第二話 高校三年生の非凡な放課後
【完結】俺が通ってた高校は人外だらけの魔境だった
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この作品の第二章となります。
※不定期更新の予定です
昭和のいつか。どこかの街にある高校。季節は春。
六時限目の数学、そしてホームルームが終わり、担任と入れ替わりに教室へ入ってくる奴。
黒瀬だ。
数学の授業は必ずサボる。仮病使って保健室で寝ているとは本人の弁だ。
「お前さ、毎度数学サボって受験は大丈夫なのか」
「問題ない。俺、進学しないし」
「マジか?」
普通科の県立高校に通う俺たち。卒業後の進路、基本は進学だが、就職する生徒もいなくはない。一学年が約四百人、そのうち数人ぐらいだ。
「どこに就職するんだ?」
「もう決まってる、というか既にそこで働いてるんだよ」
「バイト?」
「そうだな」
「聞いてもいいか?」
「後で教える。それよりさ、山下」
「どうした?」
「今日、ちょっとだけ付き合えよ」
「ん?いいよ。レコード屋か?」
俺たちはヘビーメタル派なのだ。
「いや、屋上だ」
「屋上?」
「ちょっと見てもらいたいものがあるんでね」
黒瀬は時々、同級生とは思えない妙に大人びた雰囲気になる。
こんな時のこいつには何となく逆らえない。
「それはいいけど」
「お待たせ」
「よっ瑛子」
「山下先輩に話はついたの?」
「おう」
いきなり俺たちの間に入ってきた女子。黒瀬瑛子。二年で黒瀬の妹だ。
全く似ていない兄妹。
スレンダーで背は高く腰まである長い髪、兄と違って綺麗な顔立ちだ。
「妹さんも一緒ってことか?」
「ああ。さ、行くぞ」
「何があるんだ」
「山下さん、ここは兄の言う通りに」
「あ、うん」
黒瀬とはそこそこ付き合いあるが、妹と話したのは初めてだ。この子も有無を言わせない雰囲気だぞ。
三人で屋上へ上がると、黒瀬はカバンから双眼鏡を取り出した。双眼鏡に詳しくはないが、やたらゴツくて一般的なものじゃないってのだけは分かる。映画で見たことあるような……。
「なんだそれ。覗きでもするのか?」
「お前と一緒にするな。よっと」
黒瀬は手すりに肘を当てがい、双眼鏡を覗きこむ。
「倍率を上げるからこうやって固定しないと酔うんだ」
「使い慣れてるんだな」
「まあな。よし! ピント合った。山下、見てくれ」
「俺?」
黒瀬の言うがままに、双眼鏡を覗き込む。
視界には細かい目盛りや数字が見えるけど、双眼鏡ってこんなもんか? テレビや映画じゃ見かけないぞ、こんなの。
見えてきたのは……翠だった。
少し先にある小山の頂上にある公園だ。
少し先ったって一kmぐらいはある。
あれだけ遠いのにここまではっきり見えるのかこの双眼鏡は。
ん?
翠の他にもう一人。
佐藤優子だ!
向かい合って何か話している。
「山下、見えるか?」
「ああ。翠と佐藤さんが公園で話をしてるよ」
黒瀬、お前は何がしたい?
「この双眼鏡すごいな。あんな遠くまで見えるんだ」
「だろう? しばらくあの二人を見ててくれ」
「……わかった」
こいつがここまで真剣な顔をするんだ、何かがあるんだろう。
すると、十人ぐらいの男女ーー同じクラスのやつらだーーが、翠のそばへやって来たかと思うと、一斉に佐藤優子へ襲いかかった!
それを佐藤は、まるで合気道のような動きで次々とクラスメイトを地面へ転がしていく。
翠、お前は何をしている?
お前って裏のスケバンか何かなのか?
そうとしか思えない光景。
後から来た生徒達は全員、佐藤優子が倒した。
そもそもあいつらそんなことするやつらだったか?
それに佐藤のあの強さは何だ?
そして。
翠と佐藤の姿が消えた。
双眼鏡から目を離し、瞼を擦ってまた覗く。
無人の公園。
さっきまで見えていた二人が見えない。
「山下、大丈夫だ。すぐに見えるようになるから」
「黒瀬、何なんだ。俺は何を見せられている?」
「お前はあまり取り乱してないから助かるよ。もうすぐそれが分かる」
黒瀬の言葉通り、佐藤によって地面に押さえつけられ翠が一瞬にして現れた。
おい……翠……なんだその顔……。
「済んだみたい。じゃ行くね」
黒瀬の妹がそう言った途端に目の前の景色が変わる。
俺がさっきまで双眼鏡で覗いていた公園。
おい?
何が起こった?
一瞬で移動した?
どうやって?
でもそれどころじゃない。
目の前で起きていることが異常すぎて、そっちに意識が向かう。
地面に転がっている生徒達、そして翠翠を押さえつけている佐藤優子。
翠の目は猫のように瞳が縦長で、制服とスカートからのぞく手足は茶色い毛で覆われていた。
「がっ! た、隆晴っ!」
俺に気づいた翠がこっちに顔を向けた際に見えた口の中。
鋭い牙が生えている。
翠、お前、何者なんだよ……。
まるで。
まるで猫じゃないか。
「あれの影響はほぼ無いわね。小さな欠片だったんでしょう」
澄ました顔で佐藤がそう話す。
「山下。これから俺が話す。聞いてくれ」
黒瀬が俺の肩を両手で掴み、俺の目を真っ直ぐに見据えながらそう言った。
「五年前、二つ隣の市で起きた高校沈下事件。知ってるか?」
第二章となる本作品は以前のような『思いつくままに書き殴る→すぐに投稿』スタイルを改め、色々と考えてからにしています。