第十四話 衝撃の告白
昭和のいつか。どこかの街。季節は春。
黒瀬は軽く語ったが、その内容は信じられないぐらい───荒唐無稽という言葉がふさわしい内容だった。
どこか別の星を支配してたウサギそっくりな知的生物の女王。
そいつが魂を転送する術を同胞全ての命を消費して発動させて、地球へやってきた。
そして何百年に渡って転生を繰り返し、色んな秘術や妖術みたいなのを学んで、黒瀬達が通ってた高校を地下に沈める。
そこでかつて死んだ同胞の魂を俺たち地球人に転写ひて復活しようとしてた──それを警察と黒瀬達、吸血鬼の強者が阻止した。
そして次に現れた異界の神を呼ぼうとしてる奴ら。
「黒瀬、お前、ただの高校生なのにとんでもない目にあってるじゃないか……」
「まぁ、な。女王と接触して、仲良くなった時から始まってたんだよな」
「一個上の先輩、鈴木留美子か」
俺だったら学校休むぐらいにはショック受けると思う。
「聞いてて思ったんだけど、何故お前たちの高校で立て続けに変なことばかり起きたんだ?」
「それは瑛子が詳しい。頼む」
黒瀬の戸籍上の妹、黒瀬瑛子が語り始める。
「山下さん、簡単に言いますね。鈴木留美子達が最初に異空間と繋げたことで、世界の綻びが出来ました。それは縁と呼んでもいいもので、時間が経つにつれて定着していったわけです」
何となくわかった。怪我をしたところが傷となって残り、それは他と違って脆くなったってことか。
「異界の巫女を名乗る河野涼子が言うには、彼女にそれを唆した存在がいる。これはおそらく、こっちの世界の神かそれに近いもの」
「えっ? 神が? なんでだよ」
神様って人の味方じゃないのかよ。
瑛子は黒瀬に視線を向けたから、交代のようだ。
「山下、神はな、俺たちより高次元にいる存在だ。彼らからすれば、俺たちの価値観や倫理観なんて、本来関係ないものなんだ」
「さっぱりわからん」
「俺にもわからん。ただイメージは出来る。例えば、細菌があるだろう?」
「あぁ、あるな」
保健体育や生物で習ったコレラやペストといった各種病原菌、身体の中には腸内細菌など、地球上には細菌が溢れかえっている。
「お前はその細菌達のことを気にかけたことあるか?」
……俺は二の句が告げない。
「俺も意識すらしたことないさ。細菌たちから見れば、俺たちがしていることはどうなんだろう? 俺がアルコールをうっかり地面にこぼしたとする。そこらにいる雑菌の大虐殺だが、当然俺はそれにすら気付いてない」
神からすれば、俺たち人類なんて取るに足らない、意識すらされない存在か。
「俺たちと神はそれぐらいかけ離れた存在ってこと。たまたま瑛子は、人に寄り添うタイプの神だからあの街を守ってくれている」
神社に祀られてる神、人と関わりがあるということだろうか。
「それとは関係なしにやりたいことやる神もいるってことだ。だから異界の神をこっちへ誘い込もうとする。目的なんかわからないけどな」
どうにもただの高校生である俺には重たい話だ。
「黒瀬……お前はそんなのを相手に……」
「最善を尽くすだけさ。俺は縁によって結ばれて、この手のことに組み込まれたからな。そう簡単に負けるわけにはいかないさ。心強い味方も多いんだぜ?」
そう言った黒瀬は、俺よりずっと年上で、大人みたいだった。大人びてるんじゃない、大人なんだ。
「山下、お前も工藤と縁を結んだから、何も知らないままってわけにもいかなくなった。別に戦えとは言わん。工藤を大切にしてくれればそれでいい」
言われて翠を見つめると、彼女は俺を安心させるように微笑む。
「隆晴が危ない目にあわないように私、頑張るよ」
「……そうか……」
「そう落ち込むな山下。俺だって守られてばっかりだから」
「あの光る剣を振るってた黒瀬がそんなこと言うか」
「俺は俺に出来ることするだけだよ」
かなわないな。
「次に行くとこは決まってるのか?」
「あぁ。別の高校へ行く。狙われやすいのは俺たちぐらいの年代が一番多いんだよ」
「なんで?」
「思春期だからとしか言いようがない。大人と違って身体と心のバランスが危ういのが集まってる場所──それが高校」
わかるような気がする。俺もこうなる前は翠に対して素直になれないでいたから。
「心配するな、今後はここにも監視と護衛がつく。お前が危ない目にあうことはない」
「監視と護衛?」
「この街の、な。そもそも工藤がお前のそばにいるだけでも大きな安心材料になる」
黙ってた柚木って子が語り出す。
「山下さん、この街上空百メートルに監視衛星も配置していきます。武装も万全。大抵のことには対処出来ますので安心してください」
「え、あ、ああ。ありがとう?」
何だかわからんが、礼を言っておく。
「山下君、黒瀬君と仲良くしてくれてありがとう」
胸の大きな人、飯田さんが頭を下げる。
「あっ、いえ」
「黒瀬君ってマニアックなとこあるでしょう? 語り始めたら止まらないのとか」
「あー」
黒瀬とは主にヘビーメタルについて話すんだが、SF映画のことを話出したら止まらないな。
「飯田、それひどいぞ。俺の語りには意図があってだな……」
「はい、お兄ちゃんストップ。そろそろおやすみの時間だよ」
「お、おう」
「山下さんと工藤さん、同じ部屋でかまいませんよね?」
「えっ?」
「山下、諦めろ。あっちじゃ雑魚寝だったろ、俺たち」
「そりゃぁ……そうだったけど」
「隆晴……いやなの?」
「翠、そんな顔するな。卑怯だぞ」
ご丁寧にパジャマまで用意されてたので、俺は仕方なく瑛子に案内された部屋へ入る。
翠がずっと俺の腕に絡みついてる。
「この部屋は外へ音が漏れることはありません。気にせず話をしてくださいね」
意味ありげに笑いながら瑛子は襖を閉める。
なんだろう……この仕組まれた感は。
布団は別だった。その配慮には感謝しつつ、遅くまで俺は翠とあっちの世界のこと、黒瀬達についてのこと、たくさん語り合い、いつの間にか眠りに落ちていた。
前作『【完結】俺が通ってた高校は人外だらけの魔境だった』を読んでおられたら、かなりわかりやすいと思います。