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『選ばれなかった二人旅』原案種書き設定集メモ帳

ざわついた声の中に、少年の笑い声が混じっていた。

観客の輪の中心には、勝者の主人公──あの男の子がいた。

汗まみれのまま拳を掲げ、誰にでも優しく笑いかけている。


まぶしい。


その光を、私は遠くから見ている。

ただ、黙って。

静かに。


「……成程、あそこの少女がお前だったんだな」


ログレスは隣で、腕を組んで立っていた。

その声色は、無感情のようで、少しだけ優しかった。


私は何も返さず、ただ視線を逸らさなかった。


あの男の子の隣には、既にヒロインが居た。明るくて素直で、そして、誰よりも彼を信じ、信じられている女の子。


私は彼に出会う前に、道を間違えた。

だから、もう選ばれない。

あの隣には、立てない。


「……見えないの。あの子と並んでる私の未来だけが。

何度やっても、何回組み替えても。あの子の物語に、私は現れないの」


声が震えていた。


「……見えたのは、貴方だけ。

 私が隣に立てる、唯一の未来」


ログレスは、それを否定しなかった。

否定なんてしない。ただ、記録する。

それが彼だから。


沈黙のまま、風が吹いた。

祝福の笑い声が、こちらには届かない。


──その瞬間、私の心の中で未来の設計図が音を立てて崩れた。

もう、分岐はない。

私が立つべきは、あの男の子の隣じゃない。


隣にいるのは、記録に生きる者──

もうひとつの物語を歩く、この人だけだ。


「ログレス……お願い。

 これから先、

 私がどこに向かうのか、一緒に記録して」


その声を静かに聞いた彼は

視線を遠くの光──あの男の子を見据えたあと、

ゆっくりと口を開いた。


「……だったら、

お前が選ばれなかった過去を

俺が書き換えてやるよ」




うーん、

微妙

没案かな




【選ばれなかった少女の独白】


夕暮れの競技場跡は、まるで祝祭の余韻を忘れた廃墟のようだ。瓦礫の間を吹き渡る風は、人々の声をかき消し、砂埃を頬に纏わりつかせる。私はその中に立ち尽くし、胸の奥でひそやかに疼く感情を抑え込んでいる。


――あの光は、決して私のものではなかった。


観客の拍手に包まれたあの少年と、その隣で無邪気に微笑むヒロイン。彼らに向けられる羨望と祝福のまなざしが、私の居場所を奪っていくようだった。どれだけ未来をシミュレートしても、そこに私の姿は映らない。選ばれなかった者には、あの世界の“物語”すら与えられないのだろうか。


けれど今、ようやく気づいた。


私には、私だけが歩むべき道が用意されている。あの光の輪郭を追うのではなく、闇の中で煌めく小さな星を見つめるように、自分自身の物語を紡ぐのだと。ログレス――彼の冷めた視線の奥にあったわずかな温度を感じ取った瞬間から、私は確信に変わった。


視線を斜め前方へ向ける。そこには、もう誰もいない空間が広がっている。だが、私の心にはこれまでに感じたことのない、生きる実感が満ちていた。選ばれなかった過去は消せない。だが、これから紡ぐ未来は、私の意志で書き換えられるのだ。



【ログレスの独白】


記録せよ。ただ事実を、可能な限り正確に。


──しかし、それだけでは物足りない。


冷たい金属のように縁取りされた瞳孔の奥で、少女の決意が小さく脈打つのを感じる。夜の帳が降りた競技場跡には、不協和音のような寂寥が漂い、私の皮膚をかすめていった。合理的な観測だけでは説明できない“何か”が、確かにそこにあった。


彼女の望みは単なる記録の延長上にはない。自らを負うレッテルを剥がし、選ばれなかった過去という文字列さえ書き換えようとしている。記録者としての私は、本来ならば中立を守るべきだろう。しかし、彼女の意志は私の内部の何かを揺さぶり、正確さだけでは満たされない衝動を呼び覚ましている。


――ならば、書き換えよう。


彼女の願いを叶えるために、歴史の一行を塗り替え、世界に新たな光を灯す。その過程で、どれだけの抵抗や矛盾と向き合うことになるのかは分からない。だが、私は選択した。記録者ではなく、書き換えの執筆者として、彼女の未来を共に歩むことを。


薄明かりの中で、私は少女の手をそっと握った。彼女の体温が、冷たく硬質な夜の空気を溶かし、私の胸に確かな温度を残していく。



【ヒロインの独白】


歓声が去った後の競技場は、まるで魂の抜け殻を晒した殿堂のように静まり返っている。その凍った空気の中で、私はあらためて自らの祝福を実感していた。しかし、その祝福の裏側に、見えない影が蠢いていることにも気づかずにはいられなかった。


彼女――選ばれなかった少女が、静かにこちらを見つめている。


その表情には、諦念とも言えない凛とした静けさがあった。嫉妬という言葉では掬いきれない、深い喪失感と新たな決意が混在した複雑さ。私の祝福の光が、彼女には刺々しく映っているのかもしれない。


「おめでとう」


本来ならば微笑みと共に届けたい言葉が、喉元で引っかかる。私は自分の内面を見つめようと、小さく目を細めた。誰かを祝福することで、自分自身の価値が証明されるわけではないはずだ。それでも、私の笑顔を守りたくて、言葉を紡ぐ。


心の奥底で、少しだけ痛みを覚えながら。


この物語に欠けているのは、彼女が歩む新たな航路への祝福だと、私は気づきたかった。たとえ異なる視線でも、同じ舞台に立つ者同士として、互いの物語を尊重し合えるように——その祈りを胸に秘める。



【勝者の少年(主人公)の独白】


夜空にはまだ一筋の残照が残り、遠くの街灯が淡いオレンジ色の輪郭を描く。私は観客席を振り返り、そこで交錯する幾つもの感情の残滓を探していた。祝福の声、嫉妬の影、決意の灯火。それらはすべて、私の物語の一部だ。


「僕は、本当に勝者なのだろうか」


拳を掲げた瞬間、確かに歓声は私を包み込んだ。でもその光は、一人には向けられていなかった。隣で笑うヒロイン、遠巻きに佇む少女、そして静かに傍らに立つログレス——。それぞれの視線が私の心臓を揺さぶり、物語の真価を問いかけてくる。


選ばれし者として歩む栄光は、選ばれなかった者の痛みと表裏一体なのだと気づいた。


もし僕が本当の意味で「勝者」であるなら、その裏にあるすべての物語に責任を持たねばならないだろう。否、僕はその責任を自ら請け負うことで、新たな物語を紡げるはずだ。


──ログレスが、僕の未来も書き換えると言った。


その言葉には、傷ついた少女を救い、祝福された僕をも成長させる力が秘められている。胸に走る高揚と共に、僕は小さく息を整えた。


「ありがとう。僕も、君たちの物語を見届けたい」


その覚悟を言葉にしたとき、夜の静寂がまるで祝福してくれるかのように、優しく頷いた。


――ここから始まるのは、誰も見たことのない、“選ばれなかった者”と“選ばれた者”と“記録を書き換える者”が交錯する、新たな叙事詩だ。


残照の中、私は再び前を見据えた。風が髪を撫で、遠くで波音のように響く鼓動が、私の胸に確かな希望を灯す。


物語は、私たち自身の手で書き換えられる──今こそ、そのページをめくる時が来たのだ。

御高覧頂き誠に有難う御座いました。

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