第九話 結婚するって本当ですか
昭和のいつか。どこかの次元にある大陸。季節は乾季。
市場を一通り見て回った俺たちが宿へ戻ると、食堂で上機嫌で酒を飲んでるジャバがいた。
「がっはっは。お前達も飲め! そして食え。俺の奢りだ」
席に着くとジャバは小声であの剣がかなり高く売れたことを教えてくれた。素人の俺からしても凄い剣だし、順当な結果だろうさ。
「そりゃ良かった。じゃ遠慮なく」
黒瀬が酒と食べ物を頼む。
「おい黒瀬、お前酒飲むのかよ」
「ああ」
「お兄ちゃんは、夜になると自転車で缶ビールをラッパ飲みしながら徘徊するんですよ」
ふとその情景が目に浮かぶ。コントかよ。
「いつもってわけじゃないぞ。呑みたい気分の時だけだ」
「……黒瀬って呑兵衛だったか。俺はいいや」
「ここは日本じゃない。飲めばいいじゃないか」
「飲まねぇよ。飲みたいとも思わん」
子どもの頃、親父が面白がって俺にビールを飲ませたことがあるが、苦くてまずくて大人はなんでこんなもの喜んで飲むんだって思ったものだ。
「ほう、クロセ、お前はいけるクチか」
「にごり酒みたいなこれ、結構いけるよ」
黒瀬とジャバは盛り上がる。よし、呑助同士で盛り上がってくれ。瑛子と翠も酒は飲まないらしく、雑炊みたいなのを美味しそうに食べてる。全く知らない味付けなんだけど、不思議と美味いんだよな。
「それでジャバ、街はどうなんだ?」
「思ったよりはいつも通りだな。ここにいる庶民にとっちゃ姫巫女は遠い存在だ」
「予定通りしばらくいるんだな、ここに」
「ああ。三日は商売をする。帰りの護衛も頼むぞ」
「……」
「どうした?」
不意に黙り込んだ黒瀬にジャバは怪訝な顔になる。
「まだ未定だが、今は返事できないんだ」
「ここに住むのか?」
「わからない」
俺たちは日本に帰らなきゃならないから。
「わかった。クロセ、前日までには返事をくれ」
「すまんな」
「いいさ。腕のいい護衛は貴重なんだ」
翠が質問する。
「やっぱり物騒なんですか?」
「ああ、俺たち行商は盗賊のいいカモさ。特に売上を持って帰る時が一番狙われやすい」
あの広大な砂漠。頼れるのは自分のみってわけだ。時代劇や西部劇でも山賊や野盗が当たり前のように登場するのを思い出す。治安の良い現代日本万歳!
食事を終え、部屋に戻った俺たちは全員でミーティングだ。
当たり前のように俺の隣へ、しかもくっつくように座る翠。おい当たってるんだよ。
頼むからもう少し離れてくれ。
視線を感じると黒瀬と目があった。笑うな。
「お似合いだなって」
「やめてくれ……」
「山下喜べ。日本に帰る手段に目処がついた」
「ほんとか?」
思いの外早かった。
「ああ。俺たちをこっちに飛ばした術を扱えそうなやつに目星をつけたからな。あとはどうやるかなんだが、山下」
「ん?」
「お前、工藤とここで結婚式を挙げてくれ」