第十五話 そして平成
昭和のいつか。どこかにある高校。季節は初夏。
鬱陶しかった梅雨も明けて、衣替えの季節になった。
あの出来事から三ヶ月。
俺は何してるかっていうと、俺の部屋で翠と勉強会やってるとこだ。
もっぱら翠が俺に教える形。情けないことに翠の方が成績は上なんだよな。はぁ。
「黒瀬達は今頃どこにいるんだろうな……」
「隆晴、集中して」
「はい。翠先生」
ぐっと身を乗り出して顔を近づけてくる翠。
思わずその胸元に目がいく。タンクトップにショートパンツ。
最近の翠は目のやり場に困る服装が多い。本人によると『元々服を着ないから、こっちの方が楽なんだ』とのことだが、視線の行き場に困るんだよ。
「あのさ翠、ちょっと休憩しよう」
「もぅ。しょうがないなぁ」
「昨日別れの挨拶したばかりだし、黒瀬達のことを気にするなって無理があるぞ」
俺は昨日のことを思い出す。
黒瀬と佐藤優子が欠席だったので、俺はすぐに気がついた。
あぁ。その日が来たんだなと。
六限目が終わり、ホームルームにて担任が二人の転校を伝える。ざわざわするクラスメイト達。特に佐藤優子ファンの男子達はかなり動揺して、顔色が悪くなる。
それよりさらに五日前。
俺と翠は黒瀬の家に呼ばれた時のこと。
「山下、こっちでの後始末は終わったよ」
「そ、そうか」
「もう心配はいらない。完全に潰したから」
さっぱりした笑いを浮かべた黒瀬は、どこか疲れて見えたんだ。
「あっちへ帰るのか?」
「そうだ。しばらくは、な。またどこかの街へ行くことになると思う」
こいつは、黒瀬はずっと異界の神が残した残党を処理していくのだろうか。
「寂しくなるな。たまにはこの街に寄ってくれよ」
「気が向いたらな」
「来るのは一瞬だろう?」
「おう。瑛子パワーでな。工藤、もう心配はないとは思うが、山下のこと頼むよ」
「う、うん」
黒瀬がニヤリと笑う。
「二人揃って地元の国立大に行くんだろう?」
「まっ」
「そうだよ! 隆晴はこれから勉強頑張るから!」
「おい、翠」
「一緒に行くの!」
「……へいへい。翠には敵わないな」
「くくく。仲が良くてけっこう!」
ふと真面目な顔つきになる黒瀬。
「山下、前にも言ったが、お前との縁でこうやっていられるんだ。俺のこと忘れないでくれよ」
「わ、忘れるもんかよ。あんなびっくり体験させてくれたお前のこと、どうやって忘れるんだよ」
「だな。この世の裏側を知ったお前は、もう無関係じゃいられない。工藤と結婚まで行くかは知らないが、仲良くしろよ」
黒瀬よ。なんつうこと言うんだ。翠の顔が真っ赤だぞ。
「わかったよ」
「達者でな。あ、これ」
と言って黒瀬は数枚のLPレコードを俺に手渡す。ヘビーメタルの名盤だ。
「やるよ」
「え? いいのか。お前のお気に入りだろう」
「持っててくれ。いつか取りに来る」
「……ああ、そういうことなら」
「俺と佐藤さんが二人揃って休む日が来る。その時にはもう俺たちはこの街にはいない」
「え、そうなのか」
「湿っぽいのはごめんだし」
「そうか。なんと言っていいかわからんが、頑張れよ。無理はするな」
「サンキュ。ほどほどにやっていくさ。多分先は長い」
これが黒瀬との最後の会話となり、言った通り黒瀬達は転校という形でいなくなった。
そして今は平成。
大学を出た後、俺は地元の印刷会社に就職し、営業として一人前になった頃、翠と結婚した。
翠のご両親には『猫は独り立ちした後、何しようと自由』と言われて、結婚式の段取りはスムーズにいった。
娘二人に恵まれた。長女は人間、次女は猫だ。
そんなある日のこと。
会社の昼休憩で、外へ食べに行かず愛妻弁当を持参する俺ともう一人、定年が近い酒巻さん。
酒巻さんはかつてバリバリやっていたが、今はのんびりしていて、俺達も気が楽なんで助かってる。
そんな酒巻さん、食後はいつも自分のノートパソコンでネットを眺めるのが日課だが、今日はいつもと様子が違った。
動画投稿サイトを見ていたと思うけど、突然驚いたように目を見開き、それからモニターをじっと見つめている。
会社は国道沿いにあり、大型トラックがひっきりなしに通るので少々うるさいのだが、騒音に紛れて酒巻さんの独り言が聞こえてきた。
「◯◯じゃ…………。死ん……ないのか……。それに佐藤……も……。どうしてあの頃のまんま……」
「酒巻さん、何か言いました?」
「あ、すまないね、何でもないよ。ちょっとね、動画でさ、知り合いに似た顔を見つけたもんだから」
「へぇ。ちょっといいです?」
俺は酒巻さんのデスクへ近寄ると、ノートパソコンのモニターに表示されている拡大画像を見て驚いた。
場所は今なお封鎖区域となっているあの街だ。物々しい警告看板が設置されているのですぐにわかる。
その警告看板の横に立つ、三人の若者。
あの頃と全く変わらない容姿の黒瀬、佐藤優子、瑛子がそこにいた。見間違いようがない。
酒巻さんは言う。
「この男の子、高校の時さ、仲良かったやつにすごく似てるんだ。隣の女の子達もね。すごい他人の空似だよ」
俺は酒巻さんがこの街の出身だってことを知っている。
「へぇ、そうなんですか。世の中にはそっくりさんが三人はいるらしいですからね」
「そうそう。びっくりしたよ」
懐かしそうにしている酒巻さん。
俺は心の中でそっと呟く。
『まだ戦っているのか? 黒瀬……』
ここまで読んでくださった方、ありがとうございます。
世界線を同じくして物語は続きます。
後ろの席の美少女は……
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次から次へと! 少年魔導士の受難は続く
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