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第十二話 帰還

 昭和のいつか。どこかの次元にある大陸。季節は乾季。


「ちょっと異界へ渡るのに、あんたとここの術式、そして奴の力を借りたいのさ」


 黒瀬がそう告げた途端、カマキリ神父は後退り、腕を左右に振る。


「あ」 


 強烈な耳鳴りがして、視界が変になる。

 するとどうだ。

 広間の中央に黒いモヤが現れ、それは瞬く間に球状に変化した。


 そして遠くから、いやその黒いモヤの奥から響いてくる呻き声。遠吠えのような、そう鯨の鳴き声にも似ているような。気持ち悪い。吐きそう。


 あれは

 アレハ

 俺は

 オレハ


「隆晴っ」


 (みどり)が俺を抱えるようにして飛び退く。

 黒瀬は光る剣を構え、その黒い球状のモヤを睨みつけていた。


 モヤの中で雷のように光ってるんだが……黒い光だ。

 太陽のように照らす光じゃなく、逆にこっちから熱を奪うような光。


 その中から伸びてくる……触手。

 黒い斑点だらけの灰色、粘り気のある表面の触手が何本も、蠢きながら伸びてきた。

 太さは綱引きに使う極太のロープくらいある。


 この上なく気持ち悪い。

 いやそんなもんじゃない。

 見ているだけで身体が不快なモノに侵される感触。


「隆晴、見ちゃだめ」


 翠 (みどり)に目を塞がれ、抱きしめられた。

 少しだけ不快感がおさまったが、頭の中はグチャグチャで立っているのもきつい。


「我が神の糧となるが良い!」


 叫ぶカマキリ神父。


 飛び出す黒瀬。

 触手を斬りながら前へ前へと進む。

 その動きには一切の無駄がなく、流れるように動いていく。


「瑛子っ。タイミングを合わせろ!」

「うん!」


 モヤに向かって手を翳している瑛子の身体が、黒瀬の剣と同調するかのように光に包まれると、青白い光で何も見えなくなった。足元、床の感触が消え失せ、浮遊感に包まれる。


 光。

 たくさんの光。

 白い色。

 赤い光。

 オレンジの光。

 黄色の光。

 緑の光。

 水色の光。

 青の光。

 紫の光。

 目を開けていないのに感じられる光。


 畳の部屋。

 襖。

 障子。

 木の柱。


 俺たち四人は、広い和室にいる。

 ここは確か瑛子の家だったか。

 佐藤優子がいた。他に見知らぬ女子が二人。驚いたような顔で俺たちを見ている。 


 見知らぬ女子のうち、胸がやたら大きい方の子が黒瀬に抱きつく。


「飯田、ただいま」


 黒瀬はその子に柔らかい笑顔を向ける。


「隆晴」


 俺は(みどり)に抱かれたまま。

 彼女の温もりが俺を安堵させる。

 もうあの不快感はない。


(みどり)、帰ってきたんだ」

「うん」


 日本に帰って来きたという安心感。

 この世のものではない、醜悪なモノを見た恐怖。

 光の空間に感じた驚き。


 今思えば色んな感情が入り混じって、わけがわからなくなった俺はただそうするのが自然だと思ったんだ。多分。


 (みどり)の唇に自分の唇を重ねていた。

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