを抜け出し、部屋を出て洗面所へ向かう。

冷たい水で顔を洗えば気持ちも引き締まり、一日を始める準備はもう完璧になった。

一階に降りる階段の途中から、朝食の匂いが鼻の中をくすぐる。


「おはよう、母さん。」

「おはよう、マシュー。」


椅子に座ると同時に、母さんが次々と料理を運んでくる。

採れたての野菜に、昨日おばさんから貰った卵で作った料理などが机の上に並べられていく。


「…なんか、朝ごはんにしては多くない?」

「そんなことないでしょ!今日は入学式なんだから、体力つけて行かないと!」


母さんも椅子に座り、思い出したかのように手を叩くと、父さんを起こしに行った。

しばらくすると、目を細めまだまだ寝起きの父さんが母さんに連れられてやってきた。


「そういや、今日はマシューの入学式か。道理で朝飯が豪勢なわけだ。」

「なに、忘れてたの?」

「そんなわけないじゃないか!ハハハ。」


母さんと、少し焦り気味の父さんも椅子に座り、手を合わせて朝の祈りをする。


「じゃ、いただきます!」


合図と共に父さんが次々に肉料理を口に運び、俺も負けじと対抗する。


「入学式って、父さんもついてった方がいいのか?貰った手紙には父母参加自由って書いてあったと思うんだが、」

「あなたは今日の朝は梨農園で水やりでしょ。行くとしたら私ね。」

「息子の晴れ舞台なんだから、俺も行ったっていいだろ!」

「まあまあ、落ち着いて、」


朝から口論をする二人を見て、この痴話喧嘩が結婚生活の長続きの秘訣なのかな、とご飯を食べながら適当に考える。


「ごちそうさま。着替えてくる。」


食器を台所に置き、騒がしい両親を無視して部屋に戻る。

棚を開けると、まだ一度も触れていない新品の制服を見つけた。

恐る恐る手に取り、制服の匂いを慎重に嗅ぐ。

新品の服って全部同じ匂いがするけど、この制服はもっと特別な匂いがする気がした。

寝間着を脱ぎ、体にぴったりと合う制服に身を包む。

なんとも言えない感情になり、全身鏡の前で一回転してみたり跳んでみたりする。


「新入生のマシュー・ペリーです!」


ふざけて声に出したあと、照れ隠しに一階へ駆け降りた。


「おおお!似合うじゃないか!」


格好を見た父さんに背中をバシバシと叩かれたが、不思議と痛くはなかった。

母さんは感動して泣いていた。


「しっかしよく入学できたなあ。試験?ってやつ、難しかったんだろ?」

「そこまでだったよ。」

「流石俺の息子!立派に育ったなあ。」


嘘だ。本当は、馬鹿みたいに難しかった。

正直言って、なんだこれ?みたいな問題ばかりだった。

選択式の問題だったのが不幸中の幸いだった。


「ここから学園は遠いから寮生活になっちゃったけど、マシューは大丈夫?心配事とかない?」

「それ聞いてくるの何回目?大丈夫だって、心配しないで。」


母さんはまだ涙が止まらない状態で、奥の部屋から鞄を引っ張り出してきた。


「これに下着とか、生活必需品とかいっぱい入れたからね。」

「うん。ありがと、母さん。」


鞄を受け取ると、今度は父さんも泣き出した。


「立派になって帰ってくるんだぞ!お前はペリー家の誇りだ!」

「はいはい。休みには帰ってくるから。」


玄関に向かい、足によく馴染んだ靴を履く。

この靴も結構履いてるし、今年の誕生日のおねだりは新品の靴にしようかな、なんて考える。

つま先で地面を軽く蹴り、一呼吸置いてからドアノブに手をかける。


「いってきます!」

「「いってらっしゃい!!」」


母さんと父さんの笑顔をちゃんと見てから、扉を閉める。

朝方だからか、外の空気はまだまだ新鮮な気がした。

こういう日は、梨がよく育つ。

俺はこれから通うオリエンス学園に想いを馳せながら、目的地に向かって歩みを進めた。

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