第一話 高校三年生の平凡な朝
【完結】俺が通ってた高校は人外だらけの魔境だった
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この作品の第二章となります。
※不定期更新の予定です
昭和のいつか。どこかの街にある家。季節は春。
「たーかーはーる! 起きて」
「……ぐうぐう」
「隆晴ぅ、狸寝入りはお終いよ」
そう言って布団を剥がす女子。
隣に住む工藤翠。
俺、山下隆晴の幼馴染を公言して憚らない迷惑な女。
毎日こうやって俺の部屋へ乱入して眠りを妨げるやつ。
緩く波打ったふわふわ髪に大きな目、愛嬌ある顔立ちとスラリとしたプロポーション。確かにクラスの人気投票で二位になるぐらい可愛い……のだが。
だからって調子に乗るな。これが人気投票一位の佐藤優子なら大歓迎だがな。
「ほら早く顔洗って!」
「こんなに早く起きなくても遅刻しない」
「あんたねぇ。目の前に高校、家を出て三分の距離だからって去年まで遅刻魔だったのは誰かな?」
「仕方ないだろ。深夜に映画を流すテレビ局が悪い」
本当はエッチな番組を見てるからだが、翠には口が裂けても言えない。
「呆れた。受験勉強すらしてないの?」
「模試で合格判定Aだった隣県の私立に行くから。親にもそう言ってるし」
「ダメよ! 隆晴は私と一緒に地元国立でないと!」
「何でお前と一緒って決まってるんだよ」
「だって……」
翠は少し顔を赤らめる。
何だそのあざとい顔は。
「顔洗ってくる。その辺のものに触るなよ」
「エッチな雑誌を隠してるから?」
「そんなものない」
見つからないよう偽装は完璧だ。
母親が用意してくれてた朝食を済ませ、玄関のドアを開けると、道路を挟んだ向こうに高校の正門が見える。全校生徒の中で一番学校の近くに住むのが俺ってわけだ。
翠が馴れ馴れしく俺の隣を歩くんだが、これは本当にやめてほしい。
そうでなくても「山下と工藤は将来を誓い合った仲」などと捏造された噂があちこちに広まってるんだ。
教室へ入る。
「よう、山下、工藤。今日も熱々だな」
「熱々じゃねぇよ」
「おはよう。黒瀬君」
「おはようさん」
後ろの席の黒瀬。俺はこいつと何かとつるんでるが、俺と翠の仲を勘違いしてる。
「ほれ翠、さっさと自分の席に行け」
「言い方ひどくない?」
「黒瀬に誤解されるのがいやだ」
「誤解……」
「くくく……」
「黒瀬、何がおかしい」
「もう夫婦だよな」
「違うから」
黒瀬は俺たちのクラスで行われた人気投票一位の佐藤優子と仲が良い。俺のアイドル佐藤優子に近づくなよな。
しかもこいつ、一学年下、つまり俺たちは三年だから二年にえらく美人の妹がいる。
その妹と仲良さげに登下校しているのも腹が立つ。
俺にも中学生の妹がいるが、あいつが同じ高校に入ったとしても仲良く登下校なんてありえない。
ふと視線を感じて窓際の方を見ると佐藤優子と目が合った。
おお!
今日は何か良いことがあるぞ。
そう言えば昨夜のラジオ、人気の占いコーナーで獅子座は今月恋愛運が上昇って言ってたもんな。
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『完璧な記憶操作してるな』
(そうね。山田さんも驚いてたわ。狐に匹敵する幻術みたいよ)
『俺たちに気付いてるかな?』
(それはないと思う。瑛子ちゃんの防護は完璧だから。気付いててあの態度はないでしょう)
『それもそうか。ひとりが狙いなのか、それとも周囲も巻き込むか』
(あそこまで強い力を持ってるなら……後者の可能性が高いでしょうね)
『うわぁ……面倒だな』
(ぼやいてないで、お仕事はちゃんとしないと)
『へぇへぇ。佐藤さんにはやっぱり頭上がらないな』