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第0話 昔々、この世界に

昔々、世界はふたつに分かれていた。


現世うつしよと、幽世かくりよ


一方は人の暮らす場所。

もう一方は――

人の感情や信仰、恐れや祈りが形を成した、妖の住まう世界。


妖怪とは、本来人の心から生まれたものだった。

強い想い、忘れられた悲しみ、語り継がれた恐怖。


それらが、かたちを成して生まれ落ちた存在たち。

ゆえに彼らは感情に引き寄せられ、心の器に触れ、

ときに欠片を喰らい、ときに繋ぎ、ときに棲みつく。


むかし、世界はもっと近かった。

人と妖が交わり、言葉を交わし、ともに生きた時代もあったという。


けれど、感情は、ときに争いを呼ぶ。


人の恐れが妖を歪ませ、妖の悪意が人の村を焼いた。

争いは続き、お互いの違いを恐れた末に、

世界はふたつに引き裂かれた。


そして、ある時。

二度と争わぬよう、結界が張られた。


それは神の導きとも、妖の慈悲とも云われている。


いつしか人々は、信仰を込めて神社を建て、

境界を守る祈りを捧げるようになった。


 


――それは、ひっそりと語り継がれるおとぎ話。


 


教科書の端に書かれた、歴史の片隅。

子供向けの絵本に描かれる、ちょっと怖くて、どこか懐かしい物語。


けれど今も、噂は残っている。


「あの神社、夜にひとりで行っちゃだめだよ」


「逢魔が時には、向こう側が覗いてくるからね」


「暗い道では後を振り向かないように――」


 

街には今も、妖怪という言葉が残る。

五行隊という組織が、禁忌を管理しているという話もある。


もちろん、実際に見たことがある人は、ほとんどいない。


だからこそ、

彼らは影のように、この世界に紛れている。


――たとえば、貴族の屋敷の廊下の影に。

――誰かの心の隙間に。



そして現代、

静かに眠っていたはずの境界に、微かな揺らぎが生まれ始めていた。

神社に灯るはずの祈りは薄れ、

あふれる感情は、再び妖を呼び寄せる。


それは偶然か、それとも――

人知れず、世界は侵食されつつあるのかもしれない。


 

これは、とある令嬢の物語。

心の欠片と、巡る縁を辿る、ひとつの幻想譚――。



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