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第14話 揺れる秩序と、禁忌の気配(五行部隊side) 

五行部隊の一室。

中央に置かれた円卓には各隊の隊長・副隊長が集まり、それぞれが書類の束をめくる音と囁くような会話が広がっている。

中央の灯りが微かに揺れ、辺りを照らしていた。


「では、これより本日の部隊長副隊長会議を始めます」


静かに進行の言葉を述べたのは、水の隊長 流慧るき

穏やかだが一切の無駄を削ぎ落としたその声音に、場の空気が引き締まる。


「本日の議題は先日の夜会事件について。

まずは、現場確認を行った金の隊、報告を」


立ち上がったのは、金の隊副長・黎久れいく。杖剣を軽く傍らに置き、淡々と告げる。


「調査報告いたします。夜会にて倒れた人数は十名。

いずれも、高位貴族。調査の結果、過去に何らかの妖怪事件への関与、もしくは縁を持っていたことが判明しています」


静かなざわめきが走る。


「なお、この事件にて、当隊調査時点で目覚めた令嬢が一人。資料10ページ目。柊 澪奈公爵令嬢です」


場が再び静まる。


「当隊の隊員が、柊嬢より聞き取りを行ったところ、倒れる直前、何かが割れる音を聞いたとのことでした」


「音……?」


土の隊副長・律貴りつきが眉をひそめる。


「しかし、現場にて割れたグラス等は確認されておらず、舞踏中だったという状況を踏まえても、明確な音源は存在しなかったと確認済みです。」


「その他、倒れた者の衣服や髪に、揮発性の香の痕跡を確認しました。ただし、調合が特殊で現行の香水類とは一致せず……」


「古い記録にしかない、香の可能性を考えています。

妖の力を封じる香かもしれません。……それを使った妖が夜会に紛れ込んでいた可能性があります。その場合、かなり知能の高い妖が絡んでいる、かと」


円卓がざわめく。何か記憶に引っかかったのか、

眉をしかめ、考え込んだ者達もいた。


黎久が淡々と報告を続ける。


「しかしながら、まだ断定はできませんので、引き続き成分を洗い出します。現場検証、聴き取り調査についても、それ以外で特に異常な点は見つかっておりません。進捗あり次第またご報告します。以上です」



「……それでは、木の隊。倒れた被害者の経過、及び柊嬢についての調査報告をお願いいたします」



木の隊副長 紡生つむぎが黎久と入れ替わるようにすっと立上り、ゆるやかに口を開いた。


「はい。まず、夜会にて倒れた九名についてですが、いずれも心の器に深刻な損傷が見られました。抉られたような痕跡があり、いわゆる喰われた痕に似通っています」


「現在、紡ぐ処置によって三名が目を覚まし、意識も安定しています。経過観察は継続中。残る六名についても治療中ですが、後遺症が残る可能性は否定できません」


「……それと、柊 澪奈公爵令嬢について。彼女は唯一、治療を施す前に自力で目を覚ました者です」


室内が微かにざわつく。


「……紡ぐ処置なしに?」


「はい。柊嬢は倒れた三日後には意識を回復し、その翌日には通常行動に戻っています。現在は経過観察のため我々の施設にも訪れており、治療協力の一環として先の被害者である別の令嬢とも面会をしていただきました。そこで……」


僅かに言葉を切ると、紡生は視線を正面に据えた。


「柊嬢は、心の器を視ることができ、かつ音を聴く能力を有していることが判明しました」


ざわっ——と、円卓が騒めく。


「一般人で?」


「……音が、聞こえるだと?」


「はい。しかもその視認・聴覚能力は、木の隊でも高位の術者でなければ到達しえない精度です。彼女は、器の細かいヒビまで見えていました。おそらくは、本人に自覚はないものの、適応力が極めて高いと見てよいでしょう」


淡々とした紡生の語りを聞いて、室内にほんの僅かな驚嘆が漏れる。


「音が聞こえる、というのも……かなり稀な例ですが存在します。

ただし……柊嬢の場合は、心の器に穴が空いていることが、一因かと考えられます。

ちなみに、金の隊で先に報告された割れるような音についてですが。恐らく、あれは欠けた器同士の共鳴によって生じた共鳴音である可能性が高いと考えます」


「共鳴……?」


「器に穴が空いた者同士が、近くにいた際に反応する現象です。彼女の場合、その穴が、目覚めの鍵になった可能性もあるかと」


「穴が、あいている……? 目覚めているのに、か?」


紡生は頷いた。


「はい。見た目には、心の器を喰われた者とよく似ていました。ですが、何かが違う。

あえて言うならば——くり抜かれたような。

しかも、その傷口は不思議と安定していて……まるで、自分で均衡を保っているように。あるいは、誰かに守られているようにも、感じられました」


「それは……まさか……」


「本人に《紡ぐ治療》を提案はしました。

ですが、今のところ、自身に明確な異常があるという自覚はありません。

よって、処置は本人の意思次第です」


室内には沈黙が戻った。

その静けさの中で、誰かが小さく呟いた。


「……これが、禁忌の成れの果てか」


誰の言葉ともつかぬ重みが、空気を揺らした。


——そして。


火の隊、土の隊が、椅子を軋ませる音とともに、ゆっくりと動き出す。


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